Saint School Life
【15:宿泊学習と家族旅行】
〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]
城戸家の10人兄弟が学園に通いはじめて2ヶ月程が経った。
当初懸念されていた心配事は杞憂に過ぎなかったり、ほぼ予想通りとなったり、想定外の面倒事が持ち込まれたりはしたけれど、概ね平穏に日々は過ぎている。
そして、最初の学期も終わりが近づき、夏休みが目前となった頃、兄弟たちは揃って学園からのお知らせを持ち帰り、その案件について家長へ相談を持ちかけた。
「宿泊学習、ですか?」
「学園から、サマーキャンプへの参加申込書を渡された。クラスメートにどういう物かは聞いたが、オレたちが参加して良いものか判断がつきかねる」
グラード学園では夏休み最初の3日間、希望者を募ってサマーキャンプを開催している。
毎年場所は変わるが、関東近郊の山地や海岸で自然観察学習やオリエンテーリングなどを行い、普段の学園ではできないフィールドワークの経験を生徒に積ませる機会として。
いわゆる、林間学校や臨海学校の類いだが、参加条件に学年の垣根はなく、ただ宿泊するので保護者の承諾が必須だ。
各学年とも参加者は3〜4割程度で、学年が上がるにつれて減っている、らしい。
一輝としては、自分は仕事で行けないし行くつもりもないものの、行きたいという者は参加させていいと思っている。
教職員の何人かには、全校生徒から注目されている城戸兄弟も参加するならもうちょっと参加者も増えるだろうから、と勧められたというのもあった。
それと単純に、兄弟たちには普通の学校生活というのを出来るだけ満喫して欲しい気持ちが強い。
大自然の中での探索など、一輝だけでなく兄弟全員が聖闘士としての修行期間に散々やり尽くしたが、他の生徒とのコミュニケーションを取る機会と考えれば貴重な体験になるだろう、という思いで。
参加する兄弟たちに多少の制限は必要───いざとなれば、幻魔拳で一時的に聖闘士の能力を使えなくするのもありか、と考えてもいるけれど。
そんな精神的長兄の過激な枷の算段に悪寒を覚えながらも、参加を希望するのは末っ子トリオの瞬、邪武、星矢。
那智と紫龍、檄と蛮は参加でも不参加でも構わないと述べ、氷河と市はこの暑い時期に外に出たら溶けてしまうと断固拒否の姿勢だ。
「私も、参加するのは良いと思います」
そう前置きしてから、学園から配られたプリントに再度目を通した沙織はちょっとだけ寂しげに、指摘をする。
「ただ、前期中間考査で欠点だった者は補講と追試が優先される、とありますから、ね?」
サマーキャンプの日程と、補講と追試のスケジュールは重複していた。
つまり、テストで赤点を取った生徒は参加資格がない。
その事に思い至った星矢がソファから崩れ落ちて膝をついた。
問題文の読み間違えと漢字の書き間違いのせいで、数学と日本史の点が後少し足りなかったのが敗因だろう。
その向かいで、この暑さの中、夏休み中も学園へ通わなければならないと悟った氷河まで絶望している。
少し、部屋が涼しい。
「そうなると瞬と邪武が参加、でいいのか?」
せっかくクラスメートに講師までお願いしたというのに欠点を取った弟2人には構わず、一輝は沙織へ確認する。
「星矢が行けねえなら、オレが参加する意味ねえからいいわ」
「僕も1人だとまだ不安だし、星矢や邪武が行かないなら、またの機会でいいかな」
すると星矢のお目付け役のつもりで参加を予定していた2人も、参加を取りやめると言い出した。
そんな同年の兄たちの気遣いに、末っ子は顔を上げて2人に参加を勧める。
「いや。2人は楽しんで来てくれよ。クラスの女子たちがすっげえ楽しいから、絶対参加した方が良いって言ってたんだ。どうせなら、氷河……はダメなのか。だったら、紫龍とかがついてってくれれば、いいだろ?」
その言葉で、兄弟達は察してしまった。
