ちゃきっ様

【バイトしましょ♪ 2】
   ~ 幕間 ~



 最近、はたけカカシは良く受付所辺りに出没すると評判である。そして内勤への態度が改まった、とも。
毎日のように受付に現れる火影様の機嫌を取っているのだとか内勤のくの一に目を付けただとか様々な憶測が飛んでいるが…その真相は。



「よう。」
 今日もカカシは、受付前のソファにぼんやりと座って居た。すると其処に、嘗ての同僚で今また同僚となった髭の上忍が片手を上げつつ現れる。
どっかりとカカシの隣に腰を降ろすと、煙草に火を付け
「…大変そうだな。」
 と、一言呟いた。
「ああ。」
 それにカカシもまた一言で応える。…本当に大変なのだ、今のカカシは。



 先頃、カカシはちょっとした切欠で『内勤の裏事情』を知った。その際に少々騒動が起こったのだが…
これは別に構わない。ただ、それから新しく発生した人間関係…こっちが問題だったのだ。
 カカシが『気付いていない』から、と。しらばっくれていた内勤の面々はカカシが『知った』と気付いた時から、性質の悪い遊びを始めたのである。
そう、『カカシ限定』の…遊びを。
 彼等は、周囲に『同僚』しか居ない時を狙って行き成りカカシに襲い掛かるのだ。
其処らの中忍が相手なら絶対に取らない不覚も、此処に居るのは『現役暗部』。里でも上位に位置する者達、なのである。
 殺気も無く、悪意も無く。更に人によっては幻術・結界術まで使用してカカシの感覚を鈍らせた上で。
…ガバッと服を剥ぎ取り。カカシの腹だの胸だの…時にはズボンの裾だのを捲り上げると。彼等は其処にある傷痕を確認するのだ。
で、囁くのである。
『良かった、綺麗に治ったみたいですねv』と。

 常に最前線で戦って来たはたけカカシ、任務の都度生傷の絶えない生活を送って来た。
治癒の上手い『同僚』…つまり、『内勤事務忍』達の多くは大なり小なりカカシの治療をした経験があるのだ。
命を救われた経験も一度や二度では、無い。…訳で。
 幾ら『識別はしても記憶はしない』と言われるカカシであっても、此処迄されれば相手を思い出す。
そして思い出したら…一応命の恩人なので…それなりの礼はする。
拠って。
 カカシはこの処毎日の様に『治療の礼』として飯なり酒なりを奢らされる日々を送っており。…コレが結構キツかったのである。
 
上忍師になったばかりのカカシは、この処Aランクから外されている。
そして、如何に『上忍師手当て』が付くとて…子供と共に行くDランクが基本では収入は激減、なのだ。
其処に、『奢り』。一応、内勤同士で協定が結ばれて居るらしく…『何度治療していても奢って貰うのは一回』らしいので少しはマシなのだが、それでも人数がある分金額は嵩む。
 今までの蓄えが在るとは言え…食い潰す訳にはいかないのだ。何故なら…大概の消耗品代は自分持ちだから。
一瞬の隙、僅かな切れ味の差が命に関わるA・S任務。里でも最高級の備品…クナイや刀を使っているカカシである。
そして、派手な戦闘となればそれらは下手すると使い捨て状態に為りかねない。すると当然、新しい物が必要となる。
また体質に合わせた特注の薬物の代金も…応急セット分は自費なにので…馬鹿にならないのだ。
 つまり。幾ら里の誇る上忍はたけカカシでも。『お金は大切』…なのだった。

 それなら受付所なんかに居着かなきゃ良いのだが…『悪い遊び』は受付とアカデミー周辺でしか行われないので…そう行かないのが微妙な処だったりする。
その二箇所に近付かないと…カカシはまず、会う事が出来無いのだ。
 うみのイルカ…カカシの『部下達の恩師』でありカカシの『命の恩人』の一人である、人に。
先日二人で飲んで以来、その居心地の良い空気にすっかり味を占めたカカシは、『奢らされ』る日以外は彼と飲みに行く様になっていた。
部下達のアカデミー時代の話を聞く事が出来、尚且つ『暗部』の話…守秘義務部分を除いてだが…も出来る、貴重な新しい知人に。
すっかり懐いているカカシなのだった。
 で、金銭的な苦しさと会えない時の奇妙な空虚さを計りに掛け。…生活を切り詰める方を選んだ訳である。
最もそんな事を知らない『普通の』上・中忍は、カカシが里内で人並の交遊を持とうとしているのだ、と勝手に解釈し…
中には図々しく自分を新しい友人として『売り込み』に来る輩なんかも居て、些か面倒な事になっていたりもする。
そして
 今隣に座った友人は、その辺りの事を大方察してくれている貴重な相手、だった。


「な、知ってるか?」
 煙を吐きながらぼそりと訊かれる。
「ん?」
 ちらりとカカシが視線を投げると。



「アイツラ、個別で『お前が自分を憶えているか』賭けてやがる。」
「・・・・・」
 無表情なまま、カカシは黙り込む。
何となくそんな気はしていたのだ。大概は襲われて『直ぐ』思い出すのだが、稀に『傷を見られても尚』思い出せない場合がある。
そう言う相手にはキチンと何時世話になったのか訊ねる事にしているのだが…妙に嬉々として教えてくれるのである。それは、つまり。
「お前が覚えてなかった場合は『残念賞』と称して仲間から一回奢って貰えるらしいな。」
 それに加えて、カカシの奢りが入るのだから結構愉しいのだろう。と、
「…ふっ…」
 何処か遠い目になったカカシは薄く笑みを浮かべると
「どうせ俺は『記憶しない』奴だ~よ。」
 と、呟いた。
「それ、イルカに言われたのか?」
「『アッチ』の姿で再会した時にね。」
「…そうか。」
 上忍二人に、妙に黄昏た雰囲気が漂う。
「俺も、な。初めて受付で『気付いた』時、な…」
 呆然と。見知った気配のする『内勤』達を眺めていたアスマは、通り縋りの内勤の一人にこう、囁かれたのだ。
『そんな処に立ってないで下さい、他忍の不審を買います。』と。
その後、更に。事情が知りたくて捕まえた『元部下』には
『え、隊長ホントに今まで知らなかったんですか?俺等、コッチ『も』本業ですよ!』
 と明るく断言され。そして止めに
『四六時中闇に潜みっぱなしじゃ、『忍』としても辛いじゃないですか。『表の顔』位皆ちゃんと持ってますよ?』と言い放たれた。
 裏表の無い、暗部オンリーの忍をしていたアスマは…だからこそ、引退して上忍師にされたのかも知れないが…その言葉に打ちのめされ、暫くの間激しく落ち込んだモノである。


「結局、俺達って。」
 忍としての能力にはそれなりに自負のある二人である。『里の誇る』上忍と呼ばれる事にも慣れた。だが
「結構、馬鹿?」
「…言うな。」
 カカシの、既に開き直った様な言葉に、アスマが低く応じる。

 何故だか背中に哀愁を漂わせる…上忍達であった。



→[前]
7/18ページ
スキ