ちゃきっ様

【感謝を篭めて、心からv】
   ~ 前 ~
[バイトしましょ♪]



 なにやら妙に離れ難いモノを感じつつ。しかし頭に浮かんだ可愛い部下達の罵声に後押しされて、どうにか布団から身を剥す。
それでも湧き起こる不吉な予感に、思わず傍らのカレンダーを眺めてみれば。

 それは間違う事無く・・・自分の生まれ落ちた日、であった。





「「「お誕生日、おめでとうございます!」」」
 受付に入った途端、俺は思わず棒立ちになってしまった。
俺は子供等を待ち合わせ場に置いて、10班の本日の任務を貰いに来た…だけだったのだが。

「お前等、どう言うつもりだ…」
 低く、唸る。
絶対、間違い無く。俺限定での嫌がらせである。何故なら、受付所中の…内勤中忍共が挙って

紅に変化していたのだからっっ

 表向きは事務の内勤でも、実質暗部な輩なのである。
誰もが見事に変化していて…しかも御丁寧に服装はまちまちだったりする…其処は文字通りハーレム特異な空間と化していた。
 幸い、世間が動き出すよりは少々早めに出て来たので、他の忍が殆どいない。故に唸ろうが怒鳴ろうが。…殺気立とうが。
世間様へ被害は出さずに済む。

「え、嫌がらせなんかじゃありませんよ。」
 にこにこ 受付笑顔で答える…声までちゃんと変化してやがる…振袖姿の紅、に。

「!お前かっっ」
 その口調に、良くイルカとつるんでいる見知った内勤中忍の気配を感じ取り。俺は襟首掴んで持ち上げるとギン!と睨みを利かせてやった。

 …だが。

「やぁね、なんて眼してるのよ。」

 吊り上げられたまま、紅の声と口調で肩を竦める相手は全く堪えていなかった。
だからと言って、このままで済ませられる訳も無く。
 俺は傍らに座っている別な紅…何故に看護婦なんだ?…に殺意を篭めた視線を向け、コイツを連れ出す許可を得る。
そして、側の資料室に引き摺り込むと
「それで、どう言う事なんだ。」
 と凄んで見せた。

 低く凝らした声は、我ながら柄が悪い。しかも頭一つデカい俺が詰め寄っていると言うのに、欠片も動揺をみせない辺り、流石は内勤でも現役暗部と言うべきだろうか。
だが感心している場合じゃあない。

「だから、お誕生日の贈り物よ。」
 にこにこにこ 見事な受付笑顔…が却って怪しい紅が答えをくれる。が

「…いいから、紅のしゃべりは止めろ。」
 俺が不機嫌そうに遮ると。男は口調『だけ』は改めてくれた。

「猿飛上忍は最近特に色々と、こちらの仕事を手伝って下さいましたでしょう。」
 だから

「内勤一同からの日頃の感謝を篭めまして、一日限定の美女天国を作ってみましたv」

 極上の笑みの中には欠片の悪意も感じられない。これが演技だとしたら立派なモンである。しかもその顔は、正真正銘『紅』そっくりで。

「…だったら何でアイツばかりなんだっっ 美女天国って言うなら…」
 他にも『美女』は居るだろう、と文句を言おうとした俺に、如何にも驚いた様な顔が向けられる。

「え、他の美女の方がお好みですかっ!?」
 明らかに外に聞こえる様に上げられた、声。うぅ、絶対皆…内勤連中だが…聞いてやがるぞ。そしてこの件が終わった後に前後の状況はバッサリ切って、此処の台詞だけ紅に注進したりする奴が居やがるんだ。絶対にそうだ!!
 互いに悪からず想っているのが判っていても、未だ意思の疎通には成功していない美女の姿が頭を過ぎる…

「大丈夫ですって。猿飛上忍以外にはちゃんといつもの俺達にしか見えないようにしてありますから♪他の方には気付かれませんて。」
だからとっぷり堪能して下さいv

 そう、妖艶に、笑い掛けられて。
嬉しいような嬉しく無いような…
取り合えず、腹が立ってもこの『顔』は殴れない…と言う事実の元、人の心の盲点を突く本気でイヤらしい作戦である事だけは実感させられた俺、だった。



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