星矢が殊の外サマーキャンプを楽しみにしていたのは、クラスメートの女子たちからとても楽しい催しだと吹き込まれていたからだろう、と。
そして、彼女たちのお目当ては末っ子に誘われて世話焼きに参加するであろう───できたらイケメンな方の、兄弟たちとの交流。
きっと、金髪のお兄さんにも声かけてあげてね、髪の長いお兄さんも誘ってあげてよ、瞬くんとお兄さんも、と親切ごかして言い含められていたのだ。
星矢のクラスには、なかなかの策士がいると思われる。
「……星矢、宿泊学習ですからね。普段と違う環境で、他学年の生徒と交流するのは楽しいでしょうが、あくまでも勉強が主体です。遊びに行くのとは、違いますよ」
呆れを隠さず諭す沙織の言葉に、末っ子は再び膝をついた。
★ ☆ ★ ☆ ★
「オレは追試あるから仕方ねーけどさ。瞬や邪武は行かなくて良かったのかよ」
家族会議で今年のサマーキャンプへは全員不参加と決まったのに、勉強室で宿題と追試に向けての特訓として課された漢字の書き取りを進めながら、星矢の口はまだ未練たらたらだった。
「さっきも言った通り、お前が行くって言い出さなきゃオレはサマーキャンプとかどうでも良かったんだよ。沙織お嬢様のお側を離れる事になるしな」
「僕もわざわざ兄さんと離れてまで、1人で行くのはつまらないよ。来年は追試無しで、みんなで行けたらいいな、とは思うけど」
本日の宿題を終え、日課にしている100マス計算をこなした邪武と瞬も漢字の書き取りに取り掛かりながら答える。
共に、邸から離れたがらない理由は揺るがない。
それでも、末っ子を心配するであろう家長と精神的長兄の為なら動く事もある、というだけだ。
「……来年かぁ。でもさ、せっかくの夏休みだし、旅行とかできねえかなあー? ほら、海外とか!」
夏休みが近づいているせいが、教室でのクラスメートたちの話題はその過ごし方についてが増えてきていた。
部活の練習で夏休みなんて関係ないという生徒もいるが、それでも夏合宿や大会への遠征などで遠出をするのを楽しそうに話し合っている。
趣味のあれこれでイベントへ参加する者や、家族揃って両親の実家へ帰省したり、国内外へ旅行へ行くとか。
そんな末っ子の楽しげな提案に水を差すのは那智であった。
「家族揃って海外って、行ってるだろ? 毎月」
聖域に。
聖闘士として。
訓練に。
期せずして、全員の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
確かに、家族揃っての海外渡航ではある。
兄の特殊能力を利用しての、不法密入国だが。
「……いや、そーゆーのじゃなくて。温泉とか、リゾートとか、バカンスとか! ラグジュアリーでゴージャスな常夏でひと夏の冒険のパラダイスだよ!」
旅行会社の宣伝にあった謳い文句を意味も理解せずに列挙し、兄弟へ訴える末っ子。
その言葉に惹かれながらも、兄たちは現実をつきつけてくる。
「うーん。確かに、家族旅行が出来たらいいな、とは僕も思うよ」
瞬だって兄と様々な史跡を見物するだけの観光をしたり、遊びとして海で泳いだり、クルージングに興じてみたい気持ちはある。
むしろ、星矢よりもよっぽど強くできたらいいのに、と思い描いている。
けれど、女神によって何かが封じられた古代の遺跡に異常がないか調査したり、海皇の封印が緩んだかもしれない海底の奇岩を確認したり、復興途中の冥界の川を小舟で渡ってみたり、はたとえ兄と一緒でもあまり行きたくない。
「ただよ、うちはこの通りの大家族だ。移動と宿泊の手配をするだけでも普通に団体様なんだぜ」
「ようは、今からじゃどこも予約が取れる確証はなしってね」
けれど、邪武と那智が言う通り、城戸家は10人兄弟だ。
未成年の彼らだけでは宿泊施設も予約を受け付けてくれないだろうから、保護者として居候を最低3人は連れて行かねばならないだろう。
