ちゃきっ様

【バイトしましょ♪】
   ~ 深夜 ~



 24:00 ・・・・・
 
 うみのイルカ宅の屋根に潜んで、俺は帰りを待っていた。
あの後、結局『逃げた中忍』を見つけ出せなかった俺は。アカデミーの授業計画表から『うみのイルカ』の授業が明日もしっかり朝からある事を確認した。
 ならば、あの真面目そうな男は絶対帰って来る。これは確信だった。

 一瞬、受付所で待つ事も考えたのだが。イルカが火影の気に入りで結構私用も言い付かっているらしい事に思い至り、断念した。
『火影の用』ならば受付を免除になった理由も判るし、それならば受付を通さず火影の元に直行するだろう。それでは捉まえられない。
 この、何重にもなった屈辱を晴らす為にも俺は絶対にあの男を締め上げようと決めていた。
…最早「頼まれた」事など頭には、無い。


「アレまだいらっしゃったんですか。」
 気配も無く発せられた声に、総毛立つ。咄嗟に跳んで戦闘態勢を取ると、其処には見慣れぬ暗部が一人立っていた。
「もう諦めてお帰りになられたかと思いましたよ。」

 あはは…と軽く笑う声にはイヤって程憶えがある。
「…イルカ、先生…」
 まさかと言う思いと、それならと納得する部分とが鬩ぎ合う。戸惑う俺に、暗部は
「今晩は、カカシ先生。…この格好では『御久し振り』ですね。」
 と。仮面をずらして素顔を見せた後、脳天気に言ってのけた。

「久し振り…って。」
 警戒したまま必死で記憶を弄る。この男と組んだ任務…任務だよな?
「…やっぱり。気付いてなかったんですね。」
 貴方、『仲間』を識別しても記憶はしないって評判ですし
 ため息を付きつつそんな事を言う相手。何だその評判、聞いた事無いぞ。
「他人に興味が無いのは構いませんが、何度『初めまして』って言わされたと思うんですか。」
 『任務中』じゃないと見分けてくれないんだから
ぶつぶつと呟く男の、あんまりな物言いに
「な…貴様に其処まで言われる筋は無い!」
 先刻までの怒りを思い出して、殺気を迸らせた。が
「ご近所迷惑は止めてください。」
 俺の気をモノともせずビシッと言い放った男は。つかつかと俺の元に近づくと
「…!!…」
 唐突に、口布を下ろし…あろう事か襟を広げる様にして覗き込むと、無理やり鎖骨辺りを確認した。
「な…っ」
「あぁ、良かった。綺麗に直った様ですね!跡も大して残らなかったみたいだし。」
 安心した様にささやかれて。
「…あ…」
 思い、出した。


 半年程前の任務だった。悪質な密売組織…人間を含む…の壊滅任務。
『商品』兼『人質』を傷付けぬ為、商品倉庫周辺だけソッチを得意とする暗部が…良く組む面子の他に…結界と罠を張っていた。
 その際、ビンゴブックにも載っている抜け忍と交戦した俺は、運悪く首に近く、鎖骨の直ぐ下をグッサリやられてしまったのだ。
毒クナイだった事もあって真剣に危ない領域に逝きかけた俺を治療してくれたのがその、『別口』だった暗部達で…

「あ、あれ?あの時の暗部って…」
「俺です。」
 因みに俺が治療している間、一人で結界の維持を担当していてくれたのが俺に変化してたヤツです
 アイツも怪我の事、心配してましたから 後で教えておいてやりますよ
呆れた様な、声。

「更に言うなら一緒に組んだのはあれが3度目でした。」
 と…おまけに説教否愚痴か…まで付けてくれた。
「へ?…あぁ道理で。」
 思考が纏まらないままに、やたらと鮮やかな手並みだったイルカの『同僚』の事を思い出し、頷く。
「て、何でアンタ等内勤の中忍なんてしてるんだ?!」
 あの時の任務で、その手並みの鮮やかさも戦闘力の高さも確認している。内勤に燻らせて置くなんて勿体無い。

「…カカシ先生。『中忍師』はどの様に決められるか御存知ですか?」
 にこにこと。笑っているのに何だか怖い…イルカの顔。
「確か、『中忍の中でも特に優れていると認められた者』だったかと。」
  突然の脈絡の無い質問に、だがナニやら裏を感じて懸命に答える。
「暗部への入隊基準は?」
「火影の選抜。」
 これは判り切った事なのであっさりと。…何が言いたいのかは相変わらず判らないが。 
「じゃあ、暗部の『基本任務』は?」
「火影と里の守護。」
 此処まで答えて。何となくイヤな予感がした。中忍師も…暗部も。つまりは『火影の選抜』な訳で。そして基本の任務はどっちも『里内』。
「あの…」
「漸く気付いたみたいですね。」
 にっっこり。教師の顔で笑う『イルカ先生』に
「…ウソ…」
 絶句、する。それはつまり



