Saint School Life
【05.5:課外活動の行方】
〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]
「……それで結局、どうしたんだ?」
夕食後に風呂の順番待ちを兼ねて勉強室で課題を片付けていた一輝は弟たちから今日の学校での出来事を聞き、肝心の部活動見学がどうだったのかを尋ねた。
瞬に妙な言い掛かりをつけて絡んできた同好会の面々は学園の方で処分されたと聞いているから、今回の事で動くつもりは今の所ない。
懲りずにまた何かやらかしたら、その限りではないが。
「気になった部活動を幾つか見学させてもらったんだが、園芸部に入る事にした」
不愉快な話題を断ち切りたいのか、珍しく紫龍が真っ先に話出した。
「学園内の庭木の手入れ以外に作物を育てる畑もあってな、環境問題や農業被害の勉強会もしていると聞いて興味が湧いたんだ」
いや、中国の奥地で体力作りを兼ねて農作業をしていただけあって、農業者としての意識が強いのかもしれない。
そう言えば、園芸番組などはかなり真剣に見ているし。
「ミーは軽音同好会ザンスよ」
ギタープレイの真似事をしながら市が語る。
「ジャンル違いだけどやたらギターの上手い後輩と、話の合う先輩がいたのが決め手ザンスね」
市が修行していた地域はヘビィメタルが好まれていて、その影響なのか彼の音楽の趣味は兄弟の中では独特だ。
話の通じる同好の士がいる、というのは個性的な兄弟の中にあっても浮く事がある彼にとっては良い事だろう。
「俺は、写真同好会」
星矢の選択は意外ではあったが、離れて暮らす姉と手紙でやり取りする際に身近な風景や孤児院で共に育った幼馴染みらの写真を添えているのを知っているから、なるほどとも思う。
「本当は運動部入りたかったけど、ダメだってみんな言うからさー」
本人としては不本意な選択だったようだが。
「……オレは、マナー部に入る事にした」
揶揄される覚悟か気合いを込めて宣言する邪武へ、彼が沙織の補佐をしたいと願っているのを知っている兄弟達は良い選択をした、と穏やかに肯定した。
「……いずれ、お嬢様のお力になるにも、全くの礼儀知らずでは恥をかかせるだけだからな」
からかいそうな末っ子の口は気を回した精神的長兄が課題の間違いを指摘してやったら、気が逸れたらしい。
「俺たちの学年は課外活動は義務じゃないが、一度くらいは同好会か委員会には入って学生らしい活動もしてみたいな」
蛮の言葉に一輝も頷くが、週1回の登校で財団の仕事もしている彼にそんな暇は無さそうである。
「兄さんが部活動か同好会入るなら、僕も同じ所にしたんだけどなあ」
残念そうに呟く瞬は幾つかの同好会を見て回ったが、未だに決めかねているらしい。
「ボランティア活動してる同好会が幾つかあってね。昔、施設に読み聞かせとか人形劇とかやりに来てくれた人たち思い出して。ああいうの、僕もやってみたいなって」
そう言えばそんな事があったな、と施設育ちの兄弟達が興味を示したり、他の同好会でも協力しあったりしていると話し出す。
「あー、なんかあったな。やたらグイグイくる奴らが遊びに来る事。あれ、学生ボランティアだったのか?」
「優しいお姉さん達が来てくれるのは楽しみだったザンスねえ」
「学園で活動してるボランティア系の同好会は病児学級の授業補助もしているのか……」
「そういえば、園芸部で育てた植物や作物を提供したり、施設の庭の手入れに参加したりしているという話も聞いたな」
「あー、それオレんとこも。施設育ちだとさ、あんまり写真って撮らないじゃん。だから、施設の行事とかイベントの写真撮りに行くんだって」
「そうなんだ。じゃあ、一緒にボランティア行ったりできるかもね」
そんな風に盛り上がってると勉強室の扉が開き、首にタオルを引っ掛けた檄が入ってきた。
「風呂空いたぞー」
「おう。じゃ、お先」
「お先ザンスー」