きっと全員来るだろうし、実質的な保護者は精神的長兄だが。
そんな団体客を繁忙期に飛び込みで受け入れてくれる観光地の宿泊施設は多分、存在しない。
「お嬢様に頼めば、別荘へ避暑に行くくらいは出来そうだが、邸から移動しただけで使用人も料理人もついてくるから、普段と変わりがないと思うぞ」
「近くに観光地もあるだろうから別荘も楽しそうではあるけど、ちょっと僕らの考えてる家族旅行とは違う感じなんだよねえ」
邪武と瞬が妥協案を出しつつ、望んでいる物との差異も口にする。
保有する別荘と宿泊施設、それぞれに醍醐味があるのだろうが、彼らが求めているのは普段と変わりなく過ごせる別荘ではなく、日常からちょっと離れた未経験の体験である。
そう、ほんのちょっと、だ。
学校も楽しいが、慣れない学生生活で気詰まりする事もある。
その息抜きがしたいだけ。
かと言って、神々の争いとか、世界の危機とか、壮大すぎる非日常は向こう数100年は関わりたくない。
大人しくしてて欲しい。
やはり、全員封印すべきだろうか。
神。
「それでもさー」
「……なにより。追試をクリアしなければ、オレたちの夏休みは始まらないのだ……」
それでも、行きたいものは行きたいのだ、と食い下がる星矢へ、氷河が絶対零度の声音で現実を突きつけてくる。
写経のように、ひらがなとカタカナの五十音表を繰り返し書き出しながら。
「……それを、それを言わないでくれー!」
嘆く星矢へ、兄弟たちの反応は冷淡だ。
「結局、それなんだよなー」
「ま、お前が頑張りゃ済むことだ」
「氷河も頑張ってるんだし、星矢も追試に向けて復習しようよ。ね?」
果たして、城戸家の兄弟が家族旅行へ行ける日が来るのか。
それは、星矢と氷河の追試の結果次第である。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2024/10/20〜2024/10/23
UP DATE:2024/11/01(iscreamman)
〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]
城戸家の10人兄弟が学園に通いはじめて2ヶ月程が経った。
当初懸念されていた心配事は杞憂に過ぎなかったり、ほぼ予想通りとなったり、想定外の面倒事が持ち込まれたりはしたけれど、概ね平穏に日々は過ぎている。
そして、最初の学期も終わりが近づき、夏休みが目前となった頃、兄弟たちは揃って学園からのお知らせを持ち帰り、その案件について家長へ相談を持ちかけた。
「宿泊学習、ですか?」
「学園から、サマーキャンプへの参加申込書を渡された。クラスメートにどういう物かは聞いたが、オレたちが参加して良いものか判断がつきかねる」
グラード学園では夏休み最初の3日間、希望者を募ってサマーキャンプを開催している。
毎年場所は変わるが、関東近郊の山地や海岸で自然観察学習やオリエンテーリングなどを行い、普段の学園ではできないフィールドワークの経験を生徒に積ませる機会として。
いわゆる、林間学校や臨海学校の類いだが、参加条件に学年の垣根はなく、ただ宿泊するので保護者の承諾が必須だ。
各学年とも参加者は3〜4割程度で、学年が上がるにつれて減っている、らしい。
一輝としては、自分は仕事で行けないし行くつもりもないものの、行きたいという者は参加させていいと思っている。
教職員の何人かには、全校生徒から注目されている城戸兄弟も参加するならもうちょっと参加者も増えるだろうから、と勧められたというのもあった。
それと単純に、兄弟たちには普通の学校生活というのを出来るだけ満喫して欲しい気持ちが強い。
大自然の中での探索など、一輝だけでなく兄弟全員が聖闘士としての修行期間に散々やり尽くしたが、他の生徒とのコミュニケーションを取る機会と考えれば貴重な体験になるだろう、という思いで。
