崩壊
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「先程の話を詳しく聞こう」
人払いをして、密室で二人きりになると早々に話は切り出された。
『お母様の心臓にある楔を、私に下さい』
「……ほお、それで? お前が私のものになる代わりに、二人を開放しろとでも?」
『そうです』
「月乃はいいだろう。だが紅麗は私にとって諸刃の剣でもあるが、それでも奴が最強の戦士。そう簡単に手放してはやれない」
交渉に手慣れている森はさっそく異を唱えるが、それも想定内だったため◯◯の次の言葉は決まっていた。
『最近、眠れていないようですね?』
「……っ!」
分かりやすく狼狽えた父にほくそ笑む。
紅麗にいつ殺されてもおかしくないと感じ始めていた森は、起爆装置をお守りのように常に持ち歩き、ベットの中でも握りしめ怯えながら夜を過ごしていた。
『紅麗と同等、もしくはそれ以上の戦士を見つければ良いではないですか。お父様にはそれだけのお金と権力があります』
「……そしてお前を人質として握っていれば、易々と手出しもされぬという事か」
『そうです。それにお父様は、私と紅麗が一緒にいる事を望まれないのでしょう? であれば代役を見つけ早々に引き払うのが一番のはずです』
力で周りを平伏してきた森にとって紅麗の才力は必要不可欠。だがそれも日を追うごとに己への脅威となっている。
『お母様の楔を……私に下さいますね?』
口角を歪めた森の表情により、交渉は成立したと◯◯は感じた。
人質が私に変わるだけで、この男は何も変わらないと思っているのだろう。母のように私が大人しくしてると思ったら大間違いだ。
もし、私を盾に紅麗に牙を向けたら、そのときは私が、この男を――
(紅麗……勝手をしてごめんね……)
***
あの日から、数週間が経った。
紅麗と◯◯は完全に隔離された館内で過ごし、すれ違う事すら許されない厳しい監視下での生活を強いられた。
◯◯は徹底して人払いされた場所で森光蘭と面会する事が多くなり、そしてある境から、自室のベッドで過ごす事が多くなった。
音遠はそれがとても心配だった。
「◯◯様……どこかお加減が?」
胸の辺りを押さえる仕草が増えた彼女に尋ねても、首を横に振り、無気力な表情で外を眺めるだけ。
「今日はとてもお天気がよろしいですね」
『……そうね。でも、今日も部屋でゆっくりしてるわ』
以前は毎日のように庭の花を愛でていたのに。
音遠はベッド脇に跪き、声を潜める。
「私や雷覇も手を尽くしてはおりますが、今は厳重に監視されており……紅麗様とは落ち着くまでもう少し――」
『いいのよ、もう……紅麗のことは』
その言葉に音遠はいよいよ表情を崩し、唇を噛む。
「あの日、森様と何を話されたのですか? 差し出がましい事は承知ですが、皆が心配しております。どうか私達に話して下さい。何か力になれる事があれば……っ」
彼女が森光蘭に敵意を向けたあの日から何かが狂い出している。嫌な予感がしてたまらないのだ。
『充分だよ。音遠や雷覇には……もう充分、力になってもらってる』
ありがとう、と最後に小さく呟いて、ベッドに横になってしまった。
静かに退室した音遠は、外で待機していた雷覇と目を合わせる。
「ダメだ、何も話してはくれない。やはり紅麗様でないと……」
「紅麗様はまだ牢から出ておられない。この事は◯◯様には……」
「言えるわけがない。ただでさえ心を痛めておられるというのに、これ以上……」
一抹の光さえ当たらない牢獄で、紅麗は手枷を後ろ手に固定され、食事もなく数日が経過していた。
それを知ってか知らぬか、◯◯は不自然なほど紅麗の様子について一切触れなかった。