10周年お礼SS
【Trick yet Treat!!!】
[10周年お礼:新作(その他)]
「……一体、どういうこと、だってばよ?……」
日の暮れた木ノ葉で一番の繁華街に足を踏み入れたナルトは目の前を流れていく光景に呆然と立ち尽くす。
確か、今朝は何事もなく任務を請け負ったはずだが、夕方に報告書を提出に受付を訪れた時にいささか違和感を覚えた気がする。
カウンターに見慣れた恩師がいないのは、受付専任ではないと知っているから気にはならない。
ただ、顔馴染みとなった中忍たちの姿も見えない事を訝しく思っただけで、そんな事もあるだろうと気にしなかった。
そして夕飯を確保───というか、いつもの如く一楽でラーメンを堪能すべく、賑わいを増す大通りへと足を踏み入れてようやく異変に気付く。
「……なんで、大人がいねぇんだ?」
宵闇にネオン看板が燦めく繁華街は一仕事終えた大人たちがその日一日のお互いを労い合ったり明日への英気を養うという名目で、美味いとも思えない酒を飲んだり飲まれたり何が楽しいのか分からないが若いお姉ちゃんがちやほやしてくれる店に繰り出す。
それがいつもの光景だった。
なのに今夜は鮮やかなオレンジ色を主体に黒や紫の色彩で装飾された通りを、奇妙な扮装をした子供ばかりが列をなして歩いている。
皆楽しそうにしているし、通りに建ち並ぶ店も活気付いているから祭りなのかもしれない。
けれど一体、なんの祭りなのか。
「よお、ナルトじゃねえか」
馴染んだ声より少し高い呼び掛けに、恐る恐る振り返る。
そこには、かつては共に馬鹿をやっていたイノシカチョウトリオが2組、奇抜な格好をして並んでいた。
「……な、ななななななななななななんでぇーっ!? なんで、お前ら2人ずついんだってばよーっ!!」
「……うっせえなぁ。おい、ナルトよぉ。他人様を指差すんじゃねえ……」
「そうだよねえ。ナルトくんこそ、事あるごとに《多重影分身》だもんねえ」
最もな事を指摘されてナルトは疑問の1つを無視する事にする。
だが、加わった違和感については正直に口にした。
「……な、なあ、いの。シカマルもチョウジも、なーんかオッサン臭くね?」
「ははは。いのちゃんとオレはそんなに似てるかい、ナルトくん?」
「ちょっとナルトーっ!? なんでアタシとパパを間違えんのよアンタはーっ!」
やたらと嬉しそうにニコニコ笑顔で男言葉ないの(黒のゴスロリミニドレス)の隣で、内なるサクラばりに激昂している凄まじい表情のいの(紫の甘ロリミニドレス)。
2人の言葉を理解したナルトは、固まる。
「………………は?」
そんなナルトへ穏やかに微笑んでスナック菓子を食べているチョウジ×2(緑色と橙色の丸々としたカボチャ)。
彼らは見間違われても気にしないらしく、そのせいか余計に見分けられない。
「…………え?」
両極端な4人の間に並んで立ち、額を押さえていため息を吐くシカマル(継ぎ接ぎ人造人間)と、呆れと苦笑が半々の複雑な表情をしたシカマル(継ぎ接ぎ人造博士)。
はっきり言って顔形は双子かというくらい似ているのに、それぞれの表情や醸し出す雰囲気がまるで違う。
敢えて言うなら前者はどこか青臭く、後者はオッサン臭い。
「……はぇえええええええええええええええええええええーっ!!」
さっき窘められたにもかかわらず、びしっと指を突き付けた6人はイノシカチョウトリオ親子である。
なぜか全員、仮装している上に子供の姿だったけれど。
「ななななななななんでっ? なんで、子供っ!」
「あ? お前も知らねぇ……いや、そうか」
「あー、そう言えばこのお祭り、ナルトがいない時から始まったもんね」
「それにー、あの通達もナルトには行ってないでしょー?」
多分、ナルトと同期の方のイノシカチョウトリオが緩々と聞き捨てならない話しをしている。
「……な、なあなあっ! オレに通達されないって、一体どういうことだってばよっ?」
かつて自分にだけ知らされないまま、九尾と同一視され恐れられ迫害され続けた幼少時代を思い出してか、怒りと焦りで怒鳴りつける。
しかし詰問された6人は耳を塞ぎ、説明するのも面倒だという顔をしていた。
「あー、お前だけじゃねえ。通達があるのは中忍以上、あと一部の下忍だけだ」
「ナルトくんはまだ下忍だったよね?」
「自来也様と修業に出てて、中忍試験受けてないからねえ」
親世代イノシカチョウトリオに言われて、ナルトは忘れていた事を思い出した。
