罪深き英雄

【2 鏡が返す声は】
   〜 罪深き英雄 〜
[愛を歌う5つのお題・サスナル編]



 あいつが去ってしばらくしてから、俺も修道院の施設を出て皇都に戻った。
 とは言っても、迎えてくれる家族だけでなく、領地や屋敷もない。

 廃絶された家は俺が騎士となり、功労しだいで再興も許される。
 だが、なんの後ろ盾もなく、小姓として出仕する宛てすらなかった。

 なのに、なんの因果かあいつを連れて行ったあの銀髪の皇帝警護騎士が俺を拾った。

 以前、俺の傍流に恩義を受けたようなことを理由に。

 その騎士様は、シルバーリッターの銘を持ち、次期皇帝騎士と噂される人物だった。
 名は、カカシ。

 俺はそいつに朝から晩まで引っ付いて、お貴族様の立ち居振る舞いを見て学び、時々暇つぶしの乗馬という鍛錬に付き合わされた。
 それは有事に従騎士として主騎士に並んで戦場を駆ける訓練であり、カカシに仕える唯一の利点だ。

 毎夜、皇帝警護騎士様は諸侯から晩餐会や舞踏会に呼びつけられる。
 そのカカシに従っていれば、いつも部屋に戻れるのは朝方。

 今夜というか今朝も、眠れるのはわずかな時間だった。

 目覚めてすぐ、頭から水を被る勢いで顔を洗うのが習慣になっている。

 幾分すっきりした意識を向けた先。
 薄明かりの中では余計に映りの悪い古い鏡。
 あの時より、幾分大人びた自分の顔。

 あいつはどうしているか、なんて感慨は柄じゃない。

 分かっている。
 その為に、連れて行かれた。

 だからこそ、言ってやる。

「俺が、皇帝騎士になる」

 《鏡が返す声は》、懐かしい響きがした。

 【続く】 
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/08/23
UP DATE:2009/08/24(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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