Saint School Life
【08:はじめてのおこづかい】
〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]
───これは城戸家の兄弟たちがお邸で共に暮らすようになり、グラード学園への編入が決まった頃の話である。
城戸家の家長である沙織はとある相談の為、兄弟の中でも精神的長兄と看做されている一輝を邸内の執務室へ呼び出した。
そして唐突に本題を切り出す。
「皆さんに毎月のお小遣いを渡そうと思うのだけれど、この額は適正かしら?」
そう言って概算した金額が記された書類を渡そうとしてくるが、書面をちらりと見ただけで一輝は深いため息と共に首を横に振った。
「……中高生に小遣いとして大卒初任給を越える額を渡してどうする」
沙織の側に立つ厳しい顔貌の執事も、普段ならば「折角の沙織お嬢様のお考えを!」と一輝へ噛みついてくるものだが、今回ばかりは深く頷いている。
どうやら辰巳から見ても、お嬢様の判断とは言え今回ばかりは賛同しかねるのだろう。
「だけど、これくらいでないと足りないでしょう?」
沙織の出してきた概算で洋服代と交友費でそれぞれ数万円が計上されているのは多分、彼女自身の感覚なのだろう。
実際はそんな額では足りていないから、多少は控えめにしたのかもしれない。
それでも全然控え目ではない金額を出してきているので、面倒とは思いながらも一輝は苦言を呈する。
「いいか、お嬢さん。ごく普通の一般家庭ではあんたが出してきたこの金額で家族がひと月生活してるって事は頭に入れておけ」
「まあ、そうなの?」
驚くお嬢様に、頷く執事。
浮世離れした姪っ子の金銭感覚に、庶民派過ぎる叔父の言葉はさぞ衝撃的だろう。
「家賃に水道光熱費、医療費や保険料に税金、それから学費に交通費、食費に遊興費を出して先々を見据えて貯金までしてるんだ。こういう普通の家庭で、子供のこづかいが月にどれくらいになるかは、あんたでも想像もつくだろう?」
第一、この邸では衣食住の全てが使用人たちによって賄われていて、衣服は贔屓のテーラーや百貨店の外商で調達されているし、空腹を覚えたらいつでも厨房へ何かを頼む事だってできる。
出かける時は運転手に頼めばいいし、学園にも徒歩で通うから交通費も考えなくていい。
「あいつらも学用品や私服とか洗面用品みたいに他人に頼みにくい買い物もあるだろうが、毎月そこまでの金額が必要になる事はないはずだ」
そもそも兄弟たちの多くは孤児院育ちで、施設ではトラブルを避けるためもあって子供達に少額でも金銭を持たせるような事はなかった。
聖闘士候補生として送られた海外も、人跡未踏の秘境生活だったのだ。
買い物などしようがない。
「まだ一度もまともな買い物すらした事がなく、金銭感覚も育ってないあいつらにいきなり与えていい額じゃない」
そう言われれば、沙織も納得するしかない。
しかし、それではどれくらいの金額が妥当だというのか。
そんな表情を沙織が見せれば、一輝は視線を側の辰巳へと向ける。
「中高生の平均額は?」
「高校生で5000円弱というところだ」
問い掛ければ、すでに調べていた有能な執事は即答した。
その情報は先にお嬢様へ開示しておくべきだ、という言葉を飲み込み、一輝は頷く。
「妥当だな。後は個人でどうやりくりするかに任せていいが……」
「足りなくなったらどうします? 貸し借りしあうのは問題がありますよね?」
中高生が1ヶ月で使う金額としては充分な額であるが、急な出費で足りなくなる事はあるだろう。
なにしろ兄弟達は普通の中高生ではない。
それでも、兄弟間で金銭の貸し借りを野放しにするのは流石に不安がある。
「……貸し借りは禁止しておくべきだが、救済措置も設けておくべきかもな」
「救済措置、ですか?」
「ああ。これは邸の使用人たちにも協力して貰わねばならんが」
