Golden Japanese Diarys
【08:Precautions 02】
〜Golden Japanese Diarys〜
[Happily Ever After番外編]
先日の地震の際、想定を上回って居候達が災害に耐性がないと分かって、城戸家の家族会議の結果、急遽《防災訓練》が実施される事となった。
広大な城戸邸には多くの使用人がいるので半期に1度、3月と9月の初めに行われている防災訓練があるので、今回はそのマニュアルを活用しながら兄弟たちと居候らで行われる。
ただし、兄弟らと居候たちでは訓練の目的が違った。
居候たちは災害の恐ろしさと一般的な対処法を学ぶのが目的だが、兄弟たちには災害時の一般的な振る舞いを身につける事が目的である。
言葉が似ていてややこしいが、未知の知識を身につけるのが居候で、既存の対処が出来る様に訓練するのが兄弟たちの目的だ。
何しろこれまでは黄金聖闘士として自然災害に紛れた神々の動きに注視していた居候は、今や何の力も持たない普通の人間である。
今まで毛程も気にしていなかった些細な災害が死に直結するのだ。
何事かか起こった時に正しい対応が出来なければ自分だけでなく、周囲の人々をも危険に巻き込んでしまう。
だから学び、訓練をしよう、となった。
一方で現役の聖闘士である兄弟たちは幼少時に基本的な災害への対処法は身についているのだが、今や多少どころではない無理が効く身である。
しかし、有事にあってはただの災害と平然としているのは不自然だし、神々が動いているのなら静観している訳にもいかない。
なので、そういった場合に自然に一般人に紛れ、尚且つ即座に聖闘士として対処に向かえるようシミュレーションをしよう、と相なったのである。
★ ☆ ★ ☆ ★
「───地震と、それに伴う津波や火災の恐ろしさは充分に理解した」
訓練に先立って居間のテレビで再生された過去の地震災害を元にした民話のアニメーションを鑑賞し終わり、サガは誰に言うとでもなく呟いていた。
「……だが、何故、ホラーにする必要があるのだ?……」
鑑賞したのは放送時に多くの子供達にトラウマを植え付けたと長年噂されているアニメシリーズの数話であり、画面の雰囲気も語り口も淡々とじわじわと沈み込むような恐怖を感じさせる。
かつて鑑賞した事のある兄弟たちも黙り込んでいるし、居候たちは蒼白になりながらも視界を手で覆って観た物を反芻し理解しようとしている。
特にかつて海皇の下で世界を海に沈めようと画策したカノンは当時の悔恨も呼び覚まされたのかソファの上で膝を抱え、ブツブツと何事かを呟いていた。
「子供向けだからな。とにかく怖い物だと認識させて、その時が来たらとにかく逃げ出すよう言い含める為じゃないのか」
津波てんでんこ───津波が来たら家族や仲間に構わず1人で逃げろ。
冷たいようだが命を守る為にはそれしか方法がない、とまで言い伝えられている地域すらある。
人が立ち向かえるような物ではない、とにかく過ぎ去るまで生き延びるのが最善、という教えだ。
そんな事を言いながら、一輝は己の足元で小さくなっている末っ子トリオの頭を宥めるように撫でて立ち上がろうとした。
出来なかったのは、左腕に双子の弟の方がしがみついて離さなかったからで、呆れた表情は見せたものの誰よりカノンの心情を知っているからかそのまま話を続ける。
「今の民話で起きた程度の地震は滅多にないが、知識がなければもっと小規模な災害でも大きな被害は出る」
海外では津波の前兆───干潮時でもないのに海が引いて海底が露呈する事が知られておらず、地元の人間や観光客が好奇心のまま海に近づいて襲って来た津波に飲まれる被害は後を立たない。
そもそも日本以外の地域では地震後に発生する津波に該当する単語がなく、近年になって世界的に認知されて『tsunami』が共通言語になりつつある程だ。
日本であっても、津波発生の警報が間に合わずに沿岸の集落が壊滅する事があったし、どうせ被害が出るほどの波は来ないとたかを括って避難せずに居たら流された、なんて事もある。
「地震が起きたら津波も続けて起こる、そして火災もだ。そう理解しているのといないのでは、次に何をするかの判断に違いがでる。まず知ることが大事、ということだ」
そして、災害で起こる事の流れを理解したら次はその対処法を学ばなければ意味がない。
「そういう訳で、ようやく本題だ」
続けて流されるのは企業向けの避難教習と言った体の映像である。
淡々としたナレーションを背景に、一つ一つの動きをきっちりと行いながら解説するシュールな映像に何人かは眠気を誘われていく。
けれど、突然「では、皆さんもご一緒に」とこれまでの動きをトレースするよう促されて全員が戸惑う。
どうしたものか、と彷徨わせた視線が捉えたのは流れ続ける映像に律儀に従う一輝と瞬、紫龍だった。
この3人が真面目にやっているからか兄弟たちも居候らもお互いに確認し合うように視線を交わしながら、映像の通りに動き出す。
地震の揺れを感知した、と想定して頭を守るなど自分の身の安全を確保する。
次に火や電気の始末、足元の確認。
そして出口から脱出し、完全に安全が確認されるまでの避難場所への移動。
そう言った災害時での動きを一通り真似をする。
実際の災害時に果たして今日の訓練がどれだけ役立つのか、幾人かの兄弟と居候たちが半信半疑なまま。
彼らは知らない。
数ヶ月後、彼らの避難訓練の為に家長が張り切って地震体験車を手配してくれ、そこでこの日学んだ内容がどれだけ有益だったか実感する事を。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2020/11/25〜2023/11/13
UP DATE:2023/11/14