「そうです。『暗殺戦術特殊部隊』の一部は別名『内勤事務忍部隊』と言うんです。」
 さらりと。とんでも無い発言をしてくれた。



「本当に判ってなかったんですねぇ…」
 俺にお茶を出してくれながら、しみじみとイルカ先生が呟く。
「チャクラなんかは変えていないからちゃんと『気』を憶えていらっしゃるならすぐに判った筈なんですが。」
 チクチクと嫌味ったらしく苛められる。
…あの後、呆然自失してしまった俺をイルカ先生は部屋へと招き入れてくれたのだった。
「アスマ先生なんかはちゃんと『外勤』になってすぐお気付きになられたのに。」
 まぁ、暫く唖然として受付に佇んでいらっしゃいましたけど
そんな風にぼやかれて、内心アスマに同情した。
俺がついさっき知った事を、受付に踏み込んだ時に感じ取ったのだとしたら…それは不幸だ。
…馴染みの『暗部の同僚』が顔晒して、事務仕事に専念しているなんて『事実』。
 実を言うと先刻から受付その他で見かけた『ボケた内勤』達の姿が頭の中をグルグルと回っていたり、する。アレが皆『暗部』…

「そんな事言っても…そんな話、『暗部待機所』じゃしてなかったしっっ」
 情けなくも訴えてみると
「『暗部』の仕事と『内勤』の仕事は別なので」
 敢えて混同しない様に心掛けているんですよ 上忍控え室でもそんな話は出ないでしょう『暗部』『元暗部』のみの秘密なんです
と、いなされた。
「ほら、暗部に入隊しない限り、俺達を見てもそんな事考えたりしないでしょう。それに暗部に居る間は受付は『専用』のですし。」
 次に『一般受付』に来るのは脱退後で 気付いてもワザワザそんな事言触らす人間はまず、居ませんし 
「大体信じて貰えるかどうかも怪しいですからね。」
 きっはりと言い切られた。
「ま、カカシ先生やアスマ先生みたいに『身体的特徴の著しい』人や、普段から『気』が猛っている…戦忍タイプの方は端からこっちには回らないですから。」
 『内勤兼任』は気のコントロールに長けた、血の臭いを感じさせない者が基準なんです
と、密かに屈辱されても…文句が言えなかったりする。
 人並み外れて大柄なアスマも、写輪眼を抜きにしてもやたらと珍しい銀髪で長身な俺も『規格外』だったと言う訳らしい。
まぁ、暗部に居ながら『高名』になってしまった存在感垂れ流しの身では…確かに内勤にはなれないだろう。
「あ、あれ?じゃあ、食堂で言ってた『出来るだけ』とか『無理しないで』とかってのは。」
「カカシ先生に事実を伝えるか、ですよ。」
 当然とばかりにイルカが答える。
「『任務』に付いて来られると厄介ですし。カカシ先生は『元』同僚ですからね、ちゃんと教えても良いかな…と思ったんです。」
「それなら何で!」
 コケにされたと気付いた時の心境を思い出し、つい叫ぶと。
「アイツが、『それで手を退いてくれる確証は無い。』と言うもんですから。」
 一応、任地に着くまでの足止め頼んだんです 今回は単独任務じゃなかったから、『付け馬』が居ると他の方の迷惑ですし
「子供じゃあるまいし、其処まで聞き分けの無い事はしないと思ったんですけどね~」
 まぁ保険のつもりで
 くすくす笑うイルカに。…俺は沈黙する。
もし、『暗部』だと告白されて。…『任務だから』と付いて来ない様に言われたとしたら。俺は

 う…

 付いていく。俺は付いて行ってしまう。イルカがあの時の暗部だと知ったなら、…知ったからこそ、絶対。
悔しいが、物凄く悔しいが。何だか…胸ん中がドス黒くなる程悔しいが。アイツの、読み勝ちである。
 
 ぐるぐる ぐるぐる 取り止めの無い考えに浸っていると

「で。何で俺を『張って』いたんですか?」
 にこにこと。今日最大の『恐怖の笑顔』を貼り付けて


 イルカ『先生』は…詰め寄って来た。 

 

→[後日]
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