それならば、と沙織は財団総帥としての仕事のサポートをする辰巳とは別に、城戸邸で働く使用人たちを取り仕切る家令の戌亥を呼び出し相談に加えた。
家令の戌亥は辰巳より一回り小柄で柔和そうに見える恰幅の良い老紳士である。
しかし、世界中を飛び回って財を成したあの城戸光政に長年仕え、その家内を常に安定させてきた人物だ。
見た目通りという事はなく、普段は場末のごろつきと変わらぬ言動が目立つ辰巳の挙動が心なしかビシッとしている。
しかし、そんな人物と相対しても一輝が怯む事はない。
この度、兄弟たちへお小遣い制度を導入するにあたり、不足した金銭を補填する制度としてお手伝い制を導入したいのだ、と説明を始める。
その上で、使用人たちに頼みたい事がある、と。
「使用人たちに力仕事の一部をあいつらに頼むよう、できないだろうか?」
この邸に勤める以上、プロとして主人家族に仕事を頼むのは本末転倒だろうが、と補足してから一輝は続ける。
「まず、普段の学校生活と家での訓練だけではあいつらも体力を持て余してる。何か、簡単でも、邸内でできる仕事でガス抜きをさせたい」
本当なら毎週末、聖域に全員飛ばしてみっちり鍛錬をさせ、学校で能力をセーブさせている鬱憤を解消すべきなのだろう。
けれど、普通の学生生活を送らせるのなら、休日に友人たちと出かける事も考慮しなければならない。
だからこそ、聖域での鍛錬は月に1度と先に取り決めたのだ。
「それに、俺たちは人に何かを頼むのが苦手なんだ。だが、向こうから頼まれた事なら受け入れるし、そうやって交流しているうちに誰なら何を頼めるか分かって、自分の出来ない事を頼めるようになる事もある」
理由を聞けば、なるほどと思える。
実際、使用人たちは新しい主人家族が増えた事を歓迎していたが、食事や洗濯の総量が増えた以外に変化はなかった。
彼らは殆どの事を自分たちでやるように躾けられた普通の───いや、よりできた子供たちばかりだったので、基本的に手が掛からないのである。
つまり、張り切った使用人たちの多くに仕事が無かった。
それが何を頼んだらやって貰えるのか分からなかったから、と言われれば納得する。
彼らだっていきなりお屋敷の主人として振る舞え、と言われてもすぐには使用人をうまく使うことなどできそうにない。
それでも、このお手伝い制度の是非を判断するには決め手にかけた。
「それもそうよね。だけど……」
再度、反論しようとする沙織の言葉を遮り、一輝が問題点を解消する手段を出してくる。
「もちろん、使用人の方でもなんらかのメリットがなければ頼み事なんてしてこないだろう。あいつらに仕事を頼んでいる間は監督者として給料を割り増しにする、とかできないか?」
「まあ、それならいいと思うわ。どうかしら?」
「それならば、よろしいかと」
邸の主人たる沙織と使用人を束ねる家令の了承を得、お小遣い制度と共にお手伝い制度も確立されたのであった。
★ ☆ ★ ☆ ★
そんな経緯があり、兄弟たちへは毎月一律5000円がおこづかいとして渡される事となった。
同時に、兄弟間や友達同士での金銭の貸し借りは基本的に禁止とも言い渡される。
どうしても足りなくなった時は救済措置を教えるので沙織か一輝、家令の戌亥へ相談するように、とも伝えられた。
「このお金、何に使ってもいいのか?」
初めてお金を持たされ、困惑しつつも期待に瞳を輝かせて星矢が問う。
「自分の生活に必要な物に、よく考えて使え」
無駄遣いするなよ、という圧を込めて返される一輝の言葉にたじろぎながらも星矢は重ねて問い掛ける。
「えーと、たとえば?」
「文房具や洗面用品みたいに自分だけが使う物や、私服。後は学食や購買での買い物。放課後に級友と買い食いするのも構わない」
「え! いいの?」
挙げられた意外な使い道に、星矢だけでなく他の兄弟たちも驚く。
だが当の一輝は当然だろうと涼しい顔だ。
