ミイラ取り
【ミイラ取り 3】
[天手古舞 2nd Anniversary]
はたけカカシがある中忍にハマった。
そんな、愉快で気味の悪い噂が流れ出したのは数日前。
昼下がりの上忍待機所で猿飛アスマは気味が悪いほどに機嫌のいい噂の主を前に、芳しい紫煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
よく味わって吐き出す仕草が、3代目火影と似てきたのは血のせいだろう。
カカシとアスマがこうして顔を合わせるのは、噂の流れ出す前だった。
それから僅かの間に、一体何が起ったのか。
興味はあるが、聞くに聞けずにいる。
巻き込まれるのはゴメンだった。
「なに? なんか聞きたそうじゃないの?」
けれど、カカシのほうから水を向けてきたのなら、訊ねてやらねばならない。
でなければ、独り言と称する知りたくもないし、聞きたくもないことをぐちぐちと語られることになる。
「テメエが言いたいだけだろうが」
覚悟を決めて促してやれば、わざとらしい笑顔が返ってきた。
「アスマももう知ってんデショ」
ウ・ワ・サ。
「オメエがヤローにイカレたってのならな」
下世話な言い方をしてやれば、お気に召したらしくいつもの顔に戻る。
どうやら噂の根源はカカシ本人であるらしい。
では、ここ数日の騒動はウワサのお相手を落とす搦め手かとアスマは悟った。
「で、そのカワイソウな中忍ってのは……」
「イルカせんせい」
「ナニ?」
落としかけたタバコを持ち直し、深呼吸をするように深く吸い込んだ後、ため息と共に吐き出す。
「どういう経緯で、そーゆーコトになっちまったんだか」
「んー。ま、話せば長くなるんだけどネ」
アスマの相槌も待たず、カカシは勝手に喋りだした。
「イルカ先生って、オレたちのかわいー部下たちが大好きな元先生じゃない」
うちの問題児たちのこともあるから、一言ご挨拶しとこーと思って声掛けたのよね。
「そしたらバカ共と一緒にオレのことまであしらってくれちゃったワケ」
「……だろうな」
意外にも、イルカの実力やその性格を知っている風なアスマの返答に、カカシは眉を上げた。
「だろうなって。まさか、アスマってイルカ先生と知り合い?」
「イルカはオヤジのお気に入りでな。ガキの頃から結構付き合いがあんだよ」
「ふ~ぅん……」
面倒臭そうに答えるアスマへ、カカシは不審げな目を向ける。
どうやら、それ以上の含みがあるのではないかと疑っているらしい。
「で?」
面倒はゴメンだとばかりに、アスマは続きを促してやるしかない。
「中忍にあしらわれて、オメエはどうしたんだ?」
「ま、やられてばっかじゃこっちの面目ってもんもあるからさー」
ちょーっと、お説教してあげようと思って。
「先生んちに上がりこんで、夕飯ご馳走になっちゃった」
「それで?」
「そんだけ」
全然、長い話でもないし、理由にもなっていない。
そうつっこみたいが、突っ込んでしまっては負けだとアスマは耐える。
カカシが存分にノロケながら情報を吐き出してくれなければ、対処のしようがないのだ。
新たな苦行に入ってしまったアスマを他所に、カカシはぼんやりとため息をつく。
「おいしかったなー、アレ」
「ナニがうまかったって?」
「んー、お茶漬け?」
冷や飯に刻んだ渇き物とインスタントのダシを振って熱いお茶をかけ、練りワサビを添えただけものと説明しながらカカシは思い出す。
* * * * *
やかんを火にかけてから、イルカがビニール袋に戸棚からだしたオツマミ類をぶち込み、麺棒で叩き出した時には流石に驚いた。
けれど、流しの脇に生けてある再生三つ葉を刻んだり、冷や飯に砕いた渇き物とダシを振ったりしている姿が板についていたことも意外だった。
なんだ、割にしっかりしてる人じゃないか、とカカシが思い直したところへ乱暴に飯の盛られたどんぶりが2つ置かれる。
「食いながら話しましょうか」
そう言って、渡された弁当屋の割り箸に苦笑が漏れた。
律儀に両手を合わせ、頂きますというと、口いっぱいにほおばったままの声でどうぞと返される。
自分でお茶を注ぎ、啜ったお茶漬けは製造過程からは信じられないほどうまかった。