「あー、オレまだ終わってねぇから誰か先行ってー」
「なら、先行かせてもらうな」
バタバタと机の上を片付けて蛮と市が立ち上がり、星矢の代わりに邪武が続いて出て行く。
城戸家で兄弟達が使う浴場は全員一緒に入れる広さはあるけれど、どうせならゆっくり手足を伸ばしたいと3〜4人ずつに分かれて使っているのだ。
先に風呂を使った檄と那智、それと氷河は水分補給をしながら課題や予習に取り掛かる。
「なー、一輝。これなんて読むんだ?」
「辞書を引け」
プリントを突き出してくる末っ子を突き放すが、これは同じ事を何度も尋ねられた精神的長兄からの辞書の引き方をいい加減覚えろという愛の鞭だ。
「えー、ケチー! なー、瞬ー。兄ちゃんがオレにだけ冷たーい!」
「星矢、それさっきも聞いてた字だよ。もう、忘れちゃったの?」
「人に聞いてばかりで、自分で考えないから身につかないんだ。ほら、星矢」
忙しい一輝にいつでも聞けるわけではないので、いい加減自分で解決する努力をさせなければならないと考えた兄弟達は末っ子に少し厳しい。
勉強室に備え付けの分厚い辞書を紫龍から手渡され、星矢は苦い顔だ。
「あー、もー、めんどくせー」
不満を口にしながらも、ペラペラと辞書をめくって目的の語を探し出し、プリントに振り仮名を振る。
そんな末っ子の様子に、現代文の教科書と兄弟達を交互に見ていた氷河は電子辞書を取り出して自力翻訳を始めた。
ちゃんと自分で調べた上でどうしても理解できない事ならば皆きちんと答えるのだが、星矢のように自分で調べたり考えたりしないまま億劫がって兄弟を便利に使おうとするのは誰もいい気がしない。
こうして兄弟たちの間にはルールという絆が出来上がっていくのだろう。
それからしばらくは大人しくそれぞれに学習をしていたのだが、自分の課題に飽きた那智が器用にペンを回しながら口を開く。
「そういや、オレたちが風呂上がった時、なんか盛り上がってたけど、何話してたんだ?」
「……課外活動をどうするか、をな」
無視するわけにもいかず、末っ子を引き受けた瞬と氷河を請け負った紫龍に目線で促された一輝が課題をこなす手を止めずに簡潔に答えた。
「ああ。なんか今日、騒いでたんだってな。てゆーか、3年までは全員なんかやんなきゃいけねぇんだっけ?」
「……それで、それぞれどこに所属するか、どんな活動をするのか、話してただけだ」
「ふーん。なあ、それ、オレらにも聞いてくれる流れじゃねえの?」
課題に集中したいのか話を終わらせようとする一輝に、那智は食い下がる。
孤児として育った兄弟たちにとってずっと憧れだった家族───兄に構って貰えるのが嬉しくて引き際を見極められないのは、彼の子供の頃からの悪い癖だ。
思えばかつてこの邸に集められた子供達の中で瞬だけがやたらと意地悪をされたのは、何をおいても味方をしてくれる兄がいる彼への密かな憧れと拙い嫉妬心からだったのだろう。
やり過ぎれば一輝が仕返しに来るのは分かっていても、自分と同じ筈なのに1人だけ守られている事を羨む気持ちは止められなかったのだ。
まあ、腹違いの兄弟と分かってこうして同じ邸で暮らすようになってからは、一輝も兄弟全員を同じように扱っている。
一見、実弟を贔屓しているように見えたとしても、一輝本人は同じつもりだ。
ただ、ずっと兄弟と接してきた一輝と瞬、そして姉のいる星矢や母と長く過ごしていた氷河と、全く家族と触れ合った記憶がないまま長く渇望してきた他の兄弟達との温度差がだいぶ違う。
いや、実弟の瞬や母親や姉に甘えて育った氷河と星矢も世間一般の兄弟としてはやたらと距離が近過ぎるし、そんな彼らを見てきた他の兄弟達も同じような距離感なのだが、気持ちテンションが高くなりがちだ。
そして、その空回った気持ちが扱いの差に現れるのである。
「那智。その課題、終わらせなくていいのか?」
檄が気を回して話を終わらせようとするが、那智は止まらない。