「その金額内で収めるなら、な。ただし、飲料の一本でも毎日買ったらどれくらいの金額になるか、お前でも分かるだろう?」
だいたい100円から200円の商品を学校帰りに毎回買うとしたら20〜25回。
それだけで小遣いの殆どが消えてしまう、と気付いた者はがくりと肩を落とす。
弁当を頼み忘れた時にコンビニや購買で買ったり、学食を利用したら一食で1000円近くを使ってしまうだろう事も合わせて考えると、軽々しく使える額ではないのだ。
今月は既に半月過ぎているけれど、逆に文房具など必要な物をまとめて買い揃え無ければならない分、あまり余裕はない気もする。
「弁当、絶対に頼み忘れないようにする……」
「それがよかろう」
星矢だけでなく、殆どの兄弟がなけなしの小遣いを賢く運用する為、色々と工夫をしなければ、と考えを巡らせ始めた。
その一方で、必要な物を先に揃えなければ、とも思い至る。
今、編入試験の為に使っている筆記用具は勉強室に予め揃えられていたいわゆる備品であり、兄弟たちが共同で使っている物だ。
学校へ通うとなれば個人で筆記用具やノートも持たなければならない。
少なくとも、それで最初の小遣いはそれなりに目減りするだろう。
「兄さん、一緒にペンケースとか買いに行こうよ! お揃いの」
「ああ。明日にでも行くか」
「俺らも一緒していいか?」
しかし、初めて自分で品を選んでする買い物でもある。
楽しみにしている兄弟たちの姿に、果たして彼らはきちんと自分の小遣いをやりくりできるのか。
精神的長兄は少しばかり不安であった。
[オリキャラ]
*戌亥福三(いぬいふくぞう):城戸邸に長年勤めてきた使用人を束ねる家令。恰幅の良い柔和な老紳士。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2024/01/21〜2024/03/08
UP DATE:2024/03/10
RE UP DATE:2024/08/16
〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]
───これは城戸家の兄弟たちがお邸で共に暮らすようになり、グラード学園への編入が決まった頃の話である。
城戸家の家長である沙織はとある相談の為、兄弟の中でも精神的長兄と看做されている一輝を邸内の執務室へ呼び出した。
そして唐突に本題を切り出す。
「皆さんに毎月のお小遣いを渡そうと思うのだけれど、この額は適正かしら?」
そう言って概算した金額が記された書類を渡そうとしてくるが、書面をちらりと見ただけで一輝は深いため息と共に首を横に振った。
「……中高生に小遣いとして大卒初任給を越える額を渡してどうする」
沙織の側に立つ厳しい顔貌の執事も、普段ならば「折角の沙織お嬢様のお考えを!」と一輝へ噛みついてくるものだが、今回ばかりは深く頷いている。
どうやら辰巳から見ても、お嬢様の判断とは言え今回ばかりは賛同しかねるのだろう。
「だけど、これくらいでないと足りないでしょう?」
沙織の出してきた概算で洋服代と交友費でそれぞれ数万円が計上されているのは多分、彼女自身の感覚なのだろう。
実際はそんな額では足りていないから、多少は控えめにしたのかもしれない。
それでも全然控え目ではない金額を出してきているので、面倒とは思いながらも一輝は苦言を呈する。
「いいか、お嬢さん。ごく普通の一般家庭ではあんたが出してきたこの金額で家族がひと月生活してるって事は頭に入れておけ」
「まあ、そうなの?」
驚くお嬢様に、頷く執事。
浮世離れした姪っ子の金銭感覚に、庶民派過ぎる叔父の言葉はさぞ衝撃的だろう。
「家賃に水道光熱費、医療費や保険料に税金、それから学費に交通費、食費に遊興費を出して先々を見据えて貯金までしてるんだ。こういう普通の家庭で、子供のこづかいが月にどれくらいになるかは、あんたでも想像もつくだろう?」
