___夢子、頼みがある。

＿＿夢子、君を見込んで頼みがある。



人に頼られることは誇ることのできるものだと思っていた。

けど、そうではなかった？彼らは、弟は、友人は、両親は、同居人は。私を見ていなかったのではないか。

そんなことで悩む私は、きっと贅沢者の大馬鹿者だと呆れられてしまうかもしれない。

でも、この思いが消えないくて。

この世界にきたのも、私は望まれたのでも導かれたのでもなく誰かに頼み事をされたからだった気がする。



＃



目を開けると、木漏れ日が当たった。

どうやら、中庭の木の下でうたた寝していたようだ。　　……いや？

「ここ、どこ？」

見渡す限り、緑、緑、緑。そこは森の中のようだった。

まさか、記憶喪失を疑ってみるも家族構成から学籍番号、昨日すれ違った女性が履いていたパンプスの色まで思いだされるあたりそういった類いのものではないようだ。


通い慣れた校舎の代わりに、夢子の目前には大きな森が広がっていた。

木々のざわめきや清らかな小鳥の歌声も、混乱の渦中にいる夢子の耳には届かない。

ただ呆然と、この悪夢が覚める瞬間を待つほかなかった。



＃



「ナイトメア様！　さあ、こちらの書類にも目を通してください。

大丈夫、あなたはやれば出来る子です」

クローバーの塔の一室、クローバーの国の領主の執務室ではいつもの光景が繰り広げられていた。

デスクに座る、青白い顔にかかる眼帯をした美形の男。

この男がクローバーの塔の主であり、クローバーの国の領主である夢魔　ナイトメア＝ゴットシャルク。

そして、上司である夢魔に仕事の催促をしているようでもはや監督している青みがかった短い黒髪に黄水晶の瞳をもつ長身の男。

夢魔の補佐官であり、元暗殺者のトカゲ　グレイ＝リングマーク。

「いやだ！もう2時間帯もぶっ続けじゃないか！もういい加減疲れたぞ！休憩を要求する！！」

「何をおっしゃるんです、ナイトメア様。あなたが夢の中に引きこもったりするから仕事がこうやって山積みになってしまうんです。ここにある仕事を片付けていただかないと困るんですっ本当に！！」

「ぐっ…げほっ……ごほごほっっ。ううっ、仕事をしすぎて吐血しそうだ。」

「ナイトメア様。今、薬をお持ちします。それを飲んでじゃんじゃん仕事をこなしてください。」

「ひ、ひどい。ひどすぎるぞグレイ！！おまえは上司をなんだと思っているんだ！私は偉大な上司で………」

「……ナイトメア様？どうされました？」

「グレイ、珍しいことに2人目の余所者が来たらしい。」

「それは、本当ですか？ナイトメア様。俺はまだ1人目の余所者とも直接は合っていないのですが。」

「ああ、まだ引っ越しをしてから2時間帯もたっていないからな。もしかすると別の国の余所者が引っ越しに紛れて飛ばされたのかもしれない。

グレイ、迎えに行ってやってくれ。どうやら森との境目で迷っているらしい。」

「かしこまりました。ナイトメア様」