ちゃきっ様

【バイトしましょ♪ 2】
   ~ 後 ~



「あ、やっぱり。」
「?」
 ボソッと呟かれた言葉を聞き咎めた俺達は。一瞬遅れて、その気配を感じ取った。
「行きましょう。」
 軽やかな動きのまま、少し脚を早めたイルカ先生が気配の元へと近付いて行く。
そして濃くなる血の、臭い。


「…っ…木の葉…」
 其処に晒し者になっていたのは、他里の忍だった。額宛の里の印が傷付けられている辺り、抜け忍と言う事か。
まだ辛うじて息がある様子だ。先生に手で制止され、少し離れた場で待機させられる。
「此処まで入り込むとは中々の腕ですね。」
 でも、終りです
 嘲笑を感じさせてつつ宣言したイルカ先生が、ふわりと『敵』のすぐ傍らに降り立った。その瞬間。
「!」
 敵忍が嫌な笑みを浮かべた。反射的に飛び出した俺は、咄嗟にイルカ先生に跳び付き
「……」
 何も、起きなかった。
「っ、先生…退いて下さい。但し!足元に気を付けて。」
 不自然な体勢で四肢を突っ張り、自分と俺の身体が地に転がるのを防いた先生が唸る様に呟く。
考えて見たら下には『罠』が一杯だったのだ。
転がったらそれが発動してしまう。
「あ、ああっ済みませんっ」
 慌てて飛び退こうとして、
「先生っ」
 気合の篭った声に動きを止められる。ゆっくりと、足場に気を付けながら離れ…先生が起き上がるのに手を貸した。
「…何…故…」
 振り絞る様な声に顔を向けると、敵忍がこちらを見ていた。…驚愕を顔に貼り付けている。
「さて、ね。」
 千本を取り出した先生が、すっ…と近付くと。掛かっていた『獲物』は、がっくりと頭を垂れた。首から数本の千本が生えている。
「それって仮死のツボですよね。」
 俺が覗き込む様にしてそう、話し掛けるのと同時に
「…お前、何やったんだ?」
 漸く近付いて来た熊がイルカ先生に訊ねた。声に怪訝さが滲んでいる。
「あ、済みません。説明しないで動いちゃって。」
「アノ、敵を見つけた時に走りながら切った印の事ですか?」
 俺が問うと
「はい、お気付きでしたか。あれで『チャクラ封じ』の結界を張ったんです。」
 この男の周囲だけ 大概の自爆は『符』が発火点になってますから、これだけで阻止出来るんです
「勿論、その後は迅速に意識を奪う必要がありますけどね。」
 淡々とした、言葉。
そうだった。この人を含め…内勤の連中は『罠』や『結界』と言った所謂サポート型の術っを得意とする忍なのだ。
それ位の事、然して苦にもせずやってのけるだろう。
「まぁ、偶に別口の『着火方法』を取るヤツも居ますから完全に安全とは言えませんけど。」
 その場合に備えて、近付く時は自分の周囲にも小結界を張る様にしています
「でも出来れば直撃は避けたいから、一応距離のある内に挑発するんですけどね。」
 イルカ先生はそんな事を、教えてくれながら『敵』を罠から外していく。つまり、今の行動全てが『通常の』物…らしい。
やがて
「これで持っていけますねv」
 …語尾に喜びが滲んでいる気がするのは錯覚だろうか…
連鎖罠に掛かったらしくかなりボロボロになっていた相手だが、それでもどうにか息はあるみたいだ。
 そして
「済みません、ソレお二人で『運んで』戴けますか?」
 そっと下に降ろされた敵を見ながら、先生が言った。
「…はぁ。」「そう言う事か。」
 自分達が連れて来られた理由を知り、俺と髭は…同時に溜息を付いた。
つまり、『大物』が掛かっていた場合の荷運び要員だった訳だ。…確かに一人では罠に警戒しながら人間を運搬するのは、無理だ。
「他所なら、掛かった相手も口寄せの要領で『飛ば』せるんですけどね。」
 此処の土地柄で、上手く行かないんですよ だから人力運搬しか無いんです
イルカ先生もまた、溜息を吐き出しつつ俺達に『裏事情』を説明してくれる。
「何時もはフォーマンセルで来るんですけど、今日は本当に人手がなかったし。」
 火影様がお二人なら大丈夫だっておっしゃったんで、3人で来たんです。
「流石、信頼されて居られますねぇ。」
 『荷運び』をする俺達を先導しながら、感心した様にイルカ先生が言ってくれる。が!少しも嬉しくない。
つまり三代目から『酷使しても大丈夫』のお墨付きを貰ってしまった訳なのである。此れからが、恐い。
 …横の髭も一挙に顔色が悪くなった気がする…

