Saint School Life

【13:はじめてのテスト結果】
   〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]



 テスト休み明けの授業は受けたテストの返却と、回答の解説がされる。
ここできちんと自分の理解度を確認し、復習しておかなければ次の考査でも同じ間違いをする事になるだろう。
それを理解できている生徒は真剣だが、分かっていない生徒は既に終わった事として聞き流してしまう。
これが、後々の差になるというのに。

 返却されたテストの解説により発覚した採点ミスは訂正され、確定した点数が出揃った後、校舎の昇降口には主要3教科の合計点による学年順位上位者30名の名前が名簿順に発表された。
個人へ渡される成績表には学年とクラスでの順位も記されているが、ここでは名前だけで順位も点数も公表はされない。

 それもあって張り出された名前を確認するのは特進クラスであるA組の生徒ばかりで、名前の無い者の落ち込み様は悲痛だ。
クラスでの決め事はこの順位が基準になるというのもあるし、単純に勉強以外にも注力しているスポーツ特待生の多いC組や帰国子女ばかりのD組、既に社会に出ているなどして通信制で授業を受けているS組の生徒に負けるのが悔しいのだ。

「……ねえ」

 2-Aに所属する岸川敬吾は上位者30名が張り出された掲示板の側の壁に全身でもたれかかっていた。
同じクラスに編入してきた城戸瞬と、最近仲良くなった2-Cの垣ノ内慎の名前は見つけたが、自分の名前は見つけられない。
一応、隣に貼られた補講と追試を命じられた生徒の名も確認したが、そちらにも名前はないので悪い結果ではない事が救いか。
それでも、特進クラスに在籍している以上はここに名前があって当たり前という認識でいるので、落ち込んでしまう。

 尚、一緒に確認に来ていた同じクラスの瞬は自分の名前を見つけた後、他学年の兄弟たちの名前を探している。
4年に城戸一輝の名前を見つけ、自分の時以上に喜んでいた。
安定のブラコンぶりである。
そして、ついでにと確認した追試宣告に城戸星矢と城戸氷河という記載を見つけ、岸川の隣で頭を抱えてしまっていた。

「2人共どしたのー?」

 同じクラスの藤宮聖心が通りかかって声をかけてくる。
当然、彼女も上位者の方に名前があった。

「藤宮さん。これ、どういう事か分かる?」

 瞬は追試宣告の張り紙を指して、藤宮へ問いかける。

「追試? ああ、末っ子くんと、金髪のお兄さんだっけ? 追試になっちゃったんだねえ。でも、そんなに心配する事ないと思うけど?」

 瞬の悲痛な表情に、藤宮は明るく答えた。

「そうなの?」

「うん。だって、補講と追試は考査で点が足りなかった生徒への救済措置だもの。テスト範囲の要点をまとめた講習を受けて、ちょっと難易度低めのテスト受けるだけだよ」

 何年かおきに追試の方が簡単だから、と意図的に欠点を取って追試で点を稼いだりする生徒もいるらしい。
まあ、夏休みを潰してまで補講と追試を受けるのがバカらしい、と1回で止めるそうだが。

「だから、補講で復習ちゃんとやったら、大抵は合格点は貰えるよ」

「そうなんだ」

 藤宮の説明に気が軽くなる瞬ではあったが、完全に不安が払拭されたとは言えない。
大抵、なのだ。
全員、ではない。

 補講の前に、自宅でも復習が必要かもしれない。
そんな考えが浮かんだ。



   ★ ☆ ★ ☆ ★



 さて、その日の夜。
城戸邸の勉強室では、全員の採点済みの答案用紙を前に、兄弟たちが揃って厳しい表情をしていた。

「まず、星矢は問題文の読み間違えと漢字の書き間違えで細かく点を引かれている。これがなければ欠点にはならなかった筈だ」

 末っ子が赤点となった数学と日本史の答案を指し示し、精神的長兄が改善策を提示する。

「考え方も、問題の解き方も間違ってないんだ。漢字の書き取りをしっかりやって、正しく読み書き出来る漢字を増やせば、追試は問題ないだろう」

 それは追試が終わるまで、漢字の読み書きの特訓が日課に加わるという事でもある。
テスト休み中に入手した新しいゲームソフトを早速プレーしようとしていた星矢だったが、追試が終わるまで、と家長の手により厳重に封印されてしまった。

「追試で合格点が貰えなければ、夏休みも始まらないんだ。やれることはやっておけ」

 そう言われてしまえば、渋々であってもやらぬ訳にはいかない。
星矢はテスト問題から読み間違えたり書き間違えた漢字の書き取りから始める。

「それで、氷河だが……」

 もう1人、現代文と古文、現代社会が欠点となった氷河であるが、これは仕方がないと兄弟の誰もが思ってしまう。
日本語は話せるだけで、読み書きはようやく小学生レベルなのに、古代の日本語や漢詩について学ばされ、日本視点の社会情勢を教えられている最中なのだ。

