Golden Japanese Diarys
【01 clothing 01】
〜Golden Japanese Diarys〜
[Happily Ever After番外編]
「とりあえず、これでも羽織っとけ」
サガとカノンは一輝から突きつけられた白地に藍色で流水のような柄が施された薄手のガウンを手に、寝かされていたベッドから上半身を起こした姿勢で良く似た顔を見合わせた。
「詳しい話はこれからするが、要はお前たちは女神アテナの思惑で蘇った。素っ裸でな」
女神の威光……基、意向により聖戦で生命を失った聖闘士達はその魂と肉体を甦らされた。
しかし、神々の施しは衣服にまでは及ばなかったのである。
故に、復活した聖闘士達が姿を現した時、居合わせた者たちは色々と大変だった。
蘇った肉体と魂が定着するのに半日ほど眠ったままだという屈強な男たちにとりあえずシーツなどを掛けて女神から裸体を隠し、大理石が敷き詰められた神殿の床に放置して置くのも邪魔であるのは当然として色んな意味で憚られるので、予め予定していたそれぞれの生活拠点へと運んだのだ。
けれど、多少大柄な人間を運搬するのは容易くとも、意識のない人間に衣服を着せつけるのは聖闘士であってもままならない。
ましてや、13年も居ない事になっていた聖域にサガや存在すら知られていなかったカノンの私服は無く、運び込まれた日本でも彼の体格に見合う衣服は簡単には手に入らない。
そこで一輝は彼らと同じくらいの体格を持つ兄弟に、とりあえず羽織れる物を調達して貰ってきたのだ。
大柄な男性向けの衣類を扱う専門店や、力士御用達の店舗がある界隈で。
「それは浴衣。風呂上がりや寝間着にする着物だ。力士───スモウレスラーの普段着でもある」
なにがおかしいのか、笑みを噛み殺しながら一輝はそんな補足をする。
「……スモウレスラー?」
「それは、日本の国技だという格闘技、だったか?」
サガの知識によれば、男達が下帯姿でぶつかり合う古代レスリングに似た競技がスモウである。
その競技者はリキシと呼ばれ、縦にも横にも大きな巨漢揃いである、とも。
そんな説明を聞いたカノンは猫が強い臭いを嗅いだ時のような表情を見せた。
自分たちが、この国ではそのリキシなる巨漢と同等に見られる可能性に思い至ったのだろう。
実際、成人男性の平均身長が170cm程でしかないこの国では一輝ですら大柄な部類であり、古い家屋では鴨居などで額をぶつけないよう気をつけなければならないし、逆に台所の調理台は低過ぎる上に身を屈めようと曲げた膝を入れるスペースがなくてとても使い勝手が悪い。
既製品の衣服も袖や裾の丈が足りない事が度々あり、幼い頃から物のない生活に慣れて自身の着る物には無頓着な一輝でなければかなり苦労していただろう。
そんな一輝より10cm以上背が高く、鍛えているせいで肩幅もあれば身幅もある彼らがこの国で暮らすのは物理的に肩身が狭いのは確実だ。
幸いにも暫く暮らす事になっている城戸の邸は欧州基準で造られていて天井高もあり、ドアや窓も広く高い。
彼らが生活するに困る事は少ないはずだ。
双子が何とも言い難い表情で固まっていると、一輝が白いゆったりとしたハーフパンツを差し出しながらサガに不思議な事を問う。
「こっちは下着だが、サガお前はどうする?」
「……どうする、とは?」
「……いや。あの時、履いて無かった、よな?」
「は?」
「……なに?」
かつてサガと一輝が顔を合わせたのは、12宮での戦いの最後───教皇宮での1度きりだ。
その際、色々あってサガは双子座の聖衣しか身につけていなかったが、後から現れた一輝はそうなった経緯を知らない。
あの時、サガは己の力を見せつけようと星矢の流星拳を正面から受け、衣服はどれほど千切れ飛んでも己の肉体には傷ひとつつけられていない事を誇示してから聖衣を纏ったのだ。
双子座の聖衣は全身を覆うタイプであったので普通に対峙している分には何も問題はなかったのだが、戦闘となれば話は別。
強者たるサガの前に膝を突き、それでも屈せず顔を上げた一輝に見えた世界が大惨事であったのは説明するまでもないだろう。
更に、サガの裸聖衣だが経緯は無視されその事実だけが対峙した星矢と一輝だけでなく、遺体から聖衣を脱がせて棺に納めた者の口から聖域中に知れ渡り、聖域に関わる者は皆知っている。
けれどその時期には聖域に居らず、後に聖戦でその聖衣を纏った弟は知らなかったようで、かつてない真剣な表情と低い声音で問い質す。
