カカイル[短編]

【BODY CONTACT】



 珍しい場面ではない。

 長期任務から戻ったばかりの上忍が、受付で書類仕事をする中忍に絡むことなど。

 中忍の対応もいつも通り。

 当たらず騒がず、ひたすら穏やかに場を治めようと努める。

 そんな平和ボケした態度が、たぎった上忍たちを煽るとも知らずに。

───またアノ人ね……

 折り悪く任務報告書の提出に来てしまったカカシは、溜め息を吐く。

 泥と血でまだらに染まったままの上忍3人が、受付に座して書類チェックを続ける中忍を取り囲んでいる。

 絡まれている中忍は黒髪を高い位置に結い上げた、色々と有名な男だ。

 カカシも知らぬ仲ではないので、成り行きを見守る。

 いざとなれば、助け舟を出すつもりで。

 中忍は形式的な笑顔を張り付かせた顔で、たわいのない確認事項で下卑た誘いを受け流す。

 けれど、いつまでもその場しのぎは続かない。

「では、報告書は受理致します。任務お疲れ様でした。どうか英喜を養ってください」

 そんな言葉尻と、判をついた腕を取られた。

「だったら、お前が相手してくれよ」

「噂は聞いてるぜ」

「真面目そうな面して、なかなかイイらしいじゃねぇか」

 腕を捻り上げられて眉ひとつ動かさない根性は立派だ。

 けれど、絡んでる者も見ている者も、それでは面白くない。

「澄ましやがって!」

 忌々しげな声にあわせて腕が振り上げられたと同時に、カカシは静かに告げた。

「それ、オレのなんだけど?」

 唐突に割って入ってきた声に、3人の上忍は不機嫌そうに背後を振り返る。

 そして、言葉を失った。

 受付に座る中忍の所有権を主張してきたのは、はたけカカシ。

 木ノ葉隠れの里、最上位の実力者。

 『写輪眼』の二つ名は他里にまで轟いている。

 彼らだとて、上忍だ。

 カカシの戦いぶりを実際に見聞きし、自分たちが太刀打ちできる相手でないと知っている。

 気圧されたのか、男たちは中忍の片腕を掴んだままだ。

 不機嫌を装い、カカシは小首を傾げて見せる。

「オレのって、言ったよね?」

 形ばかりの笑みと全身から発する狂暴な圧力に押され、ようやく中忍の腕は解放された。

 だが彼は礼も言わず、不服そうにカカシを見返す。

「誰が、あなたの、ですか?」

 立ち上がった中忍の、普段より冷めた言葉が静まり返った受付に響く。

 その声音が、助けてやった、カカシの勘に障った。

「へえ。オレなんかに助けられて、不満そうですね」

「手段に問題があると言ってるんです」

 さっきまで大人しくやり過ごしていた中忍が、よりにもよってカカシに楯突いている。

 傍観者にとっては面白い状況になったが、当事者にとってはとんでもないことだ。

 特に、最初に中忍へ絡んだ者たちにとっては。

 カカシが中忍に気を取られている隙に、この場を逃れるのが賢い選択。

 そこへタイミング良くというか悪くというか、3代目火影が現れた。

 一瞥して状況を察したのだろう。

 姑息な男たちの行く手を阻み、中忍へ頷いて見せる。

「イルカ、構わん」

 こやつらに軽く灸を据えてやるがよい。

 なんて無茶を、と周囲が思うより早く請け負った中忍が。

「承知しました」

 言葉と同時に、上忍3人の囲みを抜けた。

 その動きに目を見張るカカシの目の前に、イルカは立っている。

「やりますね、意外にっ」

 嘲りを含んだ笑みを浮かべようとした。

 瞬間、だった。

「たかが暗部上がりの上忍師ごときが、受付の中忍様にナメた口利いてんじゃねえっ」

 ふんっと鼻でせせら笑うイルカの足元に、異様な方向へ手足を放り出した里屈指の上忍が崩れ落ちる。

 イルカがカカシに何をしたのか、見てしまった人間は不幸だ。

「お待たせ致しました」

 いつも受付で見せる笑顔が振り返る。

「たかだか1月の任務で自制も利かなくなる猿上忍のみなさん」

 また3人が餌食となる場面を目撃しなければならないのだから。

「僭越ながら誠心誠意、全力を持ってお相手させて頂きます」

 言うやイルカは逃げ出そうとしている上忍3人を足払いで転がした。

 その勢いで1人の片脚を付け根から捻り、1人の両肩を外しながら1人を足で絞め落とす。

 あっという間もなく、上忍4人へ教育的指導を行った中忍は息も乱さず微笑んだ。

「お騒がせしました。お待ちの方、どうぞ」

 仕事へ戻るイルカに、3代目火影は満足げに頷く。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2006/06/18
UP DATE:2009/01/13(mobile)
RE UP DATE:2024/07/26



【body contact】肉体言語=暴力
[蛙姑。]<…暴力…。
 やはり暴力は全てを解決する。
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