罪深き英雄

【3 いつか忘れる日が来ても】
   〜 罪深き英雄 〜
[愛を歌う5つのお題・サスナル編]


 
 まだ2人とも子供で、あの修道施設にいた頃のだ。

 どこにでもある戦災孤児を集めた施設に、何故か訳あり貴族の子弟が思いの外多く預けられていた気がする。

 そのせいか、木の枝や木切れを武器に見たてた騎士の真似事が主な遊びだった。

 とは言っても、数的優位で貴族の子弟と取り巻きたちが、あいつを含めた一部の孤児や街の子供を一方的に痛めつけていただけだ。

 ただ、あいつは数人に囲まれて滅多打ちにされても、参ったと言ったことはない。

 その代わり。

「オレは、皇帝騎士になる!」

 だから、誰にも負けない。
 全員に、オレを認めさせる。

 そう言って、馬鹿の一つ覚えみたいに奴らに突進していく背中が強く印象に残っている。

 いや、あの頃一緒にいた奴らの顔も名前も、何一つ覚えていない。
 あいつだけを、覚えていた。
 
 今のあいつは先代皇帝の遺児で、高齢で子のいない現皇帝の皇太子に推される立場だ。

 俺はというと廃絶されたとはいえ元は筆頭皇家の出。
 帝位継承権は辛うじて60位くらいにあるが、事実上ただの騎士見習いに過ぎない。

───オレは皇帝騎士になる

 なんの後ろ盾もないまま、そう言い続けたあいつの気持ちが今なら解る。

 身一つで、自身を確立させる唯一の手段だ。

───俺は皇帝騎士になる

 《いつか全てを忘れる日が来ても》、あいつの言葉とあの背中はきっと、俺の中に生き続ける。

 【続く】 
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/08/23
UP DATE:2009/08/25(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
3/6ページ
スキ