裏武闘殺陣
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◯◯は廊下を進みながら眉を寄せた。
――父は、何かを隠している
怯えていただけのあの頃とは違う。自信と余裕が見える。私を野放しにできるくらいには。
私の爆弾はフェイク……?
いや、そんなはずはない。母の爆弾は確かに私が持っている。元よりそちらの方が私を利用しやすく、紅麗もより強固に従わせられるはずだ。そして私の身体を感知できる斬骨鬼が、心臓にある器具を認識している。
あの男が二人を解放するなんて事は、最初からうまくいかないと予測はしていた。
紅麗は絶対に森光蘭を許さない。そして、許されないと知っているあの男も本当は紅麗を殺したいのだろう。私という人質を振りかざし、紅麗をひれ伏せて。
「知れば絶望だろう? だからこれも私の慈悲なのだよ! 今は治癒の少女を手に入れるために精神を乱されては困るからな!」
奥歯を噛み締め、爪が食い込むほど拳を握り締めた。吐き気がする程の憎悪が溢れて、冷静さを保てない。
――そう、だから、私が殺すの
あの男を、森光蘭を
私が討ち取る
この命にかえても
額に手を当て、大きく息を吸い、心を落ち着かせようとした時だった。真後ろでカツンと足音が鳴り、肩を揺らす。
だが振り返るより先に誰だか分かってしまった。
今は、会いたくなかったのに
『紅麗……』
薄暗い廊下で黒衣を纏わせた彼がひとり、仮面は無く、その顔は無表情。
◯◯は思わずその気配に後ずさる。
以前もこれほど見上げていただろうか。あまりの圧迫感に萎縮してしまう。戦う事を知らなかった過去の自分では、最恐と謳われた彼の力を真に理解していなかったのだと感じた。
『あ……もう、怪我は……』
最後に見た彼は会話もできない程ひどい状態であったが、その後遺症は微塵も感じられない。
「森光蘭と面会したようだな」
怪我については答えず、まるで咎めるように紅麗は口を開いた。
「何を話した」
昔のように甘やかな雰囲気は一切無く、◯◯は決まり悪く視線を逸らす。
『……今は、自由にしていいと』
それなりに自信が持てるまで身体を鍛えてきたはずなのに、息苦しさからもう一歩後退すると、紅麗の纏う空気がほんの少しだけ和らいだ。緊張している私を気遣ったのかもしれない。
「何もされていないのならいい。無事ならそれで……」
胸がつきんと痛み、後ろめたさが急に押し寄せる。
そうしている間に、空いた距離を埋めた紅麗が頬に触れようと手を伸ばしたが、◯◯は反射的に顔を背けた。
彼を拒絶したい訳ではなかったが、そう思われても仕方のない反応だった。むしろ、そうした方が良いのかもしれない。これからのためにも、私達が馴れ合ってこの先いい事なんてあるだろうか。
『もう……以前のように戻れない』
3年前のあの日
森光蘭に心臓を繋がれてから
戻る事はできないのだ
『私を忘れて、紅麗』
無表情だった紅麗の瞳がわずかに揺れる。
「なに、を……」
『甘い夢を語り合い、お互いに依存していても、もう苦しいだけ』
紅麗の目が大きく見開かれるのを、胸が引きちぎれる思いで見つめる。
だけど、あの頃のように守られてばかりのお姫様には戻れない
戻りたくない
『全部、終わらせたいの。だから、……私を忘れて』
◯◯はそれだけを告げると、返事を待つ事なく急足でその場から離れた。
これでいい、と必死に頭の中で言い聞かせながら、こぼれ落ちそうになる涙を耐えて走り続けた。