RE UP DATE:2024/08/17
〔注意事項 その2〕
〜Golden Japanese Diarys〜
[Happily Ever After番外編]
先日の地震の際、想定を上回って居候達が災害に耐性がないと分かって、城戸家の家族会議の結果、急遽《防災訓練》が実施される事となった。
広大な城戸邸には多くの使用人がいるので半期に1度、3月と9月の初めに行われている防災訓練があるので、今回はそのマニュアルを活用しながら兄弟たちと居候らで行われる。
ただし、兄弟らと居候たちでは訓練の目的が違った。
居候たちは災害の恐ろしさと一般的な対処法を学ぶのが目的だが、兄弟たちには災害時の一般的な振る舞いを身につける事が目的である。
言葉が似ていてややこしいが、未知の知識を身につけるのが居候で、既存の対処が出来る様に訓練するのが兄弟たちの目的だ。
何しろこれまでは黄金聖闘士として自然災害に紛れた神々の動きに注視していた居候は、今や何の力も持たない普通の人間である。
今まで毛程も気にしていなかった些細な災害が死に直結するのだ。
何事かか起こった時に正しい対応が出来なければ自分だけでなく、周囲の人々をも危険に巻き込んでしまう。
だから学び、訓練をしよう、となった。
一方で現役の聖闘士である兄弟たちは幼少時に基本的な災害への対処法は身についているのだが、今や多少どころではない無理が効く身である。
しかし、有事にあってはただの災害と平然としているのは不自然だし、神々が動いているのなら静観している訳にもいかない。
なので、そういった場合に自然に一般人に紛れ、尚且つ即座に聖闘士として対処に向かえるようシミュレーションをしよう、と相なったのである。
★ ☆ ★ ☆ ★
「───地震と、それに伴う津波や火災の恐ろしさは充分に理解した」
訓練に先立って居間のテレビで再生された過去の地震災害を元にした民話のアニメーションを鑑賞し終わり、サガは誰に言うとでもなく呟いていた。
「……だが、何故、ホラーにする必要があるのだ?……」
鑑賞したのは放送時に多くの子供達にトラウマを植え付けたと長年噂されているアニメシリーズの数話であり、画面の雰囲気も語り口も淡々とじわじわと沈み込むような恐怖を感じさせる。
かつて鑑賞した事のある兄弟たちも黙り込んでいるし、居候たちは蒼白になりながらも視界を手で覆って観た物を反芻し理解しようとしている。
特にかつて海皇の下で世界を海に沈めようと画策したカノンは当時の悔恨も呼び覚まされたのかソファの上で膝を抱え、ブツブツと何事かを呟いていた。
「子供向けだからな。とにかく怖い物だと認識させて、その時が来たらとにかく逃げ出すよう言い含める為じゃないのか」
津波てんでんこ───津波が来たら家族や仲間に構わず1人で逃げろ。
冷たいようだが命を守る為にはそれしか方法がない、とまで言い伝えられている地域すらある。
人が立ち向かえるような物ではない、とにかく過ぎ去るまで生き延びるのが最善、という教えだ。
そんな事を言いながら、一輝は己の足元で小さくなっている末っ子トリオの頭を宥めるように撫でて立ち上がろうとした。
出来なかったのは、左腕に双子の弟の方がしがみついて離さなかったからで、呆れた表情は見せたものの誰よりカノンの心情を知っているからかそのまま話を続ける。
「今の民話で起きた程度の地震は滅多にないが、知識がなければもっと小規模な災害でも大きな被害は出る」
海外では津波の前兆───干潮時でもないのに海が引いて海底が露呈する事が知られておらず、地元の人間や観光客が好奇心のまま海に近づいて襲って来た津波に飲まれる被害は後を立たない。
そもそも日本以外の地域では地震後に発生する津波に該当する単語がなく、近年になって世界的に認知されて『tsunami』が共通言語になりつつある程だ。
日本であっても、津波発生の警報が間に合わずに沿岸の集落が壊滅する事があったし、どうせ被害が出るほどの波は来ないとたかを括って避難せずに居たら流された、なんて事もある。
「地震が起きたら津波も続けて起こる、そして火災もだ。そう理解しているのといないのでは、次に何をするかの判断に違いがでる。まず知ることが大事、ということだ」
そして、災害で起こる事の流れを理解したら次はその対処法を学ばなければ意味がない。
「そういう訳で、ようやく本題だ」
続けて流されるのは企業向けの避難教習と言った体の映像である。
淡々としたナレーションを背景に、一つ一つの動きをきっちりと行いながら解説するシュールな映像に何人かは眠気を誘われていく。
けれど、突然「では、皆さんもご一緒に」とこれまでの動きをトレースするよう促されて全員が戸惑う。
どうしたものか、と彷徨わせた視線が捉えたのは流れ続ける映像に律儀に従う一輝と瞬、紫龍だった。
この3人が真面目にやっているからか兄弟たちも居候らもお互いに確認し合うように視線を交わしながら、映像の通りに動き出す。
地震の揺れを感知した、と想定して頭を守るなど自分の身の安全を確保する。
次に火や電気の始末、足元の確認。
そして出口から脱出し、完全に安全が確認されるまでの避難場所への移動。
そう言った災害時での動きを一通り真似をする。
実際の災害時に果たして今日の訓練がどれだけ役立つのか、幾人かの兄弟と居候たちが半信半疑なまま。
彼らは知らない。
数ヶ月後、彼らの避難訓練の為に家長が張り切って地震体験車を手配してくれ、そこでこの日学んだ内容がどれだけ有益だったか実感する事を。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2020/11/25〜2023/11/13
UP DATE:2023/11/14
RE UP DATE:2024/08/17