Saint School Life

【10:はじめての勉強会】
   〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]



 城戸邸で暮らす兄弟たちが初めての定期考査を直前に控えた、週末間近の夜の事である。
来週からのテストに向けて勉強室に集まっていた兄弟たちへ、精神的長兄が問うた。

「週末にクラスメートが国語と日本史の解説に来てくれるんだが、便乗したい者はいるか?」

 邸内には外国語や理数系の科目ならば教えられる者もいるが、日本の現代文や古文、歴史について詳しい者は居なかった。
教科書を読めば書かれている内容を記憶し、理解してしまう一輝だが、小学校から中学校までの蓄積がないせいもあり、国語や社会に関する勉強は本人的には苦戦している。
そこで仲良くなったクラスメートに相談した所、現役の人気作家様が講師役に名乗り出てくれたのだそうだ。

 最初に邸へ友人を招くのが一輝になると予想してなかった兄弟たちは騒然としたが、確かに誰かに教えて貰わなければならない教科だと考えていたので殆どが即座に参加を希望する。

「ありがたい申し出だが、俺たちが加わっても迷惑にならないだろうか?」

 学年が違う者は解説されても理解できないのでは、という紫龍の不安に一輝は問題無い、と答える。

「中学までのおさらいとして基本的な部分の解説を頼んである。全員、聞いておいた方が今後の授業の理解度が変わると思うぞ」

「ならば、願ってもない機会だ」

 こうして、兄弟全員の参加が決まった。

 そして、当日。
午前中に昼食の仕込みを終えた一輝は11時を過ぎた頃合いで見習い運転手のヤギ(仮)をお供に出かけ、15分程でクラスメート2人を伴って戻ってきた。
玄関ホールで出迎えた野次馬根性丸出しな末っ子トリオのうち、瞬と星矢には見覚えのある顔ぶれである。

「おじゃましまーす。うわぁ、本物の邸宅マンションだぁ」

「え、マジで土足でいいの? 後で怒られんねぇ?」

「先に昼飯食いながら兄弟を紹介するから、食堂行くぞ。ほら、お前らも」

 キョロキョロと邸内を見渡す客人2人を引き連れ、一輝と末っ子たちは食堂へと場所を移した。
途中、洗面室で手を洗ってからたどり着いた食堂には、既に兄弟たちが待機している。
本日は学食のように6人掛けのテーブルが3卓設えられていたので、一輝はクラスメートと末っ子トリオで1つの卓を占拠した。

 それから、先に食堂に来ていた兄弟らに向け、一輝がクラスメート2人を紹介する。

「瞬と星矢は会ったことがあるな? 今日の勉強会に参加してくれるクラスメートの難波と喜田だ」

 その紹介を受け、一輝の右隣を陣取ったややふくよかな少年が朗らかに名乗りをあげた。

「難波六科です。一応、現役の小説家なんで、文系は頼ってくれていいよー」

 あ、これお土産。
と言って高名な和菓子店の袋まで渡してくる彼を兄弟たちは大歓迎である。
現金な弟達に呆れつつ、受け取った一輝は申し訳なさそうに礼を述べた。

「ありがたいが、うちは兄弟が多いから用意が大変だったろう」

「喜田くんと折半したから、そうでもないよ。僕もちゃんと収入のある身だし、初めてお邪魔するお家にはこれくらいの気遣いさせてよ」

 それに、こっちにもメリットあるからさ。
と、笑う難波の苦手分野である理数系教科の解説、それから城戸邸に所有されている高級車の撮影が本日の勉強会の対価として約束されている。

 難波から受け取った土産をお持たせとして午後のお茶で出すよう頼んで給仕へ預ける一輝の左隣で、少し背の高い少年の自己紹介が続いた。

「喜田柊仁でーす。オレはオマケなんであてにしないでくださーい」

 教室で一輝と難波が勉強会の予定を話し合っているのを聞きつけ、他人に教えられる得意教科はないけど混ぜてっと割り込んで来たという。
しかし、人数が1人増えるも2人増えるも変わりはしない、と一輝は彼も呼ぶ事にしたのだ。

