罪深き英雄

【1 まるで酷いお伽話】
   〜 罪深き英雄 〜
[愛を歌う5つのお題・サスナル編]



 騎士は、憧れだった。

 貴族の子弟や子女に限らず、多くの子供たちにとって。
 戦場での勇猛な武勲。
 宮廷での豊かで華やかな生活。
 遍歴の騎士との一騎打ち。
 貴婦人との甘い恋の駆け引き。
 どれも旅芸人が街角で詠う物語には欠かせないものだ。

 特にもてはやされるのは、皇帝騎士の物語。

 武勇に優れ、家柄もよく、時には皇帝代理の権限すら与えられる帝国最強騎士の称号。

 初めて会った日、あいつは言った。

「オレは皇帝騎士になる!」

 風に金の髪をそよがせ、空色の瞳を輝かせて。
 戦災孤児では騎士どころか、小姓にもなれないと嘲笑する奴らを逆に笑い飛ばす。

「オレが帝国最強の騎士だって、認めさせればいいだけだってばよ」

 そう告げるあいつの笑顔は、眩しかった。

 一族をたった1人の騎士に滅ぼされた俺に、騎士になるのも悪くないと思わせる程に。

 だが、それから年が経った、あの日。

 俺たちの前に、銀髪の騎士が跪いた。

「お迎えにあがりました」

 3代目皇帝が崩御されたばかりの頃だったせいで、思い違いをした。
 きっと5代目皇帝の恩赦で皇帝警護騎士が俺を迎えに来た、と。

 けれど、銀髪の皇帝警護騎士が懐かしげに呼んだのは、俺の名前じゃなかった。

「ナルト殿下」

 《まるで、酷いお伽話》だ。
 あいつが、次期皇帝かもしれないなんて。



 【続く】 
‡蛙女屋蛙姑。@ iscreamman‡
WRITE:2009/08/23
UP DATE:2009/08/23(mobile)
RE UP DATE:2024/08/19
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