ちゃきっ様

【バイトしましょ♪ 夏ばーじょん】
   ~ 後 ~



 結局。
午後から『ツアー客のストーカー』任務に就く事になった俺達である。
それもツーマンセルで、相手は前に俺達にバイトの話を持って来たイルカの同僚の…アノ中忍だった。

「あ、宜しくお願いしますねっv」
 と会った途端に明るく言われて。その上
「よく似合いますねっその面。」
 と付け加えられ…一気に脱力してしまった俺である。
因みに俺の面は『熊』で。…カカシの奴に無理矢理押し付けられたモノだった。

「お疲れの所、済みませんね~」
 ちっとも済まなさそうに聞こえない口調で謝られても嬉しくは無い。
しかし、今お前の所為で疲れたんだ…と口するだけの気力も起きない。
 その上
「では、ソチラを頼みますね。俺はコッチから様子見てますから。」
 と言われて。つい、面倒臭ぇと呟けば

「まぁた、そんな事言って。」
 口の割りに何でもキッチリなさる方なんで俺は安心出来ます

 と、妙に楽しげな様子で返された。のだが…
言葉からすると組んだ事が在るらしいのだが、チャクラ等に見覚えは無かった。
それを不審に思いつつ、一緒の任務に就いた事があるのかと訊ねて見る。

「はい、昔ですけど。」
 すると、そんな答えを嬉々として返して来た。しかし、それ以上の情報は口にして来ず。
俺はと言うと、今までの任務をざっと思い出してみたのだが…やはり、無理だった。

 カカシじゃあるまいし、何で思い出せ無いんだ…?
首を捻る俺を無視して男は
「じゃ、頼みますね!」
 と言い置くと、シュン…とその場から消え失せる。
因って取り敢えず思い出そうと努力しながら、それでも任務はしっかり行う事にした。

 しかし、思い出せない…

 元々ツアー自体には、旅行会社から以来された下忍の班が就いている。だから俺の担当は『同業者』だけである。
尚、俺達のルーキー班に依頼が来なかったのは、俺達が休養日だった事よりも相手が一般人だからだ。
普通の人間の行動を抑制するなら、見た眼からして『子供』でしかないルーキーより年嵩の強面の方が向いているのである。
 実際、就いて走り回されて居るのは俺とたいして変わらぬ年代のガタイの良い奴ばかりであった。
皆この手の任務に慣れた奴等らしく、押しの強いオバちゃんや言葉の通じない我侭娘にも立派に…腕力抜きで…対応している。凄いぞ、少し尊敬しちまいそうだ。


 こうして、俺が感心して眺めている間に無事ツアーは日程を消化し。
幸い、その日の『客』に不審者は居らず…思い出せない男の所為で妙にすっきりしないままその日は終わった。

 そ・し・て。

「イルカ先生の隣はお前には渡さん!」
「あ~はいはい。」

 ぐるぐると唸るカカシに威嚇結局翌日もその組み合わせで…と言う事になったのだ。





 翌日。
前日同様、姦しいくも慌しい軍団が木の葉に訪れた。

 のだが、
今回は昨日と少し様子が違った。
 何が、と言うと人々の様子だ。前の奴等だって決して落ち着いていた訳では無いが此処までざわざわしてはいなかった。
そして隙を突いて、ツアーから離れて行こうとする、輩。
 引率者が、最初から着いていた下忍達だけでは手が足りないと判断したらしく。途中から急遽『お手伝い』が増員されていたがそれでも足りない。
余りにも奥地に入り込んでしまいそうな奴等には致し方無く、俺がこの手で引導を渡した。
と、言っても当人が気付かないウチに意識を失わせ、担当者に引き渡して行っただけなのだが…これは此れで結構手間が掛かる。
しかも監視の方を怠る訳にはいかない為、影分身で人員を増やしたのだが…本気で面倒臭くなって来た。
 かくして何人目かの馬鹿…しかも足を踏み外して山道から転げ落ち掛けていた…を捕獲した時、である。

「あのっっ木の葉の人だよねっ」
 如何にも軽そうな男が、首根っこ?まれて宙吊りになったまま話しかけて来た。
「お金なら出すから!黄金木の葉笹ン所に案内してくれないか?」
「…はぁ?」
 状況から、特にコレと言った特徴の無い朴訥そうな忍…イルカがベースだ…に変化していた俺は、思わず声を上げてしまった。
黄金木の葉笹…聴いた事もねぇぞ。

 が、俺の態度を勿体ぶって隠して居る、と考えたらしい男は

「な、幾ら出せば良い?!5000、いや10000までなら出すっっ」

 と、どんどん勝手に競り上げて行く。
「何処だっ何処に…」
「…まぁ落ち着けや。」
 スッと手を首筋に添え、ぐったりとした男の身体を引率者の元へと運ぶと。



俺はこの『妙な動き』の原因らしい黄金笹の事を報告する為、本部へと向かった。

 勿論、影分身は置いたままで。





 と、途中で

「あ、丁度良かったですv」

 …相方が、妙な一般人を引き摺っているのに遭遇した。


「どうした?」
 足を止めて訊ねると
「コイツを警備に引渡して来ますから。」
 変化で作った『よくありそう』な顔で相方が言い、それに男が
「げっ元凶とは何だっっ俺は市民の『知る権利』の為に調査を…」
 等とじたばた足掻きながら喚き出した。

