青く深き王国
【9 今は亡き王国の詩】
~ Deep Blue ~
[青く深き王国]
明けたばかりの夜が舞い戻ってきたかのような暗い空が広がっていく。
その中心に渦巻く水流は、かつて居たであろう古代の巨大な生き物が長大な首をもたげた姿に見えた。
「イルカ先生っ、マナ姉ちゃーんっ!!」
崩れた社と共に《力》の具現化した水流の獣が出現した湖へ落下した2人の名を叫び、ナルトが後を追おうとする。
だが、緩やかに波打つ髪をしたくのいちが行く手を阻み、サスケとカカシも対峙するくのいちを相手にするだけで手一杯な為に助けには行けない。
茫然と天空を見上げるサクラ1人だけでは、2人を救う術はなかった。
身動きの取れない木ノ葉隠れの忍を嘲笑う、霧隠れの忍と行動を共にしていた壮年の商人然とした男の耳障りな声が響く。
「ついに手に入れた! 我が父にも、王ですら御せなかった《力》を!!」
崩れかけた崖の縁という危うい場所に立ちながら、勝ち誇って両腕を天にかざして男は高らかに宣言する。
「この《力》を手にした私こそ、このアウムこそが、世界の王だ!」
商人の衣服を脱ぎ捨てた男は霧隠れの忍に似た装束を纏っていた。
この男───アウムはかつて礁の国を滅亡へと追いやった者と関係があるらしい。
事件の後は水の国に渡って霧隠れの里へ身を寄せ、そこで忍となったのだろう。
ずっと、父親が果たせなかった野望を胸に抱いて。
「させない、そんなことはっ」
カカシは決意に満ちた声を上げるが、先程イルカを斬った手筋を見れば、アウム1人でも難敵だ。
とにかく目の前のくのいち3人をまず排除しなければ、この男とは戦うこともできない。
「サスケ、ナルト、サクラ!」
足にチャクラを一気に集めつつ、カカシは部下へ指示する。
「くのいち2人は、任せる」
そう告げて、肉体活性の突進力を利用して直刀を振りかざすくのいちを崖の際まで押しやった。
さすがに相手もやるもので、女と言えども崖から突き落とすまではいかない。
それどころか間合いをとると陰惨な笑みを浮かべ、直刀を構え直して名乗る。
「写輪眼のカカシならば、この水神3姉妹が長女罔象(ミズハ)の相手に不足はない! 行くぞ!」
大きく引いた右腕の背後へ逆手に握った直刀を潜ませる独特の構えで罔象(ミズハ)がカカシに襲いかかった。
両手に握った2本のクナイで受け流そうとしたカカシの目に、くのいちの背後で鞭のように刃がしなるのが見える。
幻なのか、仕込みなのか、そこまでは見極められないまま、対峙する者を惑わせるミズハの刀術がカカシに迫った。
しかし、写輪眼には通用しない。
「見えてるんだよねー」
右手に握っていたはずの刀を左手で繰り出す罔象(ミズハ)の刃を、カカシは両手のクナイを交差させて受け止めていた。
そのまま左右に腕を勢いよく引き、受けた刃を断ち折ろうと試みる。
すると罔象(ミズハ)は背後が崖であるにも関わらず、迷いなく身を引いた。
足場のない場所に出た彼女の身体は当然、落下していく。
だが素早く組まれた印は足下に広がる水を操る術だ。
《水遁・水雲》
罔象(ミズハ)の足元を渦巻く水煙が支え、空中を自在に駆け巡りだす。
その速さは肉体活性による突撃と遜色なく、くのいちは再び背後にうねる刃を隠してカカシの周囲を巡った。
時々、不意をついて浅く傷を刻み、木ノ葉隠れの高名な業師をいたぶっていく。
そんな師の様子を目の端に見せつけられながら、ナルトらもまた霧隠れのくのいち2人に追い詰められつつあった。
カカシに任されて3人で対峙したものの、突っ走るナルトやサスケと慎重派なサクラとでは肝心のチームワークが噛み合わず、動きの一々がもたつく。
「どうした、木ノ葉の忍ども」
「洞窟での威勢はどうした?」