第一、この邸では衣食住の全てが使用人たちによって賄われていて、衣服は贔屓のテーラーや百貨店の外商で調達されているし、空腹を覚えたらいつでも厨房へ何かを頼む事だってできる。
出かける時は運転手に頼めばいいし、学園にも徒歩で通うから交通費も考えなくていい。
「あいつらも学用品や私服とか洗面用品みたいに他人に頼みにくい買い物もあるだろうが、毎月そこまでの金額が必要になる事はないはずだ」
そもそも兄弟たちの多くは孤児院育ちで、施設ではトラブルを避けるためもあって子供達に少額でも金銭を持たせるような事はなかった。
聖闘士候補生として送られた海外も、人跡未踏の秘境生活だったのだ。
買い物などしようがない。
「まだ一度もまともな買い物すらした事がなく、金銭感覚も育ってないあいつらにいきなり与えていい額じゃない」
そう言われれば、沙織も納得するしかない。
しかし、それではどれくらいの金額が妥当だというのか。
そんな表情を沙織が見せれば、一輝は視線を側の辰巳へと向ける。
「中高生の平均額は?」
「高校生で5000円弱というところだ」
問い掛ければ、すでに調べていた有能な執事は即答した。
その情報は先にお嬢様へ開示しておくべきだ、という言葉を飲み込み、一輝は頷く。
「妥当だな。後は個人でどうやりくりするかに任せていいが……」
「足りなくなったらどうします? 貸し借りしあうのは問題がありますよね?」
中高生が1ヶ月で使う金額としては充分な額であるが、急な出費で足りなくなる事はあるだろう。
なにしろ兄弟達は普通の中高生ではない。
それでも、兄弟間で金銭の貸し借りを野放しにするのは流石に不安がある。
「……貸し借りは禁止しておくべきだが、救済措置も設けておくべきかもな」
「救済措置、ですか?」
「ああ。これは邸の使用人たちにも協力して貰わねばならんが」
それならば、と沙織は財団総帥としての仕事のサポートをする辰巳とは別に、城戸邸で働く使用人たちを取り仕切る家令の戌亥を呼び出し相談に加えた。
家令の戌亥は辰巳より一回り小柄で柔和そうに見える恰幅の良い老紳士である。
しかし、世界中を飛び回って財を成したあの城戸光政に長年仕え、その家内を常に安定させてきた人物だ。
見た目通りという事はなく、普段は場末のごろつきと変わらぬ言動が目立つ辰巳の挙動が心なしかビシッとしている。
しかし、そんな人物と相対しても一輝が怯む事はない。
この度、兄弟たちへお小遣い制度を導入するにあたり、不足した金銭を補填する制度としてお手伝い制を導入したいのだ、と説明を始める。
その上で、使用人たちに頼みたい事がある、と。
「使用人たちに力仕事の一部をあいつらに頼むよう、できないだろうか?」
この邸に勤める以上、プロとして主人家族に仕事を頼むのは本末転倒だろうが、と補足してから一輝は続ける。
「まず、普段の学校生活と家での訓練だけではあいつらも体力を持て余してる。何か、簡単でも、邸内でできる仕事でガス抜きをさせたい」
本当なら毎週末、聖域に全員飛ばしてみっちり鍛錬をさせ、学校で能力をセーブさせている鬱憤を解消すべきなのだろう。
けれど、普通の学生生活を送らせるのなら、休日に友人たちと出かける事も考慮しなければならない。
だからこそ、聖域での鍛錬は月に1度と先に取り決めたのだ。
「それに、俺たちは人に何かを頼むのが苦手なんだ。だが、向こうから頼まれた事なら受け入れるし、そうやって交流しているうちに誰なら何を頼めるか分かって、自分の出来ない事を頼めるようになる事もある」
理由を聞けば、なるほどと思える。
実際、使用人たちは新しい主人家族が増えた事を歓迎していたが、食事や洗濯の総量が増えた以外に変化はなかった。
彼らは殆どの事を自分たちでやるように躾けられた普通の───いや、よりできた子供たちばかりだったので、基本的に手が掛からないのである。