自分の課題や予習に手間取っている星矢や氷河、彼らを手伝っている紫龍と瞬の邪魔にもなっているのに、尚も一輝に言い募る。
「檄はいいとしてさー、オレや氷河にも、どこに入るか聞いてくれてもいいんじゃね?」
そもそも今日の放課後に起きた騒動の顛末を尋ねた流れからそれぞれが参加する課外活動を報告し合ったり活動内容を話題にしていただけで、積極的に聞き出していたわけではない。
だから同じように、本日分の課題を仕上げた一輝は筆記具や参考書を片付けながら促した。
「……話しておきたい事があったのなら、話せばいい」
「いや、だからさー。もっと興味深く聞いてくれって」
しかし、そうとは知らない那智はやりかけの課題を放り出したまま、食い下がる。
さっさと話しておけばいいのに、と檄が溜息を吐いたのにも気付かない。
一輝が課題を片付けた以上、時間切れだという事にも。
「おーい、風呂空いたぞー」
勉強室のドアを開け、蛮が声をかければ一輝と瞬、紫龍が立ち上がる。
星矢はなんとか間に合ったようで、机に突っ伏して終わったーとうめいていた。
「ほら、星矢。お風呂行こうよ」
「……おう」
のろのろと立ち上がった星矢を引っ張っていく瞬に続き、紫龍と一輝も勉強室をでていく。
残された那智は、呆然と見送るしかない。
「えー、放置?」
「那智。お前、課題やれよ」
「おー、なんだ分からん所でもあるのか?」
檄と蛮が促してやれば渋々と課題に取り掛かるが、きっとまたなにかと一輝にまとわりつくだろう。
子供の頃から何度も叩きのめされ、聖闘士となってから真っ先に精神的にズタズタにされたというのに、想像以上に打たれ強いのか全く懲りない那智に兄弟達も苦笑いで見守るしかできない。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2020/10/06 〜 2020/11/22
UP DATE:2020/11/23
RE UP DATE:2024/08/16
〜Saint School Life〜
[Happily Ever After番外編]
「……それで結局、どうしたんだ?」
夕食後に風呂の順番待ちを兼ねて勉強室で課題を片付けていた一輝は弟たちから今日の学校での出来事を聞き、肝心の部活動見学がどうだったのかを尋ねた。
瞬に妙な言い掛かりをつけて絡んできた同好会の面々は学園の方で処分されたと聞いているから、今回の事で動くつもりは今の所ない。
懲りずにまた何かやらかしたら、その限りではないが。
「気になった部活動を幾つか見学させてもらったんだが、園芸部に入る事にした」
不愉快な話題を断ち切りたいのか、珍しく紫龍が真っ先に話出した。
「学園内の庭木の手入れ以外に作物を育てる畑もあってな、環境問題や農業被害の勉強会もしていると聞いて興味が湧いたんだ」
いや、中国の奥地で体力作りを兼ねて農作業をしていただけあって、農業者としての意識が強いのかもしれない。
そう言えば、園芸番組などはかなり真剣に見ているし。
「ミーは軽音同好会ザンスよ」
ギタープレイの真似事をしながら市が語る。
「ジャンル違いだけどやたらギターの上手い後輩と、話の合う先輩がいたのが決め手ザンスね」
市が修行していた地域はヘビィメタルが好まれていて、その影響なのか彼の音楽の趣味は兄弟の中では独特だ。
話の通じる同好の士がいる、というのは個性的な兄弟の中にあっても浮く事がある彼にとっては良い事だろう。
「俺は、写真同好会」
星矢の選択は意外ではあったが、離れて暮らす姉と手紙でやり取りする際に身近な風景や孤児院で共に育った幼馴染みらの写真を添えているのを知っているから、なるほどとも思う。
「本当は運動部入りたかったけど、ダメだってみんな言うからさー」
本人としては不本意な選択だったようだが。
「……オレは、マナー部に入る事にした」