* * * * *
「結局、話らしい話ってできなかったんだけどね」
満足そうに、カカシは話をしめにかかる。
「なんか、面白い人だなあって思っちゃってねえ」
あれ以来、なんとなく見てたらさ。
「あーんなウワサが流れてたって、ワ・ケ」
「じゃあ、別にオメエがイルカにイカれたってワケじゃあねえんだな」
安堵したように確認するアスマだが、カカシはぼんやりととんでもないコトを言う。
「どうだろ」
「自分で分かんなくて、噂放ってたってコトか……」
「そうかも」
さて、とカカシは妙にすっきりした顔で立ち上がる。
人に言うだけ言って、自分の考えの整理もついたのだろう。
「そろそろ行こっかな」
「任務か?」
「ううん。イルカ先生のとこー」
るんたった。
そんな音が聞こえる足取りでカカシは上忍控え室を出て行った。
「まるでアカデミー入りたてのガキだな」
ぼやくアスマの隣りへ、するりと紅が腰をおろす。
「ご苦労様」
「本当にな」
それまでアスマとカカシしかいなかった部屋にみるみる待機中の忍びが沸いてくる。
不気味な空気を撒き散らすカカシを敬遠して、誰も入ってこれなかったらしい。
損な役回りを自ら買って出てしまったアスマは新しいタバコに火をつけた。
「ガキのお守りは下忍教導中だけで充分だぜ」
「いいじゃない。真面目な優等生なんだから」
琥珀色のとろりとした液体がなみなみと注がれたグラスを手に、紅は微笑む。
でもね、アスマ。
「真面目な子が悪い男にハマり込むと、大変なのよ」
それが、どちらを示しているのか。
紅は言わない。
アスマも聞きたくはなかった。
ただ、嫌な確信だけはある。
「……めんど臭ぇことになりそうだ」
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2006/07/03
UP DATE:2006/07/06(PC)
2009/11/11(mobile)
RE UP DATE:2024/07/28
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はたけカカシがある中忍にハマった。
そんな、愉快で気味の悪い噂が流れ出したのは数日前。
昼下がりの上忍待機所で猿飛アスマは気味が悪いほどに機嫌のいい噂の主を前に、芳しい紫煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
よく味わって吐き出す仕草が、3代目火影と似てきたのは血のせいだろう。
カカシとアスマがこうして顔を合わせるのは、噂の流れ出す前だった。
それから僅かの間に、一体何が起ったのか。
興味はあるが、聞くに聞けずにいる。
巻き込まれるのはゴメンだった。
「なに? なんか聞きたそうじゃないの?」
けれど、カカシのほうから水を向けてきたのなら、訊ねてやらねばならない。
でなければ、独り言と称する知りたくもないし、聞きたくもないことをぐちぐちと語られることになる。
「テメエが言いたいだけだろうが」
覚悟を決めて促してやれば、わざとらしい笑顔が返ってきた。
「アスマももう知ってんデショ」
ウ・ワ・サ。
「オメエがヤローにイカレたってのならな」
下世話な言い方をしてやれば、お気に召したらしくいつもの顔に戻る。
どうやら噂の根源はカカシ本人であるらしい。
では、ここ数日の騒動はウワサのお相手を落とす搦め手かとアスマは悟った。
「で、そのカワイソウな中忍ってのは……」
「イルカせんせい」
「ナニ?」
落としかけたタバコを持ち直し、深呼吸をするように深く吸い込んだ後、ため息と共に吐き出す。
「どういう経緯で、そーゆーコトになっちまったんだか」
「んー。ま、話せば長くなるんだけどネ」
アスマの相槌も待たず、カカシは勝手に喋りだした。
「イルカ先生って、オレたちのかわいー部下たちが大好きな元先生じゃない」
うちの問題児たちのこともあるから、一言ご挨拶しとこーと思って声掛けたのよね。
「そしたらバカ共と一緒にオレのことまであしらってくれちゃったワケ」
「……だろうな」
