先生は女中様

【先生は女中様 〜 オマケ 〜】



 半泣きで土下座する恋人を見下ろしながら、どうしてこうなったと自問自答。

 カカシと付き合い始めるきっかけとなった出来事は正直なところきれいさっぱり忘れ去りたいのだが、あまりに強烈で思い出に変わるまでまだ何年かを要する気がする。

 誰が考えるだろう。

 自分で言うのも悲しいが、オレは平凡と中庸を足して平均で割った完璧な平民である。
 顔貌は十人並みで体格や身長も一般成人男性に比べれば良いが忍としては標準値、多分だが収入だって人並みだろう。
 なにしろ生業としている忍者での階級だって中忍。
 がっちり中間層にはまり込んでいるのがオレだ。
 
 そんなオレの誕生日に珍妙な姿で押し掛け女中として甲斐甲斐しく世話を焼いた後、突如豹変して有無を言わせず強姦魔と化した挙句、事の宜しきを得た上でコメツキバッタの如く平身低頭での謝罪と順番の入れ違った遅過ぎる告白をかましてくる男がいるなんてなんの冗談か。

 しかもその男というのが、木ノ葉隠れの里どころか忍び世界において名を知らぬ者の方が少ないであろう程の、若くして幾つもの功績を立て伝説的な逸話すら持つ英傑。
 そして、複雑な事情を抱えていた以上に手が掛かり、それ故に気掛かりだった大事な教え子たちの上官。
 はたけカカシだった。

 噂される話を聞けば、忍者アカデミーは5才で卒業し、6才の頃に中忍へ昇格。
 10代前半で上忍となり、火影の直轄部隊である暗部に抜擢されれば数年掛からず部隊長にまで上り詰めたという。
 なにしろ、うちは一族にのみ顕現する血継限界《写輪眼》を用いて数多の術を修得し、独自に編み出した技で雷すら斬り伏せたと実しやかに噂される実力者。
 それでいて努力を弛まず研鑽を重ね、共に任務に就く仲間を大切にする人。
 当然、里随一の稼ぎ頭で、ついでに優男然とした長身痩躯で顔まで整っているときた。
 
 オレみたいな十把一絡げにされる凡人に対する嫌味だろうかという存在というべき完璧超人な上忍様が、なんの取り柄もないしがない中忍のアカデミー教師に懸想した末に、思い余ってストーカーとなって自宅に不法侵入ついでに強姦とは笑い話にもならない。
 むしろなんの嫌がらせだ。

 いや、まあ、その後も紆余曲折あったものの現状は同棲しているのだから、世の中どう転ぶか分からないな、なんて考える。
 まさしく、事実は小説より奇なり。

 と、これまでの状況を振り返る現実逃避の真っ最中だが、当時の再現ばりの大惨事なう。

 売り言葉に買い言葉でうっかりばっちり女中姿で仁王立ちのオレ。
 そんなオレの足下に半泣きで土下座しながら謝罪してる同棲中の恋人。

 どうしてこうなった。

 とは言え、いつまでもこうしてはいられない。

 今日はこの恋人の誕生日で、滅多にない二人揃っての休日。
 オレに女装しろとか女給やれとかアホなことを言いやがったからちょっとばかり意地の悪い事もしたけれど、これは今夜の祝いに向けての余興と照れ隠しみたいなものだ。

 夕食には彼の好物を用意してあるし、夜なら当初の思惑にのってやってもいい。
 
 その為にも、貴重な泣きベソ上忍の可愛らしさに内心で身悶え、堪能している場合じゃない。

「……あの、先生。なんか、悪いお顔になってまーすヨ?」

「そりゃ、悪い事考えてますから」

「……へ?」

 さて、何故か脅えて及び腰になった恋人を慰めたら、そろそろ昼食の準備に戻らなくては。
 だって、お楽しみはこれからだ。



 【了】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2014/09/12
UP DATE:2014/09/23(mobile)
RE UP DATE:2024/08/13
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