揶揄される覚悟か気合いを込めて宣言する邪武へ、彼が沙織の補佐をしたいと願っているのを知っている兄弟達は良い選択をした、と穏やかに肯定した。
「……いずれ、お嬢様のお力になるにも、全くの礼儀知らずでは恥をかかせるだけだからな」
からかいそうな末っ子の口は気を回した精神的長兄が課題の間違いを指摘してやったら、気が逸れたらしい。
「俺たちの学年は課外活動は義務じゃないが、一度くらいは同好会か委員会には入って学生らしい活動もしてみたいな」
蛮の言葉に一輝も頷くが、週1回の登校で財団の仕事もしている彼にそんな暇は無さそうである。
「兄さんが部活動か同好会入るなら、僕も同じ所にしたんだけどなあ」
残念そうに呟く瞬は幾つかの同好会を見て回ったが、未だに決めかねているらしい。
「ボランティア活動してる同好会が幾つかあってね。昔、施設に読み聞かせとか人形劇とかやりに来てくれた人たち思い出して。ああいうの、僕もやってみたいなって」
そう言えばそんな事があったな、と施設育ちの兄弟達が興味を示したり、他の同好会でも協力しあったりしていると話し出す。
「あー、なんかあったな。やたらグイグイくる奴らが遊びに来る事。あれ、学生ボランティアだったのか?」
「優しいお姉さん達が来てくれるのは楽しみだったザンスねえ」
「学園で活動してるボランティア系の同好会は病児学級の授業補助もしているのか……」
「そういえば、園芸部で育てた植物や作物を提供したり、施設の庭の手入れに参加したりしているという話も聞いたな」
「あー、それオレんとこも。施設育ちだとさ、あんまり写真って撮らないじゃん。だから、施設の行事とかイベントの写真撮りに行くんだって」
「そうなんだ。じゃあ、一緒にボランティア行ったりできるかもね」
そんな風に盛り上がってると勉強室の扉が開き、首にタオルを引っ掛けた檄が入ってきた。
「風呂空いたぞー」
「おう。じゃ、お先」
「お先ザンスー」
「あー、オレまだ終わってねぇから誰か先行ってー」
「なら、先行かせてもらうな」
バタバタと机の上を片付けて蛮と市が立ち上がり、星矢の代わりに邪武が続いて出て行く。
城戸家で兄弟達が使う浴場は全員一緒に入れる広さはあるけれど、どうせならゆっくり手足を伸ばしたいと3〜4人ずつに分かれて使っているのだ。
先に風呂を使った檄と那智、それと氷河は水分補給をしながら課題や予習に取り掛かる。
「なー、一輝。これなんて読むんだ?」
「辞書を引け」
プリントを突き出してくる末っ子を突き放すが、これは同じ事を何度も尋ねられた精神的長兄からの辞書の引き方をいい加減覚えろという愛の鞭だ。
「えー、ケチー! なー、瞬ー。兄ちゃんがオレにだけ冷たーい!」
「星矢、それさっきも聞いてた字だよ。もう、忘れちゃったの?」
「人に聞いてばかりで、自分で考えないから身につかないんだ。ほら、星矢」
忙しい一輝にいつでも聞けるわけではないので、いい加減自分で解決する努力をさせなければならないと考えた兄弟達は末っ子に少し厳しい。
勉強室に備え付けの分厚い辞書を紫龍から手渡され、星矢は苦い顔だ。
「あー、もー、めんどくせー」
不満を口にしながらも、ペラペラと辞書をめくって目的の語を探し出し、プリントに振り仮名を振る。
そんな末っ子の様子に、現代文の教科書と兄弟達を交互に見ていた氷河は電子辞書を取り出して自力翻訳を始めた。
ちゃんと自分で調べた上でどうしても理解できない事ならば皆きちんと答えるのだが、星矢のように自分で調べたり考えたりしないまま億劫がって兄弟を便利に使おうとするのは誰もいい気がしない。
こうして兄弟たちの間にはルールという絆が出来上がっていくのだろう。
それからしばらくは大人しくそれぞれに学習をしていたのだが、自分の課題に飽きた那智が器用にペンを回しながら口を開く。
「そういや、オレたちが風呂上がった時、なんか盛り上がってたけど、何話してたんだ?」
「……課外活動をどうするか、をな」