「……どういう事だ? 兄さん」
「あ、あの時は、仕方がなかったのだ!」
兄も必死に反論するが、2人とも未だにベッドの上で自分が何も身に付けていない事を忘れているようだ。
そんな2人が立ち上がろうとする前に、一輝が呆れ声で指摘する。
「とりあえず、さっさとなんか着ろお前ら」
★ ☆ ★ ☆ ★
なんとかサガの生装備疑惑も有耶無耶にし、双子のくだらない喧嘩を治めて下着も履かせた一輝は再度浴衣を2人に突きつける。
「間に合わせだから不便だろうが、今お前らに着られそうな物がこれしかないんでな」
綿素材でブカブカな下着には2人とも居心地悪そうであるし、初めて見るだろう浴衣は羽織ってみた物のそこからどうすれば良いのかさっぱり分からない様子の双子を見て、一輝がやはりなとため息をこぼした。
「やはりな。帯は結べんか……。俺がやるからサガ、真っ直ぐ立て。カノンは見てろ」
言われた通り直立したサガの前に歩み寄った一輝は簡単に合せを直すと右の腰骨の辺りを押さえていろ、と告げて放り出されていた帯を手に背後に回る。
するするとサガの腰に帯を巻きつけぐっと絞めれば一瞬呻きが漏れたが、気にせず貝の口に結ぶ。
「俺も子供の頃に見ていただけだが、こんなもんだろ」
腰骨の辺りで前下がり気味に締めるといいとか、1人で結ぶ時には前で結んでから結目を後ろに回すといいとか、コツのような事を話しながらカノンの帯も手早く結んでしまう。
「しばらくはこれしかお前たちが着られそうな物はないし、今後も何かと着る機会はあるだろうから慣れておけ」
「……君は存外面倒見が良い性質 なのだな」
サガの感心した声に照れることもなく一輝は返す。
「手のかかる子供の世話は散々焼いてきたからな」
聖闘士ではなくなった世間知らずの双子など、幼少時からいらん苦労を重ねてきたお兄ちゃん気質全開な一輝にとっては弟たちと変わらないのだと言うように。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2020/07/19〜2020/08/14
UP DATE:2020/08/14
RE UP DATE:2024/08/17
〔衣類 その1〕
〜Golden Japanese Diarys〜
[Happily Ever After番外編]
「とりあえず、これでも羽織っとけ」
サガとカノンは一輝から突きつけられた白地に藍色で流水のような柄が施された薄手のガウンを手に、寝かされていたベッドから上半身を起こした姿勢で良く似た顔を見合わせた。
「詳しい話はこれからするが、要はお前たちは女神アテナの思惑で蘇った。素っ裸でな」
女神の威光……基、意向により聖戦で生命を失った聖闘士達はその魂と肉体を甦らされた。
しかし、神々の施しは衣服にまでは及ばなかったのである。
故に、復活した聖闘士達が姿を現した時、居合わせた者たちは色々と大変だった。
蘇った肉体と魂が定着するのに半日ほど眠ったままだという屈強な男たちにとりあえずシーツなどを掛けて女神から裸体を隠し、大理石が敷き詰められた神殿の床に放置して置くのも邪魔であるのは当然として色んな意味で憚られるので、予め予定していたそれぞれの生活拠点へと運んだのだ。
けれど、多少大柄な人間を運搬するのは容易くとも、意識のない人間に衣服を着せつけるのは聖闘士であってもままならない。
ましてや、13年も居ない事になっていた聖域にサガや存在すら知られていなかったカノンの私服は無く、運び込まれた日本でも彼の体格に見合う衣服は簡単には手に入らない。
そこで一輝は彼らと同じくらいの体格を持つ兄弟に、とりあえず羽織れる物を調達して貰ってきたのだ。
大柄な男性向けの衣類を扱う専門店や、力士御用達の店舗がある界隈で。
「それは浴衣。風呂上がりや寝間着にする着物だ。力士───スモウレスラーの普段着でもある」
なにがおかしいのか、笑みを噛み殺しながら一輝はそんな補足をする。
「……スモウレスラー?」
「それは、日本の国技だという格闘技、だったか?」
サガの知識によれば、男達が下帯姿でぶつかり合う古代レスリングに似た競技がスモウである。
その競技者はリキシと呼ばれ、縦にも横にも大きな巨漢揃いである、とも。
そんな説明を聞いたカノンは猫が強い臭いを嗅いだ時のような表情を見せた。
