動き出した歯車
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『昨日は別の場所から花火を見てたんだけど、とっても綺麗で良かったね? それで……キスはしたの?』
週末の正午、柳邸に遊びに来ていた◯◯は、紅茶をこぼしそうになっている彼女を微笑ましく見つめた。
「キ、キ、キスなんて、そんな事できるわけないよ! 手を繋いだのがやっとなのに……っ」
『あら、手は繋いだのね』
「ああっ! ち、違うの、今のは忘れて!」
柳はこれ以上ないほど顔を赤くし、◯◯はくすくすと笑いながらクッキーを口に運んだ。
今日の柳はとてもかわいい。次はどちらから手に触れたのか尋ねようとしたが、それよりも先に柳が口を開いた。
「私達のことより! ◯◯ちゃんは水鏡先輩とどうなの?」
『え? 水鏡くん?』
どうして急に彼の名前が出るのか、◯◯はきょとんとした。
「え……、◯◯ちゃんは水鏡先輩の事、なんとも思ってないの?」
柳にとって彼はひとつ上の先輩であるが、◯◯にとってはひとつ下の後輩である。
年齢よりも大人びていて話が合う良き友人であり、小生意気な後輩でもあると告げると、柳は分かりやすく固まった。
そんなに意外だっただろうかと、◯◯は小首を傾げて見せる。
「そ、そう……なんだ。二人とも仲良いし、ときどき一緒に帰ったりもするでしょう? だからもうお互いに想い合ってるのかと……」
『うーん……仲は良いと思うけど、それは風子や土門くんも同じよ? 帰りは遅くなると危ないからって送ってくれるけど、心配性なだけじゃないかな?』
「それだけじゃないよ! 水鏡先輩が優しく笑うのは◯◯ちゃんにだけなんだよ? 少なくとも先輩にとって◯◯ちゃんは絶対に特別だと思う!」
これだけは譲らないとばかりに柳は身を乗り出し、◯◯は困ったように眉尻を下げた。
そして少し考えたあと、左手を柳に見せる事にした。
『実は私のこの指輪はね、恋人から貰ったの』
「へぇ~、とってもキレイ! ……って、ええ!? 恋人!?」
『そう、今は事情があって会えないけれど、私の大切な人よ』
あまりの衝撃に柳の口はあんぐりと開き、◯◯は再びくすくすと笑う。
すると玄関の呼び鈴が鳴ったので、柳は我に返った。
動揺を隠せないまま部屋を出て行く彼女を見送り、◯◯は紅茶をひと口頂くと、改めて左手の薬指を見つめた。
これまで指輪について聞かれても、御守りのようなものだと誤魔化してきた。そうでなくともファッションの一部か男除けのアクセサリー程度にしか思われていなかっただろう。
柳ちゃん、驚いてたな……
あとどれだけ、真実を話せるだろう
銀色に煌めくそれをなぞるようにして優しく触れる。
そして、あとどれだけ
みんなと一緒にいられるのだろう