無視するわけにもいかず、末っ子を引き受けた瞬と氷河を請け負った紫龍に目線で促された一輝が課題をこなす手を止めずに簡潔に答えた。
「ああ。なんか今日、騒いでたんだってな。てゆーか、3年までは全員なんかやんなきゃいけねぇんだっけ?」
「……それで、それぞれどこに所属するか、どんな活動をするのか、話してただけだ」
「ふーん。なあ、それ、オレらにも聞いてくれる流れじゃねえの?」
課題に集中したいのか話を終わらせようとする一輝に、那智は食い下がる。
孤児として育った兄弟たちにとってずっと憧れだった家族───兄に構って貰えるのが嬉しくて引き際を見極められないのは、彼の子供の頃からの悪い癖だ。
思えばかつてこの邸に集められた子供達の中で瞬だけがやたらと意地悪をされたのは、何をおいても味方をしてくれる兄がいる彼への密かな憧れと拙い嫉妬心からだったのだろう。
やり過ぎれば一輝が仕返しに来るのは分かっていても、自分と同じ筈なのに1人だけ守られている事を羨む気持ちは止められなかったのだ。
まあ、腹違いの兄弟と分かってこうして同じ邸で暮らすようになってからは、一輝も兄弟全員を同じように扱っている。
一見、実弟を贔屓しているように見えたとしても、一輝本人は同じつもりだ。
ただ、ずっと兄弟と接してきた一輝と瞬、そして姉のいる星矢や母と長く過ごしていた氷河と、全く家族と触れ合った記憶がないまま長く渇望してきた他の兄弟達との温度差がだいぶ違う。
いや、実弟の瞬や母親や姉に甘えて育った氷河と星矢も世間一般の兄弟としてはやたらと距離が近過ぎるし、そんな彼らを見てきた他の兄弟達も同じような距離感なのだが、気持ちテンションが高くなりがちだ。
そして、その空回った気持ちが扱いの差に現れるのである。
「那智。その課題、終わらせなくていいのか?」
檄が気を回して話を終わらせようとするが、那智は止まらない。
自分の課題や予習に手間取っている星矢や氷河、彼らを手伝っている紫龍と瞬の邪魔にもなっているのに、尚も一輝に言い募る。
「檄はいいとしてさー、オレや氷河にも、どこに入るか聞いてくれてもいいんじゃね?」
そもそも今日の放課後に起きた騒動の顛末を尋ねた流れからそれぞれが参加する課外活動を報告し合ったり活動内容を話題にしていただけで、積極的に聞き出していたわけではない。
だから同じように、本日分の課題を仕上げた一輝は筆記具や参考書を片付けながら促した。
「……話しておきたい事があったのなら、話せばいい」
「いや、だからさー。もっと興味深く聞いてくれって」
しかし、そうとは知らない那智はやりかけの課題を放り出したまま、食い下がる。
さっさと話しておけばいいのに、と檄が溜息を吐いたのにも気付かない。
一輝が課題を片付けた以上、時間切れだという事にも。
「おーい、風呂空いたぞー」
勉強室のドアを開け、蛮が声をかければ一輝と瞬、紫龍が立ち上がる。
星矢はなんとか間に合ったようで、机に突っ伏して終わったーとうめいていた。
「ほら、星矢。お風呂行こうよ」
「……おう」
のろのろと立ち上がった星矢を引っ張っていく瞬に続き、紫龍と一輝も勉強室をでていく。
残された那智は、呆然と見送るしかない。
「えー、放置?」
「那智。お前、課題やれよ」
「おー、なんだ分からん所でもあるのか?」
檄と蛮が促してやれば渋々と課題に取り掛かるが、きっとまたなにかと一輝にまとわりつくだろう。
子供の頃から何度も叩きのめされ、聖闘士となってから真っ先に精神的にズタズタにされたというのに、想像以上に打たれ強いのか全く懲りない那智に兄弟達も苦笑いで見守るしかできない。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2020/10/06 〜 2020/11/22
UP DATE:2020/11/23
RE UP DATE:2024/08/16