参加する兄弟たちに多少の制限は必要───いざとなれば、幻魔拳で一時的に聖闘士の能力を使えなくするのもありか、と考えてもいるけれど。
そんな精神的長兄の過激な枷の算段に悪寒を覚えながらも、参加を希望するのは末っ子トリオの瞬、邪武、星矢。
那智と紫龍、檄と蛮は参加でも不参加でも構わないと述べ、氷河と市はこの暑い時期に外に出たら溶けてしまうと断固拒否の姿勢だ。
「私も、参加するのは良いと思います」
そう前置きしてから、学園から配られたプリントに再度目を通した沙織はちょっとだけ寂しげに、指摘をする。
「ただ、前期中間考査で欠点だった者は補講と追試が優先される、とありますから、ね?」
サマーキャンプの日程と、補講と追試のスケジュールは重複していた。
つまり、テストで赤点を取った生徒は参加資格がない。
その事に思い至った星矢がソファから崩れ落ちて膝をついた。
問題文の読み間違えと漢字の書き間違いのせいで、数学と日本史の点が後少し足りなかったのが敗因だろう。
その向かいで、この暑さの中、夏休み中も学園へ通わなければならないと悟った氷河まで絶望している。
少し、部屋が涼しい。
「そうなると瞬と邪武が参加、でいいのか?」
せっかくクラスメートに講師までお願いしたというのに欠点を取った弟2人には構わず、一輝は沙織へ確認する。
「星矢が行けねえなら、オレが参加する意味ねえからいいわ」
「僕も1人だとまだ不安だし、星矢や邪武が行かないなら、またの機会でいいかな」
すると星矢のお目付け役のつもりで参加を予定していた2人も、参加を取りやめると言い出した。
そんな同年の兄たちの気遣いに、末っ子は顔を上げて2人に参加を勧める。
「いや。2人は楽しんで来てくれよ。クラスの女子たちがすっげえ楽しいから、絶対参加した方が良いって言ってたんだ。どうせなら、氷河……はダメなのか。だったら、紫龍とかがついてってくれれば、いいだろ?」
その言葉で、兄弟達は察してしまった。
星矢が殊の外サマーキャンプを楽しみにしていたのは、クラスメートの女子たちからとても楽しい催しだと吹き込まれていたからだろう、と。
そして、彼女たちのお目当ては末っ子に誘われて世話焼きに参加するであろう───できたらイケメンな方の、兄弟たちとの交流。
きっと、金髪のお兄さんにも声かけてあげてね、髪の長いお兄さんも誘ってあげてよ、瞬くんとお兄さんも、と親切ごかして言い含められていたのだ。
星矢のクラスには、なかなかの策士がいると思われる。
「……星矢、宿泊学習ですからね。普段と違う環境で、他学年の生徒と交流するのは楽しいでしょうが、あくまでも勉強が主体です。遊びに行くのとは、違いますよ」
呆れを隠さず諭す沙織の言葉に、末っ子は再び膝をついた。
★ ☆ ★ ☆ ★
「オレは追試あるから仕方ねーけどさ。瞬や邪武は行かなくて良かったのかよ」
家族会議で今年のサマーキャンプへは全員不参加と決まったのに、勉強室で宿題と追試に向けての特訓として課された漢字の書き取りを進めながら、星矢の口はまだ未練たらたらだった。
「さっきも言った通り、お前が行くって言い出さなきゃオレはサマーキャンプとかどうでも良かったんだよ。沙織お嬢様のお側を離れる事になるしな」
「僕もわざわざ兄さんと離れてまで、1人で行くのはつまらないよ。来年は追試無しで、みんなで行けたらいいな、とは思うけど」
本日の宿題を終え、日課にしている100マス計算をこなした邪武と瞬も漢字の書き取りに取り掛かりながら答える。
共に、邸から離れたがらない理由は揺るがない。
それでも、末っ子を心配するであろう家長と精神的長兄の為なら動く事もある、というだけだ。
「……来年かぁ。でもさ、せっかくの夏休みだし、旅行とかできねえかなあー? ほら、海外とか!」
夏休みが近づいているせいが、教室でのクラスメートたちの話題はその過ごし方についてが増えてきていた。