 そして難波と喜田に向けても、一輝が兄弟たちの名前を教えていく。

「あの1番デカいのが檄、その隣に居る次にデカいのが蛮。2人は俺たちと同い年だ。あっちの短髪の奴が那智、長髪が紫龍、金髪が氷河で、白髪が市。こいつらは俺たちより1つ年下。出迎えたのが2つ年下の末っ子3人。前に会った瞬と星矢、の間にいるのが邪武だ」

 個性的な兄弟がそれぞれ手を振ったり、会釈したりしてくれるので喜田と難波も会釈を返しながら顔を覚えようとする。
全員の名前をいっぺんで覚えるのは難しいが、城戸家の兄弟としては忘れる事はない顔ぶれだな、とは思いつつ。

 正午が近づいて居候らも食堂へやってきたので、一輝は今後を考えてクラスメートらに彼らを紹介しておく。

「あの双子は放課後に迎えに来ていたのを見ていると思うが、財団で俺の補佐をしてくれているサガとカノン。あっちはさっき運転手をしてくれていたヤギ(仮)」

 尚、日本人には外国人の名前が発音し難いので、彼らは本名ではなくビジネスネームを使っている。
そう補足すれば、外国人にしては耳馴染みある呼び名に訝しげな表情だったクラスメートらは納得してくれたようだ。

「俺たちが難波に古文のおさらい受けてる間、喜田はスペイン語をヤギ(仮)から教わっててくれ。スペイン人だが、日本語も話すだけなら問題ない」

「え、やりぃ! ヤギさん、後でお願いしますね!」

 そんな話をしているうちに正午の鐘が鳴り、給仕たちが食堂へ昼食を運び込んできた。
本日のメニューは以前、兄弟からリクエストがあった牛丼である。
根菜たっぷりな味噌汁と新鮮な野菜サラダで栄養バランスも考慮されているし、漬物に紅生姜と温泉玉子まで用意されていた。
牛丼に使われている肉はチェーン店の物より厚めだし、玉ねぎは添え物程度に正しく牛丼というに相応しい量が盛られている。
しかし、煌びやかな洋館である城戸邸の食堂で供される庶民的な丼物に違和感は禁じ得ない。

「見慣れたメニューで悪いな。うちの兄弟は国外暮らしが長いせいで家庭的だったり、手軽な料理に飢えてるせいで、いつも昼飯はこんな感じなんだ」

「僕、牛丼は大好きだから嬉しいよ」

「こんな立派なお屋敷で何出されるんだろうって期待してたけど、テーブルマナーなんか分かんねえからドキドキもしてたんで、逆に安心したぜ!」

 一輝の言い訳にも難波と喜田は期待外れではなく、安堵感があると庶民メニューの昼食を喜んでくれている。
自分たちと一輝以外の兄弟らの前に置かれていく大食いチャレンジメニュー並に盛られた丼には、圧倒されてはいるようだが。

「さあ、食べてくれ。味は保証する」

「じゃ、いただきまーす!」

「うん。いただきます」

 一輝に促され、喜田や難波が箸を手にすれば兄弟達もいただきますと唱和して重たげな丼を軽々と持ち上げてかき込み始める。
そして、久々に味わう丼物の味わいに感に耐えないといった呻きを上げて、またかき込むのを繰り返した。



   ★ ☆ ★ ☆ ★



 昼食後、兄弟たちは客人や居候と共に勉強室へと向かった。
学校の教室程の広さがある部屋に大きめの机を数台並べて兄弟10人と客人2人、講師役の居候数人が座れるだけの椅子もあり、ホワイトボードまで用意されている。
部屋の壁面には本棚が設置され、兄弟たちが共用で使っている辞書や参考書、教科書やノートなど個人で使っている物までスペースを区切って置かれていた。
更には情報実習で使うのと同型のパソコンやプリンター、それに業務用と思しきコピー機まである。

「じゃあ、難波。頼む。喜田はヤギ(仮)が相手してくれるが、数学や英語なら双子にも聞いてやってくれ」

 特にやる事もないのに付いてきた双子にも一応仕事を振り、一輝は講師役の難波から最も離れた席を陣取る。
向かいにはヤギ(仮)に教科書を見せている喜田が居るので、2人の間で行き違いがあるようなら割って入れるように、という配慮だろう。
他の兄弟たちもそれぞれ見やすい位置で講師役の難波の前に座り、ノートや教科書などを取り出して講義を受ける準備を整えた。