逆に高霎(タカオ)と闇霎(クラオ)は2人であってもまるで1人であるかのようなタイミングで、刀術と水遁を織り交ぜた連携攻撃をしかけてきた。
それが彼女たち双子ならではの呼吸なのか、長年の訓練で培ったものかは分からないが、3人にとっては脅威である。
サスケやナルトと背を預けあい、剣舞でも舞うように回転しながら入れ替わって攻撃してくる2人のくのいちの動きをサクラは必死で観察した。
回転の遠心力で刃の鋭さを増しているだけでなく、ギリギリで刃を交わしたつもりでいると思いも寄らぬ方向から蹴りや暗器が襲いかかってくる。
そんな攻撃を3人が辛うじて交わしていられるのはサスケの目、写輪眼のおかげだ。
しかし全ての方向をカバーできるわけではなく、サスケの警告に反応したと同時に攻撃を受けていることもある。
少しずつではあるが、3人は文字通り削られていた。
このままではいけない。
なんとか打破しなければ。
サクラは必死に探し出そうとしていた。
たった2人に囲まれ、言いようにいたぶられているこの状況の打開策を。
「サスケくん、ナルト、聞いて」
とびきりの妙案ではないが、とっさに閃いた思いつきにサクラは賭けた。
小声で2人に役割を振り、自らをも策に組み込む。
《多重影分身の術》
3人を覆い隠す煙の中から、いつものように大量発生したナルトが闇霎(クラオ)と高霎(タカオ)の刃を食い止め、その隙にサスケとサクラは身を翻して崖っぷちへと走り出した。
「逃がすものかっ!!」
高霎(タカオ)が間近の影分身を一薙ぎで数体消し去ると、クラオが印を組み逃げる2人の背後から襲いかかった。
《水遁・水流鞭》
水流の鞭が唸り、サスケとサクラの背を強かに打つ。
途端に煙があがり、2人の姿が掻き消えた。
「なんだとっ!?」
「分身なのかっ!?」
周囲を見渡しても、ナルトばかりが数十人いるだけ。
タカオが苛立ち紛れに刀を振るうも、影分身も黙って撫で斬りにされるはずもなく一斉に手裏剣やクナイを放った。
無数に襲い来る刃に、くのいち2人は両手に握った刀と回転蹴りで辺り一帯を一気に薙払おうと踏み出す、が。
「ぎぃあぁーっ!?」
「あ、足がっ!! 足がぁっ!」
2人の軸足にワイヤーが巻きつき、自身の回転の勢いで半ば断裂されていた。
同時にナルトの影分身は一斉に消え失せ、紛れて変化していたサスケとサクラも姿を表す。
回転しての攻撃は確かに脅威だったが、日向ネジの回天と違って軸足などは無防備に見えた。
それに気付いたサクラの考えで、ナルトの影分身と大量の手裏剣やクナイを目くらましにし、サスケが写輪眼で動きを見切ってワイヤーを巻きつけたのだ。
「……おのれっ」
痛みと悔しさに美しい顔を歪めて睨みつけてきる2人の腕をサスケとナルトが拘束し、足の傷はサクラが応急処置をした。
彼らにはまだ、敵とはいえ人に留めを刺す覚悟はない。
同じ頃、カカシと罔象(ミズハ)の戦いも終焉を迎えようとしていた。
水雲を両足に履いて自在に空中を駆ける罔象(ミズハ)が振るう不規則な太刀筋は大きなダメージではないものの、カカシに多くの傷を負わせている。
名高い写輪眼のカカシを追い込んでいる愉悦にミズハは真っ直ぐに突っ込み、勝負を決する一撃を加えた。
その瞬間、両断したカカシの肉体が水柱となって砕け散る。
「水分身だとっ!?」
気付いた罔象(ミズハ)が周囲に視線を巡らせて、姿を消したカカシを探そうとした。
けれど、既に終わっている。
《雷切》
コピーした水雲の術を履いたカカシの雷をまとった右腕が、罔象(ミズハ)の背後から胸の中央を貫いて。
断末魔の叫びもなく、霧の水神3姉妹罔象(ミズハ)の命は。
事切れたくのいちから抜いた腕を一振りして血を払い落としたカカシは、一部始終を見ていただけの男───アウムへと足を向ける。
「これで、お前1人」
