カカイル[短編]

【雪囲い〜オマケ】



 そうは言っても、久しぶりの想い人との逢瀬。

 忍者歴20年を越える熟練の上忍ではあるが、それはスタートが人より早かっただけのこと。
 カカシはまだ30にもなっていない。

 部下からオッサン扱いはされていても、これから油の乗ってくる歳だ。

 忍者としても、男としてもまだまだ枯れてなどいられない。

 つまり、好き合った相手と、こうして寄り添っているだけで気持ちと一緒に盛り上がってくるモノもあるワケで。

「ね、イルカせんせえ」

「なんです?」

「……いつまで、こうしてられる? 任務中、なんデショ?」

 本当は、もっと別のことを訪ねたかった。

 だが、ストレートに言っては絶対、怒られそうな気がしてつい、遠まわしになってしまう。

「哨戒中だったら、何時までも引き止めちゃ悪いよねえ……」

 こうしてると、帰したくなくなっちゃいそうなんだけど。

「っ!」

 すばやく、軽く唇を触れ合わせるだけ。

「なんてね」

 隣りにいる人が肩に力を入れたのが分かって、おどけてしまうのは仕方がない。

「オレもまだ任務中なのよねー。里に帰るまでが任務ですって……」

「カカシさんっ」

「はぁい?」

 言葉を遮るように呼ばれ、ふざけ過ぎたかと、カカシは叱られる覚悟した。
 けれど、イルカから意外な申し出がでる。

「カカシさんは、帰還途中、なんですよね?」

「ええ、そう、ですけど……」

「オレ、補助につきましょうか?」

「へ?」

 任務後に同じ里の忍びが合流することは珍しい。
 それぞれの任務の秘匿性の為に、普通は行き逢わないように調整しあう───というか気を配りあう。

 だが、帰還途中のトラブルに巻き込まれている時は別だ。

 例えば今回のように、単独活動中の上忍が任務外のトラブルに巻き込まれているところに出くわしたら、帰還途中の部隊は状況に応じて補助することになっている。

「でも、イルカ先生の方は?」

「殆ど終わりかけてますし、人数は足りてるんで大丈夫ですよ」

 それよりも、とあまり里では見せない引き締まった表情で続ける。

「これ以上、この近隣で大規模な術を使った戦闘が行なわれるのは麓の村や、待機中の仲間たちに影響がでます」

「優先順位は、オレが連れてきちゃった敵ってことデスね」

「はい」

 戦略的に明確な理由を少し淋しく思いながら、カカシも頭を切り替えていた。

 もし自分だったら、と敵の動きを考える。

 悪天候の中で敵国に潜入し、上忍と交戦中。
 近くには相手の増援ともなりうる部隊が存在している。

 雪洞から外を伺えば、吹雪が強さを増していた。

「……相手も難儀しているだろうこの天気を利用するしかない、か」

「そうなりますよね」

 互いに頷き合い、イルカは簡単に周囲の地形を教え、カカシは敵の動きそうなルートを予想する。

 特に話し合わなくてもするべきことは分かっていた。

「それじゃ、さっさっと片付けてしまいましょうか」

 狭い洞内でうずくまっていた体を解すようにカカシは軽く伸びをする。

 先に這い出していこうとしていたイルカは、出口で一度振り返った。

 その顔に、悪戯っ子らしい笑みが満ちている。

「終わったら、さっきの続きしましょうね」

「へ?」

 マヌケに聞き返すカカシに答えることなく、イルカは吹雪の向こうへ転がり出て行く。

 これから麓に連絡を入れ、敵を撹乱する役を担ってくれる。
 その間に、カカシも打てる手を打たねばならなかった。

 しかし、にやけた顔のままではちょっと出ていきづらい。

「参ったなあ……」

 カカシの思惑はしっかりイルカに伝わってしまっていた。

 それを分かってああいう言葉を残して行ったということは、彼もそう思ってくれたということだろうか。

「……だとしたら、益々張り切らないとねえ」

 表情と感情を無理やり押し隠す為に、口布を付け直しカカシも雪洞を後にした。



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@iscreamman‡
WRITE:2006/03/02
UP DATE:2007/02/13(PC)
   2009/07/25(mobile)
RE UP DATE:2024/07/26
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