「じゃ、古文から解説していくねー」

 難波は手慣れた風にホワイトボードを使い、古文の読み解き方を大雑把に解説していく。
細かい所は自分で学んだり、百人一首を遊んだり、当時の文献を読んだりして慣れるしかない、と補足して。

 次に漢詩や漢文にも触れる。
中国では大学などで初めて学ぶような古代の漢詩や漢文を、日本では小学生から日常的に暗唱させる学校もある。
そして、独自の書き下し文により、高校生くらいになれば大抵の漢詩や漢文の意味が読み取れてしまえるようになっている。

「手っ取り早く身につけるなら、とにかく慣れるか、暗記の2択だね。便覧に載ってるタイトルと作者、あらすじと書き出しはお笑いで引用されたりもするから覚えといて損はないかな」
 
 そう言って難波が誦じたのは『枕草子』の一節を食いしん坊風に言い換えたフレーズである。
そのセンスの良さに笑う者も居たが、テレビ番組で日常的に使われるギャグにも教養が問われていると理解して遠い目になった者もいる。

「新聞やテレビ番組は、見ている人に中学卒業までの知識がある前提で内容が決められているからね。注釈や解説がなければ、一般的にはみんな理解している事として扱われているって事だね」

 ゲームで例えるなら取り扱い説明書が教科書で、授業は社会のチュートリアルみたいな物だと考えたらいいよ。
つまり、全ては書かれていないけれど、誰もが知っている前提としての知識は記されている。
そう言われてなるほどと納得しつつ、その大半を諸事情により強制的にスキップさせられた兄弟たちは、失った学ぶ機会を取り戻す努力をしなければな、と幾人かの顔を恨めしげに思い浮かべつつ気を引き締めた。



   ★ ☆ ★ ☆ ★



 その後、日本史についても一連の流れと要点を説明して貰い、2時間程経過した所で休憩を取ることになった。
喋り続けていた難波もだが、色々詰め込まれた兄弟たちや居候から外国語を教わっていた喜田も少々へばっている。

「喜田、庭に出て弟たちと少し身体を動かしてこないか?」

 一輝が声を掛ければ、喜田はもちろん兄弟たちの大半も立ち上がって移動を始める。
庭にバスケットコートと兼用のフットサルコートがあると聞いて、喜田は喜びつつ城戸邸の広大さに少し引いた。

「難波、ヤギ(仮)とカノンにガレージに案内させる。2人とも、頼むぞ」

「ありがとう! この時を待ってたんだ! ヤギさん、カノンさん、よろしくお願いします」

「あ、ああ。こちらだ」

 喜田が兄弟たちと3対3のフットサルでリフレッシュし、難波がガレージに並ぶ国内外の最高級車に熱狂している間、一輝は使用人らの手を借りて居間におやつの準備を進めさせる。
本日は難波たちが持ってきてくれた老舗和菓子屋の羊羹と練り切りにほうじ茶ラテ、そして居候作のミルクと抹茶のジェラートだ。

 15分ほどで居間へ呼び戻せば、喜田も難波も興奮しきりで話出す。

「庭にフットサルコートあるとかホントすげぇな。ジムもプールもあるんだろ? もうトレーニング施設じゃん。オフ、ここで自主トレさせて欲しい。勉強も出来るしー」

「各国の名車、それも可動可能な状態を1度に見られる幸せ! しかも、広大かつ壮麗な庭園に邸宅まで見学できたし、いいネタが集まったよ!」

 難波は何やら作品作りのインスピレーションまで得たらしい。
友人の仕事が捗る事は、素直に喜ぶべきだろう。
彼の作品がミステリー小説なので、この邸を舞台にした事件がいずれ書かれる事に目を瞑れば。

 難波と喜田がお土産として用意してくれた羊羹と練り切りは海外暮らしの長かった兄弟たちには懐かしい味であり、国外生まれの兄弟や居候たちには新鮮かつ興味深い美味だった。
最初は甘く煮た豆を使った菓子に違和感を覚える者も居たが、食べてみれば美味しいなら問題はない。
むしろ、食べ慣れた生クリームやバターをふんだんに使ったデザートより、くどさがなく不思議と腹持ちもいい和菓子の方が好みに合った者もいる。

