崩壊
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――ドシャッッ!!
鈍い音が鳴り響く。
「なぁ紅麗、昔お前に言わなかったか? 貴様は機械だと……愛など不要と! 感情を捨てろと言ったよなァァァァ!!」
今までの比ではない。
森光蘭は今まさに殺す勢いで紅麗に暴力を振り続けた。失血死してもおかしくないほど、地面にはおびただしい血が撒き散らされ、紅麗はその中でなんとか呼吸をしている状態だった。
『おやめ下さい! お父様!』
「いつからだ? いつからお前達は……っ! おのれ許さんぞ紅麗! 答えよ紅麗ィ!!」
『お父様!!』
一番恐れていた事が起きてしまった。森が密かに雇っていた回し者によって、紅麗と◯◯の親密な関係がバレてしまったのだ。
今回ばかりは◯◯の制止もきかず森は暴走した。
◯◯は無理やり二人の間に割り入り、今まで向けた事のなかった敵意を父に向ける。
こちらとて、可愛い娘のフリは我慢の限界であると――
紅麗はかばい立つ彼女を即座に突き飛ばした。
◯◯は横に倒れたが、すぐに音遠が駆け寄り肩を抱いた。
「何を言おうと思えば……感情などすでに消え失せている。この女ともなんの関係もない」
その言葉に涙が滲んだのは、守られていると理解したからだ。
音遠も耐えるよう◯◯を抱きしめる。
「お前が初めて笑顔を見せた◯◯が無関係だと? 苦しい言い訳だな紅麗ィ。例え一時の気の迷いであろうとも、これだけは許さぬ……っ。飼い犬の分際でよくも! 月乃に仕掛けた爆弾の事は忘れていまい!? 貴様は一番手を出してはならぬものに触れたのだ!! 覚悟しろ紅麗ィィ!!」
勢いのままに爆破スイッチが取り出され、周囲が凍り付く。荒れ狂う男の目に躊躇はなかった。
『母の死は己が死すと同義! その覚悟が本当におありですか!!』
叫ぶようにして声を張り上げたのは◯◯だった。
森の目はゆっくりと彼女を捕らえ、◯◯は立ち上がり、怒りを隠しもせず睨みつける。
『母を殺めたあと、再び紅麗がお父様に従うとお思いですか? 私だったら、母に手をかけたその瞬間、確実にあなたをここで殺します』
◯◯の物騒な物言いに驚いて、森はゆっくりとスイッチを下ろした。
「まさか……この私を脅しているのか?」
『他にどう聞こえると言うのです。お父様を恨んでいるのはまさか紅麗だけだとお思いですか?』
周囲にいた側近達は青ざめ、さすがの紅麗も焦りを滲ませる。
「◯◯様なりませぬ、それ以上は……っ」
音遠が制止を呼びかけるが、◯◯は迫り上がる怒りのまま言葉を吐き出した。
『私がここへ養子に来てから、一度としてあなたを父親などと思った事はありません。高慢で強欲、人間を駒のように使い捨て、人を人とも思わないあなたこそ、もう人ではない。心の底から軽蔑します』
悲鳴のようなざわめきが周囲を覆い尽くした。
威嚇するような眼差しも、容赦のない辛辣な言葉も、森光蘭にとって全てが初めての事だった。嫌われているなどと微塵も思わないほど、愛娘はずっと隣で微笑んでいたからだ。
「それが……お前の本心か?」
これまでの振る舞いが、いかに上辺だけの作り物だったのかよく分かるほど、目の前の娘が別人のように見え、むしろ森の心は震えた。
「ふっ、くくく……! そう、か……。そうだろうな。本来のお前は、もっと賢く美しい人間なのだろう。ただ私の前で頭の悪い猫を演じていただけで」
人間のように感情をあらわにするお前も、大輪の如く美しいとは。
「かえって清々しい気分だよ。お前の新しい一面を見れて感激しているところだ」
『それなら話が早く進みそうです。"お父様"、私には欲しいものがあるのです』
◯◯は眉尻を下げて控えめに微笑んだ。娘として森の前でよく見せた顔だ。
『それは同時に、お父様の命も保証して差し上げられます。そして私はまた、お父様の隣へ仕える飼い猫へと成り下がりましょう』
胸に手を当て、ほんの少しかがんで礼を取る。一見、服従の意を表しているようだが、見上げた眼差しは挑むように鋭い。
森は口角を上げた。
「続きは中で聞くとしよう」
森は◯◯と数人の従者を連れ館内へ戻った。
その場に取り残された紅麗は、やり場のない怒りに震え、地面の砂を握った。