ここへ来る前にカカシは騒がしい下忍たちの追跡を隠れ蓑に、忍犬たちを使って潜んでいた霧隠れの忍を全て始末し、後顧の憂いを断っていた。
「さて、どうする? 船も沈めさせて貰ったし、逃げ場はないよ?」
「構うものか」
だがアウムは憤るどころか逆に、煩わしい荷を下ろしたかのように晴れ晴れと言ってのける。
「霧隠れの忍など、私がこの《力》を得る為の道具に過ぎない」
その言葉に忍として生きるカカシは不快感もあらわに眉をしかめ、サスケも苦々しく表情を歪めた。
サクラは悲しみをこらえて歯噛みし、ナルトは悔しさを隠すことなく強く拳を握り締める。
そして、拘束されたままの霧隠れのくのいち姉妹、高霎(タカオ)と闇霎(クラオ)は悲痛な声で吠えた。
「貴様っ、里に拾われた身でっ!」
「我らを、里を利用したのかっ!?」
周囲に散らばるクナイの刃に身を擦り付けて縄を切り、姉妹と互いに支え合って立ち上がると足を引きずる不格好な姿でアウムへ向かって行く。
「駄目、動いたらっ」
サクラの制止など耳に入るはずもなく、姉の屍をも越えて刃向かってくる2人。
アウムはただ冷笑を浴びせる。
「お前たち忍は国の武器でしかない! つまり、お前たちは道具! それが忍だ!!」
アウムは天にかざしていた腕を赤く染まった球状の石に押し当て、古い言葉を唄うように唱えた。
「《深い青、暗い海の中の根源よ》」
旋律に合わせ、石が脈動している。
「《太陽の足を切り、我らに大地を……》」
その言葉が終わらぬうちに、天を貫くまでに立ち上がっていた水柱が長大な身をくねらせて襲いかかってくる。
まず、自らの封印を解いた者を目掛けて。
それはかつて礁の国が滅びた夜が、まるで繰り返されているかのように。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/04/28~2012/06/27
UP DATE:2012/07/14(mobile)
RE UP DATE:2024/08/09
~ Deep Blue ~
[青く深き王国]
明けたばかりの夜が舞い戻ってきたかのような暗い空が広がっていく。
その中心に渦巻く水流は、かつて居たであろう古代の巨大な生き物が長大な首をもたげた姿に見えた。
「イルカ先生っ、マナ姉ちゃーんっ!!」
崩れた社と共に《力》の具現化した水流の獣が出現した湖へ落下した2人の名を叫び、ナルトが後を追おうとする。
だが、緩やかに波打つ髪をしたくのいちが行く手を阻み、サスケとカカシも対峙するくのいちを相手にするだけで手一杯な為に助けには行けない。
茫然と天空を見上げるサクラ1人だけでは、2人を救う術はなかった。
身動きの取れない木ノ葉隠れの忍を嘲笑う、霧隠れの忍と行動を共にしていた壮年の商人然とした男の耳障りな声が響く。
「ついに手に入れた! 我が父にも、王ですら御せなかった《力》を!!」
崩れかけた崖の縁という危うい場所に立ちながら、勝ち誇って両腕を天にかざして男は高らかに宣言する。
「この《力》を手にした私こそ、このアウムこそが、世界の王だ!」
商人の衣服を脱ぎ捨てた男は霧隠れの忍に似た装束を纏っていた。
この男───アウムはかつて礁の国を滅亡へと追いやった者と関係があるらしい。
事件の後は水の国に渡って霧隠れの里へ身を寄せ、そこで忍となったのだろう。
ずっと、父親が果たせなかった野望を胸に抱いて。
「させない、そんなことはっ」
カカシは決意に満ちた声を上げるが、先程イルカを斬った手筋を見れば、アウム1人でも難敵だ。
とにかく目の前のくのいち3人をまず排除しなければ、この男とは戦うこともできない。
「サスケ、ナルト、サクラ!」
足にチャクラを一気に集めつつ、カカシは部下へ指示する。
「くのいち2人は、任せる」
そう告げて、肉体活性の突進力を利用して直刀を振りかざすくのいちを崖の際まで押しやった。