 美味しいおやつに舌鼓を打ちつつ、兄弟たちの話題は勉強の仕方について、だ。
会話は出来るし、本もそれなりには読めるのだが、学校での授業そのものに慣れていない為、どうにも勉強が捗らないらしい。
講師役として、兄弟たちの不慣れさに気付いた難波が不思議そうに例えた。

「なんだか、触った事もない楽器を手に、聞いた事もない曲の楽譜を渡されて、さあ演奏してみろって言われて、戸惑ってるような感じだよね」

 そう言われれば、そんな感覚に近いな、と兄弟たちも納得する。
これまで学校で授業を受けた事がないのに、いきなり中学や高校に放り込まれたのだ。
周囲の生徒たちは小学校から段階を踏んでいるが、正直言って授業を受けても分からない事をいつ質問すればいいのか、どんな風にノートを取ったらいいのか、分からない者もいる。

「まあ、純粋に不勉強ではあるからな。今は他の生徒に追いつこうと足掻いている最中だ」

 兄弟の中では最もそつ無く学校生活に溶け込んでいるように見える一輝が苦笑気味に語る。
彼だって、学校の授業と財団の仕事を両立させながら兄弟や居候の世話を焼いているのだ。
彼なりの苦労があるのだろう。

「じゃあ、勉強の筋トレとかするしかないね」

「勉強の、筋トレ?」

 耳慣れない言葉をオウム返しに呟くと、難波は単純な事なんだけどね、と前置いて説明し出す。

「小学校で漢字を覚える時、書き取りって何度もその字を書いて覚えるでしょ。書き順を意識したり、意味を考えたりしながら」

 残念ながら小学校へ通った記憶があるのは年長3人だけなのだが、そこは指摘せずに話を先へ促す。

「九九も繰り返し暗唱して、年表とか公式も語呂合わせで覚えたりするけど、それも繰り返しだよね」

「なるほど、だから筋トレか」

「うん。そうだ、100マス計算って知ってる? 10マスの表の上と左にランダムに1桁の数字があって、その交差するマスに答えを書いていくやつ」

 最初は1マス1マス数字を確認して計算して記入してを繰り返すので早くても10分程掛かるのだが、毎日やっていると数字を見ながら答えを記入できるようになるらしい。
確かに、最初は腹筋が1回しかできなくても毎日こなしていれば、いずれは10回くらいできるようにはなる。
勉強も同じく、日々の積み重ねなのだろう。

「毎日、漢字の書き取りと、100マス計算。やってみるか」

 小学校6年、中学校3年、合わせて9年もの勉強時間を奪われた一輝も、その間に得られる知識を取り戻すにはやはり積み重ねしかないか、と日々の日課を増やす事を決めた。
そして、積極的にせよ渋々にせよ、追随する者は当然いる。

「僕もやる! 兄さん、一緒にがんばろうね」

「俺も便乗させて貰おう」

「うー、すっげーめんどくさそーだけど、やったほうがいいんだろーなー」

「……オレも、やったほうがいいかもしんない」

 兄弟らの勢いに何故か、喜田までも就学意欲を刺激されたらしい。
その流れで授業中のノートの取り方や、テスト後の復習の仕方など、これまで聞けなかった基本的な事をようやく兄弟たちは聞くことができた。
例えば、教師が授業中にホワイトボードへ書いた物を丸写しするより、話している内容や書き込んだ文言から重要そうな言葉や事柄をメモしておき、授業後にそれについて調べて書き記しておくと後で見返した時に役立つとか。
テストはあくまでもその時点での習熟度を測る目安だから、終わった後に自分が理解できていない所をおさらいして補って置くところまでやらないと意味がないとか。
長めの休憩時間は、有意義な情報収集の場となった。

