生まれた愛
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「辛いだろう? 感情を殺せ、そうすれば楽になる」
森光蘭がストレス発散の吐口にするのは、いつもの事だ。
任務に失敗し、すでにボロボロの身体をさらに痛ぶられ、血を吐いた。
頭の中で何度この男を殺したか数え切れない。今は昔と違い体格も成長し、奴に抗うだけの力も蓄えてきた。殺そうと思えばいつでも殺せる。
なのに――
衝動的に側にあった花瓶を払い除ける。開ききった瞳孔で奴を見ると、森は少したじろいだ。
だが奴はすぐに持ち直し、脇に立ててあったゴルフバットを握る。
「……逆らうのか?」
さすればもっと酷い事になるという警告に、思わず唇の隅が上がる。怒りで頭が焼き切れそうだ。
感情など、貴様への憎しみで埋め尽くされている――
森がバットに力を込めた時、扉を乱暴に開けた◯◯が飛び込んできた。
腰まで伸びた髪が広がり、少しも美しさを損なわず成長した◯◯が二人を見据える。
床に散らばった花を見て、紅麗を睨むとその頬を叩いた。
『無闇に花を傷つける事は許しません。もう出て行って下さい! お父様! 今日お買い物に連れて行って下さるとのお約束でした。待ちきれずに来てしまいましたが、まさかお忘れだったのですか?』
◯◯は紅麗の胸を押しやり部屋から追い出すと、父の元へ年頃の娘のように甘えた。
廊下に出されて頭が冷えた紅麗は、頬に手を当てる。今更ながら骨が折れたように身体が痛み、こめかみがズキズキと脈を打っている。
遅れてようやく、助けられたのだと理解した。
次に目が覚めたのは深夜だった。
かすかな消毒の匂いに目蓋を押し上げると、目の前に泣きそうな◯◯の顔があった。
夢でも見ているのだろうか、そんな虚な思考から、手当てを施す優しい手付きに徐々に意識がはっきりしてくる。体を起こそうとしたら激痛が走り、また元の体勢に戻った。
『痛みが酷いならこれを飲んで。私が具合悪いときにもらった痛み止めなの』
今度は彼女に背を支えてもらいながら起き上がり、錠剤と水を受け取った。
よく見たら頭も身体も丁寧に包帯が巻かれている。確かあの後、自室のソファに倒れてから意識が途絶えたままだった。
「ずっとここにいたのか?」
『もうみんな眠ってる頃だし、心配で……』
「長く居たなら、もう戻った方がいい」
『でも、叩いたことも、謝りたくて』
青白い顔で小刻みに震わせている手を握る。
「謝らなくていい。◯◯が止めてくれなかったらもっと酷い事になっていた」
『私、こわくて……、あの時も、紅麗が死んでしまうかと……っ』
「あぁ、心配をかけた。もう大丈夫だから、そんな顔をしなくていい」
泣き出してしまった彼女の顔を覗き込み、何度も涙を拭う。
『紅麗……私は紅麗が一番大切なの。だから……私を置いて死んだりしないで。ずっと一緒にいるって約束して』
愛おしいぬくもりが胸の中に入り込んで、縋り付くように服を掴む。その震えた指先を包み、壊れてしまわぬよう抱きしめた。
「約束する。独りにしたりしない」
親子や兄妹とも違う、胸を焦がす熱。彼女の存在が己を強くする。
頂点に上り詰め
誰からも支配されぬ力を
彼女を守れるだけの力をつけるから
「ずっとそばにいて欲しい。この世の誰よりも、何よりも、大事に想ってる……◯◯」
他の何を犠牲にしてでも
君が大切なんだ
執筆 2006.8.16
加筆修正 2024.4.22