ちゃきっ様

【感謝を込めて、心からv】
   ~ 中 ~
[バイトしましょ♪]



 結局、その日の任務は受付での古書類の整理だった。
結構な量を誇るソレに、俺は3人を連れて…事務棟の奥にある資料室に丸一日閉じ込められる事が決定する。
どうやら奴等が、俺を内勤の居る敷地内から出さないように仕組んだ様子だ。…クソッ。

 与えられた書類の類は、勿論任務内容が判る様な物では無く。入金や備品の伝票整理が中心の、知識も何もいらない純然たる肉体労働だ。
五十音順に此れまでの『Dランクの』依頼人名簿を整理したり、鉛筆だの紙だの印刷インクだのの購入伝票を日付通りに綴り直したり。
シカマルじゃねぇが『面倒臭ぇ』任務だった。
 だが、確かに他班よりはウチ向きだろう。カカシん所の金色も、紅ん所の犬コロも。こんな事させた日にゃ途中でキレて大暴れしそうである。が、ウチの奴等とて決して気が長い訳では無いので…

「あ~もうっっ!この年で肩凝りになりそうだわっっ」
 叫ぶイノの、眦はキリリと上がっている。
 
「其処で遊んでる先生っっ!この可哀想な部下達に飲み物の一つも奢ってやろうって気にはならないのっ!?」
 …イノ、そりゃあ脅しだぞ…

「あ、僕苺オーレ。」
「俺、緑茶な。」
 さっさとイノの言葉に乗っかる幼馴染が二人。中々良いチームワークである。
しかし、苺オーレ。聞いただけで甘そうだ…流石、ポッチャリ系。

「先生、私グレープフルーツジュース、100%のね。」
 一人割高なのを頼むイノ。なんと言うべきか。
日々、俺の指導とは関係ない所でくの一として精進していそうなのが微妙に怖い。

「判った、判った。金は出してやるからお前等自分で買って来いや。」
 そう言って財布を出そうとすると
「あら、こう言う時は『今迄』『一人休んで居た』方が買いに行くモンなのではないんですか?」
 眼が笑っていないイノが態とらしく丁寧語になった上で可愛らしく小首を傾げる。そしてシカマルとチョウジは、動く気配すら見せ無い。コイツラ…

「あ~行きゃあ良いんだろ。」
 上忍師として此れで良いのか、とは少々悩むが其処まで厳密にやりたい訳じゃねぇし。
 と、言う訳で。
俺は『部下』共の笑顔に送り出され…作業をしていた資料室から…出来れば行きたくなかった廊下へと、足を踏み出したのだった。



 右を見ても左を見ても。紅・紅・紅…
ドレスの紅、スーツの紅、暗部服の紅まで居やがる。
 俺達が作業していた部屋はアカデミーに隣接した辺りにあった為、出歩いた俺はいろんな紅がチビ達相手に笑ったり叱ったりしながら…レオタード姿での体術なんてのも在ったが…授業する様を斜に眺めつつ、受付を抜けた所にある売店へと向かっていた。
 だが
『センセイ』達が居なくなると今度は皆『事務仕事』に勤しんで居る訳で。
皮の上下を纏った過激なのやら、婚礼衣装。更には男装の麗人風なんてのが真面目な顔で働いて居て…それだけでも十分視覚の暴力なのに、俺が通るのに気付いた連中は、微笑み掛けたり手を振ったり。果てはウィンクしてくる奴まで居たのである。
 紛い物だと判っているってのについつい反応してしまう純情さをまだ内に残していた…俺は。ほんの数m歩いただけで早くも精神的に疲れて果ててしまった。

 その上
偶に『普通の』通行人やアカデミーのガキが通って行くのが却って不自然で酷く怪しかったりする。なのに、俺以外の人間は何も気にしていないのだ。どうやらアノ受付忍が言った事は本当らしかった。

 こりゃ、変化じゃねぇな 俺限定での幻術、それも何らかの鍵を与えて『内勤』のヤツだけに反応するようにしてやがる

 かなり高度な術の筈だが…それを『こんな事』に使って見せる内勤の奴等のレベルをしみじみ実感させられる。
だが。それを他人を揶揄う為だけに使って良いのか、ってのは別問題な筈で。
後でキッチリ話を着けて置こうと決意を新たにする。

 と

 通り抜けようとした受付所で。
如何にも『たった今、戦場から戻った所です』風の目付きの座った…上忍に。今にも殴られそうになっている
フリルのエプロン姿の紅が、眼に入った。

「・・・・・・」
 途端にぶわっと湧き起こった、殺気。明らかな害意と敵意の篭ったチャクラの活性化に、逆上していたらしい上忍の意識が此方へと向かう。
だが、それで充分だった。
 大体コイツラは『暗部』の『医療・結界・幻術』関係の専門家達なのだ。俺が助けるまでも無くあの程度の忍なんか片手で処理出来る。
ましてや注意が逸れたとなれば…



 エプロン紅の、首筋に軽く当てた掌に昏倒させられた上忍が他の…浴衣だの巫女服たのの紅に運ばれて行く。そして

「有難う御座いました。アスマ先生。」
 嬉しそうに礼を言われても、居心地が良くない。…何故なら俺が『助けた』のはこの相手では無いのだから。
 大体、上忍にあるまじき感情の暴走で、殺気を撒き散らしてしまったのだ。三代目にバレたら確実に叱られる。否、真実がバレたら…大笑いされた挙句アチラコチラでの酒宴の肴にされる事間違い無しである。それだけは、避けたい。

「ま、無事で良かった。じゃ、な!」

 だから俺は慌てて、逃げる様にしてその場から立ち去ったのである。


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