自分たちが、この国ではそのリキシなる巨漢と同等に見られる可能性に思い至ったのだろう。
実際、成人男性の平均身長が170cm程でしかないこの国では一輝ですら大柄な部類であり、古い家屋では鴨居などで額をぶつけないよう気をつけなければならないし、逆に台所の調理台は低過ぎる上に身を屈めようと曲げた膝を入れるスペースがなくてとても使い勝手が悪い。
既製品の衣服も袖や裾の丈が足りない事が度々あり、幼い頃から物のない生活に慣れて自身の着る物には無頓着な一輝でなければかなり苦労していただろう。
そんな一輝より10cm以上背が高く、鍛えているせいで肩幅もあれば身幅もある彼らがこの国で暮らすのは物理的に肩身が狭いのは確実だ。
幸いにも暫く暮らす事になっている城戸の邸は欧州基準で造られていて天井高もあり、ドアや窓も広く高い。
彼らが生活するに困る事は少ないはずだ。
双子が何とも言い難い表情で固まっていると、一輝が白いゆったりとしたハーフパンツを差し出しながらサガに不思議な事を問う。
「こっちは下着だが、サガお前はどうする?」
「……どうする、とは?」
「……いや。あの時、履いて無かった、よな?」
「は?」
「……なに?」
かつてサガと一輝が顔を合わせたのは、12宮での戦いの最後───教皇宮での1度きりだ。
その際、色々あってサガは双子座の聖衣しか身につけていなかったが、後から現れた一輝はそうなった経緯を知らない。
あの時、サガは己の力を見せつけようと星矢の流星拳を正面から受け、衣服はどれほど千切れ飛んでも己の肉体には傷ひとつつけられていない事を誇示してから聖衣を纏ったのだ。
双子座の聖衣は全身を覆うタイプであったので普通に対峙している分には何も問題はなかったのだが、戦闘となれば話は別。
強者たるサガの前に膝を突き、それでも屈せず顔を上げた一輝に見えた世界が大惨事であったのは説明するまでもないだろう。
更に、サガの裸聖衣だが経緯は無視されその事実だけが対峙した星矢と一輝だけでなく、遺体から聖衣を脱がせて棺に納めた者の口から聖域中に知れ渡り、聖域に関わる者は皆知っている。
けれどその時期には聖域に居らず、後に聖戦でその聖衣を纏った弟は知らなかったようで、かつてない真剣な表情と低い声音で問い質す。
「……どういう事だ? 兄さん」
「あ、あの時は、仕方がなかったのだ!」
兄も必死に反論するが、2人とも未だにベッドの上で自分が何も身に付けていない事を忘れているようだ。
そんな2人が立ち上がろうとする前に、一輝が呆れ声で指摘する。
「とりあえず、さっさとなんか着ろお前ら」
★ ☆ ★ ☆ ★
なんとかサガの生装備疑惑も有耶無耶にし、双子のくだらない喧嘩を治めて下着も履かせた一輝は再度浴衣を2人に突きつける。
「間に合わせだから不便だろうが、今お前らに着られそうな物がこれしかないんでな」
綿素材でブカブカな下着には2人とも居心地悪そうであるし、初めて見るだろう浴衣は羽織ってみた物のそこからどうすれば良いのかさっぱり分からない様子の双子を見て、一輝がやはりなとため息をこぼした。
「やはりな。帯は結べんか……。俺がやるからサガ、真っ直ぐ立て。カノンは見てろ」
言われた通り直立したサガの前に歩み寄った一輝は簡単に合せを直すと右の腰骨の辺りを押さえていろ、と告げて放り出されていた帯を手に背後に回る。
するするとサガの腰に帯を巻きつけぐっと絞めれば一瞬呻きが漏れたが、気にせず貝の口に結ぶ。
「俺も子供の頃に見ていただけだが、こんなもんだろ」
腰骨の辺りで前下がり気味に締めるといいとか、1人で結ぶ時には前で結んでから結目を後ろに回すといいとか、コツのような事を話しながらカノンの帯も手早く結んでしまう。
「しばらくはこれしかお前たちが着られそうな物はないし、今後も何かと着る機会はあるだろうから慣れておけ」
「……君は存外面倒見が良い
サガの感心した声に照れることもなく一輝は返す。
「手のかかる子供の世話は散々焼いてきたからな」
聖闘士ではなくなった世間知らずの双子など、幼少時からいらん苦労を重ねてきたお兄ちゃん気質全開な一輝にとっては弟たちと変わらないのだと言うように。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2020/07/19〜2020/08/14
UP DATE:2020/08/14
RE UP DATE:2024/08/17