里抜けしたサスケと里を出て修業していたナルト以外の同期たちは皆、既に中忍に昇格している。
だが、それが通達されない理由とどう関係があるのかさっぱりだった。
「……なあ、シカクのおっちゃん。なんで下忍に通達こねえの?」
「中忍以上への通達はこの祭りへの強制参加でな、一部の下忍ってのはそいつらの代わりに任務を請け負う経験値高い奴らだ」
「まだ若い下忍には通常任務くらいしかさせられないからね」
「要するに通達が行かないのは新人ってことだよ」
つまり自分はアカデミー卒業したてと同じ扱いだと言われ、ナルトは盛大にヘコんだ。
誰にも言っていないが、同期の中で1人だけまだ下忍だというのは密かなコンプレックスになっている。
修業は有意義だったし、自分には必要な時間だったから後悔はしていないが、それでもやはり1人だけ置いてけぼりというのはなんだか淋しい。
今にも膝を抱えかねない落ち込みようのナルトを見兼ねてか、それとも気にしていないのか、話題を変えてくるのはシカマルだろう。
「……んなことより。ナルト、お前先生たち見かけなかったか?」
「……先生って、アスマ先生か? いんや、全然……」
第一、あのヒゲ面の大男が彼らと同じく子供の姿になっているなら、きっとナルトには誰だか分からない。
今だってイノシカチョウトリオ親子の区別が心許ないのだし。
「てゆーかっ! なんで皆して子供んなって、仮装なんかしてんだってばよっ!? そっから説明してくんねーと、オレってば全然分かんねえんだけどーっ?」
「……そっからかよ。めんどくせえ」
「簡単に言うと中忍以上は変化してー、そうじゃない人たちは仮装してお祭りに参加するんだよ」
「で、今年は全員自分の10歳の頃に変化してから仮装って、綱手様が決めたのよー」
「……ばあちゃんが?」
実際は50歳を越えているにもかかわらず、自在に見た目の年齢を変えて借金取りから逃げ回っていた現5代目火影。
その情けなくも強かな様を目にした事のあるナルトが、ちょっと遠い目になるのは仕方がない。
「オレらとしては、ガキの先生たちを一目見たくって探してるってワケだ」
めんどくさがりにしては珍しくやる気なシカマルの発言にナルトは首を傾げる。
「……あのさ、あのさー。先生たちだって子供の頃くらいあったろうし、わざわざ探してまで見たいもんかー?」
心底興味なさそうに尋ねるナルトに、やたら目をキラキラさせたいのが反論した。
「あったりまえでしょー! パパから聞いたんだけどー、子供のアスマ先生って超可愛かったらしいのよー! もう絶対、見ておきたいじゃないっ!」
「あとさー、カカシ先生とかー、イルカ先生も面白そうなんだよねー」
普段は食べ物以外に興味を示さないチョウジまで乗り気な事に、ナルトは更に首を捻る。
「は? カカシ先生と、イルカ先生も? なんで?」
「カカシ先生ってよ、昔はツンケンした嫌なガキだったって親父が言っててなあ……」
「イルカ先生もー、ナルトなんか足下に及ばないくらいのいたずらっ子だったらしいよー」
「ちょっ、なにそれっ! オレも見たい! ちょー見たいっ!」
恩師2人の意外な子供時代を聞いたナルトも俄然やる気をだす。
「だろ?」
「ああっ! カカシ先生はともかく、イルカ先生は絶対見てやるってばよー!」
誘導成功とばかりに口角を上げるシカマルに、ナルトはさっそく悪知恵を発揮する。
「……なあ。だったらよー、キバとかネジとか巻き込めねえ?」
「なるほどねえ、探索系か……。よし、二手に分かれるか。まず8班の奴らを仲間にするぞ……」
アカデミー時代へ戻った悪ガキの顔で作戦を立てるナルトとシカマル。
傍で2人を呆れ顔で眺めるいのと、微笑んで見守るチョウジというのもあの頃と変わらない。
「……ルートは把握したな? んじゃ、作戦決行だ」
「おうっ」
「おー」
「いっくわよー!」
それぞれの役割に散って行く子供たちを父親たち───約1名女装している───が、微笑ましく見守っていた。
[お題]
*10周年記念のお礼フリー短編として『新作でその他』
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/10/28
UP DATE:2014/10/31(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
[10周年お礼:新作(その他)]