部活の練習で夏休みなんて関係ないという生徒もいるが、それでも夏合宿や大会への遠征などで遠出をするのを楽しそうに話し合っている。
趣味のあれこれでイベントへ参加する者や、家族揃って両親の実家へ帰省したり、国内外へ旅行へ行くとか。
そんな末っ子の楽しげな提案に水を差すのは那智であった。
「家族揃って海外って、行ってるだろ? 毎月」
聖域に。
聖闘士として。
訓練に。
期せずして、全員の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
確かに、家族揃っての海外渡航ではある。
兄の特殊能力を利用しての、不法密入国だが。
「……いや、そーゆーのじゃなくて。温泉とか、リゾートとか、バカンスとか! ラグジュアリーでゴージャスな常夏でひと夏の冒険のパラダイスだよ!」
旅行会社の宣伝にあった謳い文句を意味も理解せずに列挙し、兄弟へ訴える末っ子。
その言葉に惹かれながらも、兄たちは現実をつきつけてくる。
「うーん。確かに、家族旅行が出来たらいいな、とは僕も思うよ」
瞬だって兄と様々な史跡を見物するだけの観光をしたり、遊びとして海で泳いだり、クルージングに興じてみたい気持ちはある。
むしろ、星矢よりもよっぽど強くできたらいいのに、と思い描いている。
けれど、女神によって何かが封じられた古代の遺跡に異常がないか調査したり、海皇の封印が緩んだかもしれない海底の奇岩を確認したり、復興途中の冥界の川を小舟で渡ってみたり、はたとえ兄と一緒でもあまり行きたくない。
「ただよ、うちはこの通りの大家族だ。移動と宿泊の手配をするだけでも普通に団体様なんだぜ」
「ようは、今からじゃどこも予約が取れる確証はなしってね」
けれど、邪武と那智が言う通り、城戸家は10人兄弟だ。
未成年の彼らだけでは宿泊施設も予約を受け付けてくれないだろうから、保護者として居候を最低3人は連れて行かねばならないだろう。
きっと全員来るだろうし、実質的な保護者は精神的長兄だが。
そんな団体客を繁忙期に飛び込みで受け入れてくれる観光地の宿泊施設は多分、存在しない。
「お嬢様に頼めば、別荘へ避暑に行くくらいは出来そうだが、邸から移動しただけで使用人も料理人もついてくるから、普段と変わりがないと思うぞ」
「近くに観光地もあるだろうから別荘も楽しそうではあるけど、ちょっと僕らの考えてる家族旅行とは違う感じなんだよねえ」
邪武と瞬が妥協案を出しつつ、望んでいる物との差異も口にする。
保有する別荘と宿泊施設、それぞれに醍醐味があるのだろうが、彼らが求めているのは普段と変わりなく過ごせる別荘ではなく、日常からちょっと離れた未経験の体験である。
そう、ほんのちょっと、だ。
学校も楽しいが、慣れない学生生活で気詰まりする事もある。
その息抜きがしたいだけ。
かと言って、神々の争いとか、世界の危機とか、壮大すぎる非日常は向こう数100年は関わりたくない。
大人しくしてて欲しい。
やはり、全員封印すべきだろうか。
神。
「それでもさー」
「……なにより。追試をクリアしなければ、オレたちの夏休みは始まらないのだ……」
それでも、行きたいものは行きたいのだ、と食い下がる星矢へ、氷河が絶対零度の声音で現実を突きつけてくる。
写経のように、ひらがなとカタカナの五十音表を繰り返し書き出しながら。
「……それを、それを言わないでくれー!」
嘆く星矢へ、兄弟たちの反応は冷淡だ。
「結局、それなんだよなー」
「ま、お前が頑張りゃ済むことだ」
「氷河も頑張ってるんだし、星矢も追試に向けて復習しようよ。ね?」
果たして、城戸家の兄弟が家族旅行へ行ける日が来るのか。
それは、星矢と氷河の追試の結果次第である。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2024/10/20〜2024/10/23
UP DATE:2024/11/01(iscreamman)