罪深き英雄

【4 君に歌が届くように】
   〜 罪深き英雄 〜
[愛を歌う5つのお題・サスナル編]


 
 ミニステリアーレ───不自由身分騎士を初めて目の当たりにした。
 あいつが来ると噂されたトーナメントで。

 あと1勝で栄誉───この場で最も高貴な観覧者の祝福を得られる試合。
 その相手が、不自由身分騎士だった。

 普通、戦時の員数合わせに諸侯が領内の不自由民に騎士の武装をさせて戦地へ送り出すのが不自由身分騎士だ。
 にも関わらず、そいつは飛び入りした遍歴の騎士然とした佇まいでトーナメントに参加している。
 しかも鎧から騎槍、跨った馬までも、なにもかもが黒ずくめだ。
 酷く目立つ上に、どこか不吉なものを感じる。

 不自由身分騎士でありながらトーナメントに出るということは、相当に強く、また有力な諸侯が後ろ盾にいるということだ。

「ヴァーゼル公爵ダンゾウ様所有のミニステリアーレ、サイ」

 声高にその騎士の名が告げられると、観覧席がざわめく。
 何しろ宮廷で唯一、皇帝に意見できるコンスタブル───大臣閣下の子飼いだ。
 無理もない。

「フェルト男爵カカシ卿がエデルクナーベ、サスケ」

 まだ騎士叙勲も受けていないエデルクナーベ───従騎士というだけでなく、俺自身の名にも騒然とする観覧席に、騎槍を掲げる。

 兜の隙間から覗き見た貴賓席に、あいつの姿はなかった。

 遥かな距離をおいて対峙する黒い騎馬を見据える。

 ミニステリアーレは勝ち続けている間は騎士でいられる。
 負ければ、それまで。
 元の不自由民に戻ることもできない。

 だが、こちらとて負けられないのは同じだ。
 《あいつに声が届く地位まで》、この騎槍だけが道標なのだから。



 【続く】 
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/08/24
UP DATE:2009/08/26(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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