Golden Japanese Diarys
【12:culture 03】
〜Golden Japanese Diarys〜
[Happily Ever After番外編]
初めて城戸家の兄弟がクラスメートを邸に招き、テスト勉強をした日の夜半。
居候たちのサロンでは、昼間の出来事が当然の如く話題に上がった。
「……本当に、彼らにとって貴重な時間を浪費させてしまっていたのだな……」
珍しく強い酒精の透明な液体をちびちびと口にしながら、サガは酷く落ち込んでいる。
サガも自身のやらかした事を反省しているし、後悔に溺れそうなくらいだが、もはや取り返しはつかないのに、今更その影響を実感する事になって改めて嘆くしかできないのだ。
しかし、彼の鬱状態はある意味平常運転なので、誰も気にはしない。
むしろ、躁状態になった時こそ、えげつない事をやらかすので、そうなったら今後は総出で止めなければならない、とは居候全員が考えているけれど。
「日本の学生が学ぶ内容みたら、本当にあいつら頑張ってんだなーって感心するよな」
昼間に兄弟たちがこなした100マス計算の用紙に赤ペンでチェックを入れつつ、カノンはノンアルコールの炭酸水を消費している。
仕事で役立つかと使い方を覚えた表計算ソフトを用いてカノンが即席で作った100マス計算用紙は兄弟たちに好評で、今後も使われるらしい。
それがなんだか嬉しく、カノンは兄弟たちが書き込んだ用紙をチェックする役目まで請け負っている。
ずっと、他人から隠れて暮らしていた反動かもしれないが、褒められると調子に乗る性質なようだ。
「それにしても、面白い勉強方法がある物だな。漢字の書き取りは俺たちも役立ちそうだし」
「面倒だが、やって損はねえよなぁ。常用漢字って奴が2000文字くらいあるって聞くが、これ覚えちまわねえと、レシピも読めねえんだし」
「いや、君はそれ以外にも食材の漢字もあるだろう? 凄いぞ、魚編」
冷やしたビールを手に漢字辞典をめくりながら、3人組は枝豆を摘む。
ずっとビールは常温か冬場は温めて飲む物だと思っていたが、凍りつくほどに冷やしたグラスに冷えたビールを注いで飲むのは喉で感じる美味しさは、あまりにも鮮烈で、気温と湿度の高いこの国では最高の飲み方だと実感した。
塩茹でしただけの枝豆───これも若い大豆だと聞いた時にはちょっと引いたが、程よい塩気と食感が冷えたビールのお供に最適だと身を持って知っている。
「……なんだこりゃ。これ、全部、魚の名前なのかよ……」
漢字辞典の魚編の索引を見たカニ(仮)が戦慄し、ヤギ(仮)も身を震わせる。
今後、これらを覚えて使い分けていかねばならないのだから。
アフロディーテ───庭師仲間からはフロさんと呼ばれている為、最近は居候仲間からもフロ呼びになりつつある───は笑って別のページを見せる。
「私も植物に関する漢字は学ぼうとしているのだよ。だが、草冠にも木編にも、よく似た字が多い。まあ、1文字で読める物はなんとかするさ。だがね、熟語になるともうお手上げだ」
開いたページに並ぶのは、難読熟語の一例。
ホトトギスという鳥と植物に同名の物がいるだけでなく、それを表す漢字の多さが異常だった。
時鳥、杜鵑、子規、不如帰、杜鵑草……。
まだまだ続く。
「……オレたち、ヤバいもんに手ぇ出しちまったみてぇだな……」
カニ(仮)の呟きに、居候達は揃って身を震わせた。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2024/10/10
UP DATE:2024/10/10
〔文化 その3〕
〜Golden Japanese Diarys〜
[Happily Ever After番外編]
初めて城戸家の兄弟がクラスメートを邸に招き、テスト勉強をした日の夜半。
居候たちのサロンでは、昼間の出来事が当然の如く話題に上がった。
「……本当に、彼らにとって貴重な時間を浪費させてしまっていたのだな……」
珍しく強い酒精の透明な液体をちびちびと口にしながら、サガは酷く落ち込んでいる。
サガも自身のやらかした事を反省しているし、後悔に溺れそうなくらいだが、もはや取り返しはつかないのに、今更その影響を実感する事になって改めて嘆くしかできないのだ。
しかし、彼の鬱状態はある意味平常運転なので、誰も気にはしない。
むしろ、躁状態になった時こそ、えげつない事をやらかすので、そうなったら今後は総出で止めなければならない、とは居候全員が考えているけれど。
「日本の学生が学ぶ内容みたら、本当にあいつら頑張ってんだなーって感心するよな」
昼間に兄弟たちがこなした100マス計算の用紙に赤ペンでチェックを入れつつ、カノンはノンアルコールの炭酸水を消費している。
仕事で役立つかと使い方を覚えた表計算ソフトを用いてカノンが即席で作った100マス計算用紙は兄弟たちに好評で、今後も使われるらしい。
それがなんだか嬉しく、カノンは兄弟たちが書き込んだ用紙をチェックする役目まで請け負っている。
ずっと、他人から隠れて暮らしていた反動かもしれないが、褒められると調子に乗る性質なようだ。
「それにしても、面白い勉強方法がある物だな。漢字の書き取りは俺たちも役立ちそうだし」
「面倒だが、やって損はねえよなぁ。常用漢字って奴が2000文字くらいあるって聞くが、これ覚えちまわねえと、レシピも読めねえんだし」
「いや、君はそれ以外にも食材の漢字もあるだろう? 凄いぞ、魚編」
冷やしたビールを手に漢字辞典をめくりながら、3人組は枝豆を摘む。
ずっとビールは常温か冬場は温めて飲む物だと思っていたが、凍りつくほどに冷やしたグラスに冷えたビールを注いで飲むのは喉で感じる美味しさは、あまりにも鮮烈で、気温と湿度の高いこの国では最高の飲み方だと実感した。
塩茹でしただけの枝豆───これも若い大豆だと聞いた時にはちょっと引いたが、程よい塩気と食感が冷えたビールのお供に最適だと身を持って知っている。
「……なんだこりゃ。これ、全部、魚の名前なのかよ……」
漢字辞典の魚編の索引を見たカニ(仮)が戦慄し、ヤギ(仮)も身を震わせる。
今後、これらを覚えて使い分けていかねばならないのだから。
アフロディーテ───庭師仲間からはフロさんと呼ばれている為、最近は居候仲間からもフロ呼びになりつつある───は笑って別のページを見せる。
「私も植物に関する漢字は学ぼうとしているのだよ。だが、草冠にも木編にも、よく似た字が多い。まあ、1文字で読める物はなんとかするさ。だがね、熟語になるともうお手上げだ」
開いたページに並ぶのは、難読熟語の一例。
ホトトギスという鳥と植物に同名の物がいるだけでなく、それを表す漢字の多さが異常だった。
時鳥、杜鵑、子規、不如帰、杜鵑草……。
まだまだ続く。
「……オレたち、ヤバいもんに手ぇ出しちまったみてぇだな……」
カニ(仮)の呟きに、居候達は揃って身を震わせた。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2024/10/10
UP DATE:2024/10/10