 何じゃこりゃ

 怪訝そうに見詰める俺に、
「はいはい。大人しくしようね~。さもないと『人体の痛点とその限界』について先ず調査する事になるよ。」
 と、極普通の様子で言い聞かせて居る。…流石、イルカの同僚。表情や声音と言ってる内容が一致していない…

「すみません、後お願いします。直ぐに戻って来ますから!」

 そう言って頭を下げながら、行ってしまおうとする相方に。

「おい待てっ俺も報告が在る。」

 と、慌ててついて行こうする。が

「それって黄金笹の事ですか?」と尋ねられ。
 そうだと頷けば

「だったら、俺がしときます。…ソレの、元凶もコイツなんです。」

 と言い切られた。

「???」

 疑問符を浮かべながらも、一応俺もまた、報告だけはし…
後でしっかり吐かせようと心に決めながら、再び『笹採り人』達の下へと戻って行ったのである。






「つまり、アイツは新聞記者か。」
「それも性質の良く無い、です。」
 任務後、口を割らせようと男を捕まえた俺は、
何故かカカシやイルカとも一緒に、料理屋の一室に居る羽目に陥っていた。

「つまりあの男は、里の『極秘機関』に進入して記事にしたかったらしいんですよ。」
「でも『里』の警備は厳しいし。」
「それで撹乱の為に、偽情報を流して」
「大量の人間をあちらこちらにウロウロさせようとした訳なんですよね。」

 にこにこと人の良さそうな笑顔で。息の合った様子でイルカと交互に語る男に。

「で、『黄金木の葉笹』ってのはその為の嘘だと。」

 どうやら嫉妬したらしいカカシが、会話に割り込むついでにグイッとイルカを自分の方へと引き寄せた。
それに対して、酔っているのか少し赤い顔をしたイルカは、嫌がりもせずにけらけら笑っている。…勝手にやってろ…

「で、何なんだ黄金木の葉笹ってのは?願うと確実に叶えてくれる…とでも言うのか?」
 微妙に視線を逸らしつつ俺が尋ねると

「いいえ、そんな荒唐無稽なモンじゃなく…」
 ドラマの本番で使用していた笹で、記念に竹の部分に主人公とヒロインのサインが入っている…と。

「言う事になってるらしいんですよね~。木の葉に撮影協力のお礼として寄付してったって。」
 因みに『黄金』ってのはカメラ写りが良いように葉っぱにワックス掛けをしたんで光を受けると金色になるから…だそうです

「中々凝った設定、ですよね。」

 にこにこと中忍暗部が笑う。しかしこの後に『夏休み前のこのクソ忙しい時期に…』とぼやいたのを、俺は聞き逃さなかった。
それにしても、やっぱり思い出せない。

「?アスマ先生。」



「え、アスマったらそいつみたいなのが『好み(タイプ)』なんだ。」

 …どうやらマジマジと見詰め過ぎたらしい。イルカの声に、すかさずカカシが突っ込みを入れて来る。…俺はソッチの趣味はねぇっっっ!

 と

「違いますよ。まぁ俺が『女』だったら好みだったかも知れませんけど。」
 にっっこり 笑って答える、男。

「…あ!!」

 思い出した。


 随分昔の事だが…暗部の任務で、結構な大所帯で国の重鎮の警護をした時の事である。
『傍にも誰か護りを』だの
『見場が悪いからくの一にしろ』だの
 ガタガタ言われて、チームの一人が妖艶なくの一に化けたのだった。


「お前、あの時の…」
「はいvお世話になりましたっ。隊長が無言の圧力を掛けて下さったお陰で褥までは連れ込まれずに済みました。」
 にこにこと笑って礼を言われる。

 が。俺もしっかり思い出していた。
閨まで警護しろ…と言い出した相手に、コイツの背から不気味な気配が漂い出した事を。
俺が『相手』に圧力を掛けたのは、つまり。コイツがキレて相手に実力行使しない為だったのだ。
 因みにチャクラの記憶がなかったのはコイツが始終変化で重鎮に張り付いていた為、チャクラを殆ど感じさせなかったからである。
そして結局、敵を『目標』に近付ける様なヘマをしなかった所為で…本来のチャクラも、姿も見ないで終わってしまっていた。


「アスマ先生はそう言う所、男気がお有りですよね。」
「俺だって有りますよっ」
 イルカの言葉に、またも嘴を挟むカカシ。

 そして俺は

「ま、あの時のお礼です。じゃんじゃん飲って下さい!」
 と言って、並々と注がれたコップ酒を手に。

…悪酔いの予感に苛まれていた。



【終わり】
[ちゃきっ@天手古舞]
DL:-
UP DATE:-
RE UP DATE:2024/08/20



   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 nartic boyで相互リンクしていだいていた【天手古舞】のちゃきっさんに『イルカ先生24時間観察記録』というリクエストで書いて頂いた小説『バイトしましょ♪』から更に続きが!
 カカイルがいい雰囲気になる程、アスマさんが苦労する気がします…(;^_^A
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
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