つまり、張り切った使用人たちの多くに仕事が無かった。
それが何を頼んだらやって貰えるのか分からなかったから、と言われれば納得する。
彼らだっていきなりお屋敷の主人として振る舞え、と言われてもすぐには使用人をうまく使うことなどできそうにない。
それでも、このお手伝い制度の是非を判断するには決め手にかけた。
「それもそうよね。だけど……」
再度、反論しようとする沙織の言葉を遮り、一輝が問題点を解消する手段を出してくる。
「もちろん、使用人の方でもなんらかのメリットがなければ頼み事なんてしてこないだろう。あいつらに仕事を頼んでいる間は監督者として給料を割り増しにする、とかできないか?」
「まあ、それならいいと思うわ。どうかしら?」
「それならば、よろしいかと」
邸の主人たる沙織と使用人を束ねる家令の了承を得、お小遣い制度と共にお手伝い制度も確立されたのであった。
★ ☆ ★ ☆ ★
そんな経緯があり、兄弟たちへは毎月一律5000円がおこづかいとして渡される事となった。
同時に、兄弟間や友達同士での金銭の貸し借りは基本的に禁止とも言い渡される。
どうしても足りなくなった時は救済措置を教えるので沙織か一輝、家令の戌亥へ相談するように、とも伝えられた。
「このお金、何に使ってもいいのか?」
初めてお金を持たされ、困惑しつつも期待に瞳を輝かせて星矢が問う。
「自分の生活に必要な物に、よく考えて使え」
無駄遣いするなよ、という圧を込めて返される一輝の言葉にたじろぎながらも星矢は重ねて問い掛ける。
「えーと、たとえば?」
「文房具や洗面用品みたいに自分だけが使う物や、私服。後は学食や購買での買い物。放課後に級友と買い食いするのも構わない」
「え! いいの?」
挙げられた意外な使い道に、星矢だけでなく他の兄弟たちも驚く。
だが当の一輝は当然だろうと涼しい顔だ。
「その金額内で収めるなら、な。ただし、飲料の一本でも毎日買ったらどれくらいの金額になるか、お前でも分かるだろう?」
だいたい100円から200円の商品を学校帰りに毎回買うとしたら20〜25回。
それだけで小遣いの殆どが消えてしまう、と気付いた者はがくりと肩を落とす。
弁当を頼み忘れた時にコンビニや購買で買ったり、学食を利用したら一食で1000円近くを使ってしまうだろう事も合わせて考えると、軽々しく使える額ではないのだ。
今月は既に半月過ぎているけれど、逆に文房具など必要な物をまとめて買い揃え無ければならない分、あまり余裕はない気もする。
「弁当、絶対に頼み忘れないようにする……」
「それがよかろう」
星矢だけでなく、殆どの兄弟がなけなしの小遣いを賢く運用する為、色々と工夫をしなければ、と考えを巡らせ始めた。
その一方で、必要な物を先に揃えなければ、とも思い至る。
今、編入試験の為に使っている筆記用具は勉強室に予め揃えられていたいわゆる備品であり、兄弟たちが共同で使っている物だ。
学校へ通うとなれば個人で筆記用具やノートも持たなければならない。
少なくとも、それで最初の小遣いはそれなりに目減りするだろう。
「兄さん、一緒にペンケースとか買いに行こうよ! お揃いの」
「ああ。明日にでも行くか」
「俺らも一緒していいか?」
しかし、初めて自分で品を選んでする買い物でもある。
楽しみにしている兄弟たちの姿に、果たして彼らはきちんと自分の小遣いをやりくりできるのか。
精神的長兄は少しばかり不安であった。
[オリキャラ]
*戌亥福三(いぬいふくぞう):城戸邸に長年勤めてきた使用人を束ねる家令。恰幅の良い柔和な老紳士。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2024/01/21〜2024/03/08
UP DATE:2024/03/10
RE UP DATE:2024/08/16