「……一体、どういうこと、だってばよ?……」
日の暮れた木ノ葉で一番の繁華街に足を踏み入れたナルトは目の前を流れていく光景に呆然と立ち尽くす。
確か、今朝は何事もなく任務を請け負ったはずだが、夕方に報告書を提出に受付を訪れた時にいささか違和感を覚えた気がする。
カウンターに見慣れた恩師がいないのは、受付専任ではないと知っているから気にはならない。
ただ、顔馴染みとなった中忍たちの姿も見えない事を訝しく思っただけで、そんな事もあるだろうと気にしなかった。
そして夕飯を確保───というか、いつもの如く一楽でラーメンを堪能すべく、賑わいを増す大通りへと足を踏み入れてようやく異変に気付く。
「……なんで、大人がいねぇんだ?」
宵闇にネオン看板が燦めく繁華街は一仕事終えた大人たちがその日一日のお互いを労い合ったり明日への英気を養うという名目で、美味いとも思えない酒を飲んだり飲まれたり何が楽しいのか分からないが若いお姉ちゃんがちやほやしてくれる店に繰り出す。
それがいつもの光景だった。
なのに今夜は鮮やかなオレンジ色を主体に黒や紫の色彩で装飾された通りを、奇妙な扮装をした子供ばかりが列をなして歩いている。
皆楽しそうにしているし、通りに建ち並ぶ店も活気付いているから祭りなのかもしれない。
けれど一体、なんの祭りなのか。
「よお、ナルトじゃねえか」
馴染んだ声より少し高い呼び掛けに、恐る恐る振り返る。
そこには、かつては共に馬鹿をやっていたイノシカチョウトリオが2組、奇抜な格好をして並んでいた。
「……な、ななななななななななななんでぇーっ!? なんで、お前ら2人ずついんだってばよーっ!!」
「……うっせえなぁ。おい、ナルトよぉ。他人様を指差すんじゃねえ……」
「そうだよねえ。ナルトくんこそ、事あるごとに《多重影分身》だもんねえ」
最もな事を指摘されてナルトは疑問の1つを無視する事にする。
だが、加わった違和感については正直に口にした。
「……な、なあ、いの。シカマルもチョウジも、なーんかオッサン臭くね?」
「ははは。いのちゃんとオレはそんなに似てるかい、ナルトくん?」
「ちょっとナルトーっ!? なんでアタシとパパを間違えんのよアンタはーっ!」
やたらと嬉しそうにニコニコ笑顔で男言葉ないの(黒のゴスロリミニドレス)の隣で、内なるサクラばりに激昂している凄まじい表情のいの(紫の甘ロリミニドレス)。
2人の言葉を理解したナルトは、固まる。
「………………は?」
そんなナルトへ穏やかに微笑んでスナック菓子を食べているチョウジ×2(緑色と橙色の丸々としたカボチャ)。
彼らは見間違われても気にしないらしく、そのせいか余計に見分けられない。
「…………え?」
両極端な4人の間に並んで立ち、額を押さえていため息を吐くシカマル(継ぎ接ぎ人造人間)と、呆れと苦笑が半々の複雑な表情をしたシカマル(継ぎ接ぎ人造博士)。
はっきり言って顔形は双子かというくらい似ているのに、それぞれの表情や醸し出す雰囲気がまるで違う。
敢えて言うなら前者はどこか青臭く、後者はオッサン臭い。
「……はぇえええええええええええええええええええええーっ!!」
さっき窘められたにもかかわらず、びしっと指を突き付けた6人はイノシカチョウトリオ親子である。
なぜか全員、仮装している上に子供の姿だったけれど。
「ななななななななんでっ? なんで、子供っ!」
「あ? お前も知らねぇ……いや、そうか」
「あー、そう言えばこのお祭り、ナルトがいない時から始まったもんね」
「それにー、あの通達もナルトには行ってないでしょー?」
多分、ナルトと同期の方のイノシカチョウトリオが緩々と聞き捨てならない話しをしている。
「……な、なあなあっ! オレに通達されないって、一体どういうことだってばよっ?」
かつて自分にだけ知らされないまま、九尾と同一視され恐れられ迫害され続けた幼少時代を思い出してか、怒りと焦りで怒鳴りつける。
しかし詰問された6人は耳を塞ぎ、説明するのも面倒だという顔をしていた。
「あー、お前だけじゃねえ。通達があるのは中忍以上、あと一部の下忍だけだ」
「ナルトくんはまだ下忍だったよね?」
「自来也様と修業に出てて、中忍試験受けてないからねえ」
親世代イノシカチョウトリオに言われて、ナルトは忘れていた事を思い出した。
里抜けしたサスケと里を出て修業していたナルト以外の同期たちは皆、既に中忍に昇格している。