さすがに相手もやるもので、女と言えども崖から突き落とすまではいかない。
それどころか間合いをとると陰惨な笑みを浮かべ、直刀を構え直して名乗る。
「写輪眼のカカシならば、この水神3姉妹が長女罔象(ミズハ)の相手に不足はない! 行くぞ!」
大きく引いた右腕の背後へ逆手に握った直刀を潜ませる独特の構えで罔象(ミズハ)がカカシに襲いかかった。
両手に握った2本のクナイで受け流そうとしたカカシの目に、くのいちの背後で鞭のように刃がしなるのが見える。
幻なのか、仕込みなのか、そこまでは見極められないまま、対峙する者を惑わせるミズハの刀術がカカシに迫った。
しかし、写輪眼には通用しない。
「見えてるんだよねー」
右手に握っていたはずの刀を左手で繰り出す罔象(ミズハ)の刃を、カカシは両手のクナイを交差させて受け止めていた。
そのまま左右に腕を勢いよく引き、受けた刃を断ち折ろうと試みる。
すると罔象(ミズハ)は背後が崖であるにも関わらず、迷いなく身を引いた。
足場のない場所に出た彼女の身体は当然、落下していく。
だが素早く組まれた印は足下に広がる水を操る術だ。
《水遁・水雲》
罔象(ミズハ)の足元を渦巻く水煙が支え、空中を自在に駆け巡りだす。
その速さは肉体活性による突撃と遜色なく、くのいちは再び背後にうねる刃を隠してカカシの周囲を巡った。
時々、不意をついて浅く傷を刻み、木ノ葉隠れの高名な業師をいたぶっていく。
そんな師の様子を目の端に見せつけられながら、ナルトらもまた霧隠れのくのいち2人に追い詰められつつあった。
カカシに任されて3人で対峙したものの、突っ走るナルトやサスケと慎重派なサクラとでは肝心のチームワークが噛み合わず、動きの一々がもたつく。
「どうした、木ノ葉の忍ども」
「洞窟での威勢はどうした?」
逆に高霎(タカオ)と闇霎(クラオ)は2人であってもまるで1人であるかのようなタイミングで、刀術と水遁を織り交ぜた連携攻撃をしかけてきた。
それが彼女たち双子ならではの呼吸なのか、長年の訓練で培ったものかは分からないが、3人にとっては脅威である。
サスケやナルトと背を預けあい、剣舞でも舞うように回転しながら入れ替わって攻撃してくる2人のくのいちの動きをサクラは必死で観察した。
回転の遠心力で刃の鋭さを増しているだけでなく、ギリギリで刃を交わしたつもりでいると思いも寄らぬ方向から蹴りや暗器が襲いかかってくる。
そんな攻撃を3人が辛うじて交わしていられるのはサスケの目、写輪眼のおかげだ。
しかし全ての方向をカバーできるわけではなく、サスケの警告に反応したと同時に攻撃を受けていることもある。
少しずつではあるが、3人は文字通り削られていた。
このままではいけない。
なんとか打破しなければ。
サクラは必死に探し出そうとしていた。
たった2人に囲まれ、言いようにいたぶられているこの状況の打開策を。
「サスケくん、ナルト、聞いて」
とびきりの妙案ではないが、とっさに閃いた思いつきにサクラは賭けた。
小声で2人に役割を振り、自らをも策に組み込む。
《多重影分身の術》
3人を覆い隠す煙の中から、いつものように大量発生したナルトが闇霎(クラオ)と高霎(タカオ)の刃を食い止め、その隙にサスケとサクラは身を翻して崖っぷちへと走り出した。
「逃がすものかっ!!」
高霎(タカオ)が間近の影分身を一薙ぎで数体消し去ると、クラオが印を組み逃げる2人の背後から襲いかかった。
《水遁・水流鞭》
水流の鞭が唸り、サスケとサクラの背を強かに打つ。
途端に煙があがり、2人の姿が掻き消えた。
「なんだとっ!?」
「分身なのかっ!?」
周囲を見渡しても、ナルトばかりが数十人いるだけ。
タカオが苛立ち紛れに刀を振るうも、影分身も黙って撫で斬りにされるはずもなく一斉に手裏剣やクナイを放った。