意外にも、イルカの実力やその性格を知っている風なアスマの返答に、カカシは眉を上げた。
「だろうなって。まさか、アスマってイルカ先生と知り合い?」
「イルカはオヤジのお気に入りでな。ガキの頃から結構付き合いがあんだよ」
「ふ~ぅん……」
面倒臭そうに答えるアスマへ、カカシは不審げな目を向ける。
どうやら、それ以上の含みがあるのではないかと疑っているらしい。
「で?」
面倒はゴメンだとばかりに、アスマは続きを促してやるしかない。
「中忍にあしらわれて、オメエはどうしたんだ?」
「ま、やられてばっかじゃこっちの面目ってもんもあるからさー」
ちょーっと、お説教してあげようと思って。
「先生んちに上がりこんで、夕飯ご馳走になっちゃった」
「それで?」
「そんだけ」
全然、長い話でもないし、理由にもなっていない。
そうつっこみたいが、突っ込んでしまっては負けだとアスマは耐える。
カカシが存分にノロケながら情報を吐き出してくれなければ、対処のしようがないのだ。
新たな苦行に入ってしまったアスマを他所に、カカシはぼんやりとため息をつく。
「おいしかったなー、アレ」
「ナニがうまかったって?」
「んー、お茶漬け?」
冷や飯に刻んだ渇き物とインスタントのダシを振って熱いお茶をかけ、練りワサビを添えただけものと説明しながらカカシは思い出す。
* * * * *
やかんを火にかけてから、イルカがビニール袋に戸棚からだしたオツマミ類をぶち込み、麺棒で叩き出した時には流石に驚いた。
けれど、流しの脇に生けてある再生三つ葉を刻んだり、冷や飯に砕いた渇き物とダシを振ったりしている姿が板についていたことも意外だった。
なんだ、割にしっかりしてる人じゃないか、とカカシが思い直したところへ乱暴に飯の盛られたどんぶりが2つ置かれる。
「食いながら話しましょうか」
そう言って、渡された弁当屋の割り箸に苦笑が漏れた。
律儀に両手を合わせ、頂きますというと、口いっぱいにほおばったままの声でどうぞと返される。
自分でお茶を注ぎ、啜ったお茶漬けは製造過程からは信じられないほどうまかった。
* * * * *
「結局、話らしい話ってできなかったんだけどね」
満足そうに、カカシは話をしめにかかる。
「なんか、面白い人だなあって思っちゃってねえ」
あれ以来、なんとなく見てたらさ。
「あーんなウワサが流れてたって、ワ・ケ」
「じゃあ、別にオメエがイルカにイカれたってワケじゃあねえんだな」
安堵したように確認するアスマだが、カカシはぼんやりととんでもないコトを言う。
「どうだろ」
「自分で分かんなくて、噂放ってたってコトか……」
「そうかも」
さて、とカカシは妙にすっきりした顔で立ち上がる。
人に言うだけ言って、自分の考えの整理もついたのだろう。
「そろそろ行こっかな」
「任務か?」
「ううん。イルカ先生のとこー」
るんたった。
そんな音が聞こえる足取りでカカシは上忍控え室を出て行った。
「まるでアカデミー入りたてのガキだな」
ぼやくアスマの隣りへ、するりと紅が腰をおろす。
「ご苦労様」
「本当にな」
それまでアスマとカカシしかいなかった部屋にみるみる待機中の忍びが沸いてくる。
不気味な空気を撒き散らすカカシを敬遠して、誰も入ってこれなかったらしい。
損な役回りを自ら買って出てしまったアスマは新しいタバコに火をつけた。
「ガキのお守りは下忍教導中だけで充分だぜ」
「いいじゃない。真面目な優等生なんだから」
琥珀色のとろりとした液体がなみなみと注がれたグラスを手に、紅は微笑む。
でもね、アスマ。
「真面目な子が悪い男にハマり込むと、大変なのよ」
それが、どちらを示しているのか。
紅は言わない。
アスマも聞きたくはなかった。
ただ、嫌な確信だけはある。
「……めんど臭ぇことになりそうだ」
【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2006/07/03
UP DATE:2006/07/06(PC)
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