だが、それが通達されない理由とどう関係があるのかさっぱりだった。
「……なあ、シカクのおっちゃん。なんで下忍に通達こねえの?」
「中忍以上への通達はこの祭りへの強制参加でな、一部の下忍ってのはそいつらの代わりに任務を請け負う経験値高い奴らだ」
「まだ若い下忍には通常任務くらいしかさせられないからね」
「要するに通達が行かないのは新人ってことだよ」
つまり自分はアカデミー卒業したてと同じ扱いだと言われ、ナルトは盛大にヘコんだ。
誰にも言っていないが、同期の中で1人だけまだ下忍だというのは密かなコンプレックスになっている。
修業は有意義だったし、自分には必要な時間だったから後悔はしていないが、それでもやはり1人だけ置いてけぼりというのはなんだか淋しい。
今にも膝を抱えかねない落ち込みようのナルトを見兼ねてか、それとも気にしていないのか、話題を変えてくるのはシカマルだろう。
「……んなことより。ナルト、お前先生たち見かけなかったか?」
「……先生って、アスマ先生か? いんや、全然……」
第一、あのヒゲ面の大男が彼らと同じく子供の姿になっているなら、きっとナルトには誰だか分からない。
今だってイノシカチョウトリオ親子の区別が心許ないのだし。
「てゆーかっ! なんで皆して子供んなって、仮装なんかしてんだってばよっ!? そっから説明してくんねーと、オレってば全然分かんねえんだけどーっ?」
「……そっからかよ。めんどくせえ」
「簡単に言うと中忍以上は変化してー、そうじゃない人たちは仮装してお祭りに参加するんだよ」
「で、今年は全員自分の10歳の頃に変化してから仮装って、綱手様が決めたのよー」
「……ばあちゃんが?」
実際は50歳を越えているにもかかわらず、自在に見た目の年齢を変えて借金取りから逃げ回っていた現5代目火影。
その情けなくも強かな様を目にした事のあるナルトが、ちょっと遠い目になるのは仕方がない。
「オレらとしては、ガキの先生たちを一目見たくって探してるってワケだ」
めんどくさがりにしては珍しくやる気なシカマルの発言にナルトは首を傾げる。
「……あのさ、あのさー。先生たちだって子供の頃くらいあったろうし、わざわざ探してまで見たいもんかー?」
心底興味なさそうに尋ねるナルトに、やたら目をキラキラさせたいのが反論した。
「あったりまえでしょー! パパから聞いたんだけどー、子供のアスマ先生って超可愛かったらしいのよー! もう絶対、見ておきたいじゃないっ!」
「あとさー、カカシ先生とかー、イルカ先生も面白そうなんだよねー」
普段は食べ物以外に興味を示さないチョウジまで乗り気な事に、ナルトは更に首を捻る。
「は? カカシ先生と、イルカ先生も? なんで?」
「カカシ先生ってよ、昔はツンケンした嫌なガキだったって親父が言っててなあ……」
「イルカ先生もー、ナルトなんか足下に及ばないくらいのいたずらっ子だったらしいよー」
「ちょっ、なにそれっ! オレも見たい! ちょー見たいっ!」
恩師2人の意外な子供時代を聞いたナルトも俄然やる気をだす。
「だろ?」
「ああっ! カカシ先生はともかく、イルカ先生は絶対見てやるってばよー!」
誘導成功とばかりに口角を上げるシカマルに、ナルトはさっそく悪知恵を発揮する。
「……なあ。だったらよー、キバとかネジとか巻き込めねえ?」
「なるほどねえ、探索系か……。よし、二手に分かれるか。まず8班の奴らを仲間にするぞ……」
アカデミー時代へ戻った悪ガキの顔で作戦を立てるナルトとシカマル。
傍で2人を呆れ顔で眺めるいのと、微笑んで見守るチョウジというのもあの頃と変わらない。
「……ルートは把握したな? んじゃ、作戦決行だ」
「おうっ」
「おー」
「いっくわよー!」
それぞれの役割に散って行く子供たちを父親たち───約1名女装している───が、微笑ましく見守っていた。
[お題]
*10周年記念のお礼フリー短編として『新作でその他』
【了】
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2014/10/28
UP DATE:2014/10/31(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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