 とは言え、此処からは然して『大物』も出ず。邪魔臭いながらも持ち帰った獲物を拷問・尋問部に渡して、俺達の『バイト』は終わったのだ。

「あ、カカシ先生にアスマ先生!」
 イビキの処から戻ると、面を外したイルカ先生に声を掛けられた。
「今夜、お暇ですか?コレ余ったから鍋にしようかと思って。」
 人の良い笑顔で、手にぶら下げているのは…太った山鳥。

「他の、兎とか色々は夜勤連中の夜食にするんでコレしか無いですけど。」
 良かったら、一緒に如何ですか? 俺一人じゃあ多いんです
にこにこと。悪びれず『敵忍と一緒に串刺しになっていた』獲物を示すイルカ先生に
「はい、暇ですっっお相伴させて下さい!!」
 と俺は答え。傍らの熊髭は
「…遠慮しておく。俺ぁ帰って寝るわ。」
 如何にも疲れ切った声でそう応えた。その足の上に俺の踵が乗っていたりしたのは偶然だ。
「はい、有難う御座いました。良くお休み下さい。」
 ぺこっと頭を下げるイルカ先生に、片手で合図してアスマは去って行く。そして
「では、カカシ先生。俺ん家で良いですか?まだこの前の酒も残って居ますし。」
「はいv」
 俺達は、着替えもソコソコに連れ立って帰路を辿った。
「本当に有難う御座いました。内容が内容ですので頼める方も余りいなくて…」
「イエイエ、俺達で良かったら幾らでも声掛けて下さい。お手伝い位しますよv」

 …墓穴を掘っていると、自分では気付きもせずに。



【おわり】



「処でお前ぇ、最近妙な噂聞いたんだが。」
 常の事で、受付のソファで暇潰しをしていると。何処からとも無く沸いて出た髭がどっかりと腰を降ろしながら訊ねて来た。
「煩いっ髭っっ!」
 叫んで言葉を封じた俺に、髭は胡乱な眼を向けつつも黙り込む。
…そう。俺は今、非常に不本意な『噂』に翻弄されていた。


 どうやら、何処かで『内勤の悪いお遊び』の現場を見られて居たらしく。
そりゃ確かに男に服剥がされて、その上肌見られてたけど。それに抵抗していなかったけど。でも、だけど。だからって…
 つまり
里で新しい『友人関係』を作ろうとしていると言う前々からの風聞は、何時の間にか里で新しい『彼氏』を捜している、に取って変わられてしまっていたのだ。

「済みません、はたけ上忍。…少々宜しいでしょうかっ」
 目の前に直立不動の姿勢を取った…ゴツい男が喚く。顔が緊張と興奮で赤く染まっている。
「…付き合ってくれとか言うんならお断りだ。俺はソウイウ趣味じゃねぇっ。」
 ソイツの顔を見詰めながら低く、唸る。眼が座って居るのが自分でも判った。
「大体、貴様等。」
 じろりと、男と…周囲を見渡して。

「『忍』ならっ噂なんかに惑わされるんじゃねぇっっ!!」

 絶叫した俺が相手に掴みかかるのと同時に。
…慌てた『内勤』達が飛んで来た…

「馬っ鹿ヤロウっっ!!」



【終】
[ちゃきっ@天手古舞]
DL:-
UP DATE:-
RE UP DATE:2024/08/20



   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 nartic boyで相互リンクしていだいていた【天手古舞】のちゃきっさんから『イルカ先生24時間観察記録』というリクエストで書いて頂いた小説…『バイトしましょ♪』の続きを頂きました。
 カカシさんを翻弄するイルカ先生が素敵過ぎて…。
ありがとうございましたorz
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
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