きみのとなり

【きみのとなり〜エピローグ】
   〜 カカ誕 2006 〜



「そう言えば、昔、不思議なことがあったんですよ」

 報告書を提出し終え、道すがらに夕食をどうしようかと話していた中でイルカが足を止めた。

「オレがまだアカデミーに通いだしたぐらいの頃だったか……」

 夜の独特な活気を帯びだした繁華街を見据え、思い出すようにぽつりぽつりと語りだす。

「大門にかーちゃ……母を出迎えに行ったら、一緒にいた人が泣き出したことがあったんです」

 語る言葉の速度で歩きつつ、イルカは先を続ける。

「大人の、それも忍者が突然道の真ん中で泣き出すなんて、びっくりしましてね」

「……それ、で?」

「オレが、その人の、手に、触れたら……」

 あの時のように、イルカはカカシの手にそっと触れる。

「……その人は、消えてしまったんです……」

 ふ、と口元が緩んだのは、触れた手が消えずにいる安堵だろうか。
 
「母たちは、帰るべき場所へ戻ったんだろうって言っていたような……」

 曖昧になってしまった記憶に、イルカの眉根が寄る。

「……大丈夫、ですよ」

 そんな彼の手を、握り返してカカシは呟く。

「ちゃんと、帰ってきました」

 あなたの元へ。



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2006/09/18
UP DATE:2006/09/18(PC)
   2009/09/05(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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