 とは言え、問題文は英語でも併記されているし、解答は漢字の書き取り以外は英語でもひらがなでも許可されている。
単純に、高等教育についていけるだけの知識量が足りていない。

 全員の答案用紙を見れば、他の兄弟たちも欠点にはならなかっただけで、国語系と社会科系の科目はあまり良い点が取れていなかった。
他の教科も、得手不得手の差が顕著である。

 とにかく兄弟たちには他の生徒に比べて蓄積された知識が偏っている上に、乏しい。
歴史なら神話時代、理科なら星の運行と物理法則、地理と外国語は修行地に関してなら一般の生徒などより詳しいけれど、それらの多くはテストに出ない範囲の知識だ。
小学生の頃に天体の観測をしたり、近所の史跡を調べたり、基本的な科学実験をしたり、といった基礎がないのに高等教育を詰め込まれて、うまく自分の知識として取り込めないでいる。
例えるなら、知識の消化不良を起こしている状態だ。

「付け焼き刃では、どうにもならん教科だからな。幸い、教科書や参考書は小学校用から揃っている。今から遡って、学ぶしかあるまい」

 一輝の言う通り、土台も基礎もない所にいきなり屋根を乗せられてしまったのなら、間に合わせでも柱を立てて場を凌ぎ、基礎と土台を迅速に整えなければならない。
その手段も、用意はできていた。

「難波から、日本史の理解を深めたいなら読んでみると良いと勧められた本もある」

 そして、考査前に家庭教師をお願いしたクラスメートの難波六科から借りたと言って、手元に積んでいた数冊の本を弟たちへと渡す。
それは、いわゆる学習マンガというジャンルの書籍だった。
弟たちに読めるか確認するため、一輝も目を通している。

「小学生向けに書かれている内容だからこそ、基礎のない俺たちには良いと思う。まず、氷河と星矢は通して読んだ後、今回のテスト範囲に当たる巻を教科書と照らし合わせてみるといい」

「マンガ、なのか。漢字にもふりがなが振られているから、オレにも読める」

「さすが難波先生! 一輝! お礼言っておいて!」

 早速、読み進める星矢と氷河だけでなく、他の兄弟たちも覗き込んで内容を確認しだす。
確かにこの形なら、物語として歴史の流れを読み取れるだろう。
その後に、テスト範囲の部分だけ肉付けをすれば、なんとかなりそうな気はする。

「……学習マンガって手があったか……」

 城戸邸に集められる前に過ごしていた施設の本棚に、何冊か並んでいるのを何人かは思い出した。
読み込まれてというより、扱いが酷くてポロポロだったり、落書きがあったり、ページが破かれていたり、と状態はよろしくなかったが。
歴史上の有名人や、近世に活躍した偉人の生涯を描いたもので、様々な苦難を乗り越えて偉業は達成しても自身の業績が評価される前に虚しい最期を迎えるような話が多かった記憶がある。

「……国語にも、学習マンガってねえかなあ……」

 不意の思いつきを口に出すと、なくはないらしいぞ、と一輝が答える。

「古典文学を原作や原案にしたマンガは何作かあるし、有名な作品を10ページ程のマンガにして紹介している本もあると聞いた」

 ただ、その本はマンガだからか邸の蔵書室にも勉強室の本棚にもなく、難波からタイトルを教えて貰った一輝が使用人を通じて馴染みの書店に注文している所だという。
到着次第、勉強室の書棚に並べられる予定だ。

「勉強って教科書読んでノートに書き込んでってだけじゃねえんだなー」

 まさか、マンガで勉強ができるなんて、と感心しきりの兄弟たちへ、一輝は言う。

「何事も、だ。水が凍る、蒸発する。それを当たり前として看過するか、何故という視点を持って探求するか、で世界が変わる」

 そう語る一輝の左手の上に炎が現れ、周囲が凍りつく。
炎の熱量で空気中の水分が蒸発する時の気化冷却により、周囲の空気中の水分が凍っているのだ。
小宇宙で成していることだが、物理法則を理解しているからこそ出来る芸当でもある。
一輝は握り込んだ左手を軽く振って、幻想的であった炎と氷を消し去った。

「全ては、お前たちのやる気次第、だからな」



[登場オリキャラ]
*岸川敬吾(きしかわけいご):2-A。瞬の級友。学年30位には届かなかった。夏休みは家族と北海道旅行の予定。
*藤宮聖心(ふじみやしょうこ):2-A。瞬の級友。学年30位の1人。夏休みは大戦があるので。ご安全に。
*難波六科(なにわりくか):4-S。一輝の級友。兄弟たちの臨時講師として、先生と呼ばれている。



 【続く】 
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡ 
WRITE:2024/10/26〜2024/10/29
UP DATE:2024/10/29(iscreamman)
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