ひとり

【ひとり [4]】
~ イル誕 2006 ~



「ご苦労だったね、カカシ」

「……いえ」

 数日後、カカシは無事に任務を終えて火影の元へ報告にきていた。

 心なしか綱手の表情が楽しそうであり、一方のカカシはやや不機嫌だった。

 任務に失敗したワケでも、困難だったワケでもない。
 それは報告書を見なくとも、特に汚れもしていないカカシの格好を見れば分かる。

「こんな依頼でオレを指名するなんて、2度と受けないでくださいよ」

「そう言うな。あれでも上得意で、金払いもいい。他にくれてやるには惜しい客なんだよ」

 それに。

「お陰で大事な人のピンチに駆けつけられたんだろ?」

「ぐっ」

 執務机の上で組んだ両手で口元を隠し、綱手はくふふと含み笑う。

 カカシが任務に出た直後、帰還途中の部隊が追撃にあって苦戦していると急報が入ったのだ。
 里の近くということもあって、医療忍術の心得があるサクラ、特別上忍のゲンマとライドウを救援隊として現場に向かわせた、が。
 
 急行した彼らが見たものは、いちゃつく部隊長と通りがかりの上忍だった、という。

「いやあ、アタシも見たかったよ。いや、まさかアンタがあのイルカとねえー」

 からかいにかかる綱手へ、カカシはそっぽを向いて開き直ったような物言いをする。

「悪いですか? すみませんね、オレたちばっかり幸せでー」

「……色気づきやがって、クソガキどもがっ」

 独り身の綱手へのあてつけでしかない言葉に、5代目火影は穏やかに毒づいて握った手に力を込める。
 途端に丈夫なはずの執務机がびしりと悲鳴をあげた。

 綱手の怒りの度合いを察してか、カカシは一番聞きたかった話題を振る。

「で? どうなんです?」

「ああ?」

「イルカ先生ですよ」

「ああ、心配ない。さっき包帯もとれたし、検査の結果も問題ない。もう、自宅に戻ってる頃だろ」

「そうですか」

 ほっと、カカシも安堵の息をつく。

「あと、約束どおり、アンタたちには今日、明日と休暇をやるよ」

 イルカにも伝えとくれ。

「しっかり休んで、またバリバリ働いとくれってね」

「はいはい」
 
 心の中で、人使いの荒さを直して欲しいよなあと思いつつ、カカシは丁寧に頭をさげると踵を返した。

 すぐにでも飛び出していきたい気持ちを押さえ、ことさらのんびりと歩いて扉へ向かう途中、声が掛かる。

「なあ、カカシ」

 足を止め、不敬だが首だけを巡らして綱手の顔を窺う。

「お前……」

「綱手様」

 何を聞かれようとしているのか察して、言われる前に遮った。

 ゆっくりと向き直り、まっすぐに前を見て偽らざる本心を告げる。

「あの人は、オレにとっても大事な人なんですよ」

 それだけを言うと、カカシは逃げるように姿を消した。

 後には、あっけに取られたままの綱手が1人残されたが、しばらくして大きな笑い声が聞こえてきたという。



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/05/26
UP DATE:2006/05/31(PC)
   2009/11/15(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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