 休憩後は、さっきまで講師役を務めてくれた難波へのお返しとして彼が苦手にしている数学や理科系科目の解説と、外国語の確認になる。
他の兄弟たちは、休憩中に難波の話を聞いていたカノンが勉強室に備え付けのパソコンの表計算ソフトを使ってマス目をプリントした即席の100マス計算用紙をコピーし、早速挑戦することとなった。
喜田も加わり、それぞれ自分の携帯電話などで時間を計りながら、コツコツと計算をしてはマス目を数字で埋めていく。

「数学を世界を表す共通言語と考えてみてはどうだろうか?」

 有名な法則や理論を表す公式をホワイトボードへ書き、解説役を勝ち取ったサガは文章の読み解きを得意とする難波へそう提案した。

「この数文字の記号の羅列は『全ての物は全ての物に影響を与える』という意味の文章であり、2つの物体の間に生じる引き合う力の強さを表す公式でもある」

「公式に数字を当てはめれば、特定の2者の間の力関係となるってことですね」

 計算力は休憩中に難波自身が語ったように、日々の積み重ねで鍛え上げるしかないが、公式を熟語や定型文のように捉え、必要な数式に当て嵌める事は理系より文系の考え方が必要になるだろう。

「実際、大きな桁や細かい数字を扱う教科だと、計算力よりどんな式を使って問題を解くかが重要視されるのだろう?」

 数学や物理も高校レベルになれば扱う数字の桁が多くなり、テストでも教科書などの持ち込みや計算機の使用も許される。
つまり、求められているのは暗記力や計算力ではなく、問題を読み解く読解力と適切な公式を導き出す応用力だ。

「そっか、全部計算問題って考えてたけど、考えたら問題は文章をどう読み解くか、なんですよね」

 幾つかの公式を定型文なり慣用句として考え直してみた難波は理解を深めたようで、テスト範囲にある問題を文章として書き出し始める。
そうしてみれば、苦手に思っていたのは問題文への理解度の浅さのせいだったようだ。
明るい表情でサガへ礼を述べる。

「ありがとうございます。おかげで、今回はかなり良い点数が取れそうです。今後のためにも、中学辺りからの教科書読み返してみてもいいかもしれない……」

「君は理解が早いな。それにしても、日本の学生はかなり高度な分野を幅広く学ぶのは驚きだ」

 サガも実際に学校へ通った事はないが、聖域の外へ出た時に困らない程度には、ギリシャだけでなく周辺国の同年代が学んでいるレベルの知識は教えられていた。
その内容は読み書きと四則演算、それから他国人と諍いになる事を考えて世界情勢やそれに纏わる歴史や地理などである。
それでも日本の小学校の中学年までに習うレベルであり、音楽や美術といった芸術系や家庭科や図工のような生活に関わる物事は学校では教わらない。

「君たちが学んでいるのは、大学で専門的に数学を学ぼうという学生が教わるようなレベルだと思う」

「確かに、日本は何でもかんでも学校で教え込もうとしがちではあるな」

 感心するサガへ、デメリットもあるのだと一輝は告げる。

「授業が終わった放課後や休日も部活だ委員会だって詰め込まれて、生徒も教師も家族と過ごす時間がなくなってる。これじゃ、家事や生活に必要な知識を覚えられなかったり、学外の人間との繋がりが薄くなって視野が狭くなるだろう」

「それだよねー。僕らは通信だから、自分で時間作ろうと思えば作れるけど、他の学校の生徒とか見てると窮屈そうだよねー」

 小説家という職業を得た事で高校生活を自分のペースで送れるようになって良かった、と改めて難波は実感する。
そして、常々思っていた事を、ぼろりとこぼした。

「学校のルールやスケジュール決めてる人って、家でやる事ないか、学校にしか居場所が作れなかった人なんじゃないかなって時々思うよ」

「……そうかもしれないな」

 似たような事を感じていたせいで、思わず同意をしてしまった一輝である。



[登場オリキャラ]
*喜田柊仁(きだしゅうと):4-S。一輝の級友。クラブユース所属。海外移籍を視野に入れて居るので外国語はしっかり学んでる。
*難波六科(なにわりくか):4-S。一輝の級友。ミステリー作家(南田六花)。車ニア。



 【続く】 
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡ 
WRITE:2024/03/11〜2024/10/09
UP DATE:2024/10/09 
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