無数に襲い来る刃に、くのいち2人は両手に握った刀と回転蹴りで辺り一帯を一気に薙払おうと踏み出す、が。
「ぎぃあぁーっ!?」
「あ、足がっ!! 足がぁっ!」
2人の軸足にワイヤーが巻きつき、自身の回転の勢いで半ば断裂されていた。
同時にナルトの影分身は一斉に消え失せ、紛れて変化していたサスケとサクラも姿を表す。
回転しての攻撃は確かに脅威だったが、日向ネジの回天と違って軸足などは無防備に見えた。
それに気付いたサクラの考えで、ナルトの影分身と大量の手裏剣やクナイを目くらましにし、サスケが写輪眼で動きを見切ってワイヤーを巻きつけたのだ。
「……おのれっ」
痛みと悔しさに美しい顔を歪めて睨みつけてきる2人の腕をサスケとナルトが拘束し、足の傷はサクラが応急処置をした。
彼らにはまだ、敵とはいえ人に留めを刺す覚悟はない。
同じ頃、カカシと罔象(ミズハ)の戦いも終焉を迎えようとしていた。
水雲を両足に履いて自在に空中を駆ける罔象(ミズハ)が振るう不規則な太刀筋は大きなダメージではないものの、カカシに多くの傷を負わせている。
名高い写輪眼のカカシを追い込んでいる愉悦にミズハは真っ直ぐに突っ込み、勝負を決する一撃を加えた。
その瞬間、両断したカカシの肉体が水柱となって砕け散る。
「水分身だとっ!?」
気付いた罔象(ミズハ)が周囲に視線を巡らせて、姿を消したカカシを探そうとした。
けれど、既に終わっている。
《雷切》
コピーした水雲の術を履いたカカシの雷をまとった右腕が、罔象(ミズハ)の背後から胸の中央を貫いて。
断末魔の叫びもなく、霧の水神3姉妹罔象(ミズハ)の命は。
事切れたくのいちから抜いた腕を一振りして血を払い落としたカカシは、一部始終を見ていただけの男───アウムへと足を向ける。
「これで、お前1人」
ここへ来る前にカカシは騒がしい下忍たちの追跡を隠れ蓑に、忍犬たちを使って潜んでいた霧隠れの忍を全て始末し、後顧の憂いを断っていた。
「さて、どうする? 船も沈めさせて貰ったし、逃げ場はないよ?」
「構うものか」
だがアウムは憤るどころか逆に、煩わしい荷を下ろしたかのように晴れ晴れと言ってのける。
「霧隠れの忍など、私がこの《力》を得る為の道具に過ぎない」
その言葉に忍として生きるカカシは不快感もあらわに眉をしかめ、サスケも苦々しく表情を歪めた。
サクラは悲しみをこらえて歯噛みし、ナルトは悔しさを隠すことなく強く拳を握り締める。
そして、拘束されたままの霧隠れのくのいち姉妹、高霎(タカオ)と闇霎(クラオ)は悲痛な声で吠えた。
「貴様っ、里に拾われた身でっ!」
「我らを、里を利用したのかっ!?」
周囲に散らばるクナイの刃に身を擦り付けて縄を切り、姉妹と互いに支え合って立ち上がると足を引きずる不格好な姿でアウムへ向かって行く。
「駄目、動いたらっ」
サクラの制止など耳に入るはずもなく、姉の屍をも越えて刃向かってくる2人。
アウムはただ冷笑を浴びせる。
「お前たち忍は国の武器でしかない! つまり、お前たちは道具! それが忍だ!!」
アウムは天にかざしていた腕を赤く染まった球状の石に押し当て、古い言葉を唄うように唱えた。
「《深い青、暗い海の中の根源よ》」
旋律に合わせ、石が脈動している。
「《太陽の足を切り、我らに大地を……》」
その言葉が終わらぬうちに、天を貫くまでに立ち上がっていた水柱が長大な身をくねらせて襲いかかってくる。
まず、自らの封印を解いた者を目掛けて。
それはかつて礁の国が滅びた夜が、まるで繰り返されているかのように。
【続く】
‡蛙女屋蛙姑。@iscreamman‡
WRITE:2006/04/28~2012/06/27
UP DATE:2012/07/14(mobile)
RE UP DATE:2024/08/09