生まれた愛
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの日以来、母は再び別邸に幽閉された。
もう諦めに近い感情だった。幼いときに引き剥がされてから、寂しいという思いは時を止めていた。
むしろその事に酷く落ち込んだのは◯◯の方だった。
それとなく庭園を避けて数日が経った頃、人気のない廊下で◯◯と鉢合わせた。
彼女は何か言いたげに口を開こうとしたが、思いとどまり悲しく目を伏せた。近付くな、と命じられているのだろう。
紅麗は気にせず◯◯の横を通り過ぎた。
だが後ろで追ってくる足音がするので、仕方なく振り返る。同時に周りを警戒すると、彼女は控えめに呟いた。
『お父様は外出中なので……』
この間の出来事で、各々の立ち位置をよく理解したらしい。
紅麗は視線を彼女に戻し、先を促した。
『あの……怪我は……』
「大した事はない。母上も擦り傷程度だ。……ここでは珍しくない事だ。気にしなくていい」
そう答えても、◯◯はますます悲しそうに表情を歪めた。
『お母様がいなくなったのは……私のせい?』
「関係ないな。母上は以前より別邸で隔離されていた。それが、新たな養子を迎えるからと呼び寄せられていただけだ。ここの暮らしに慣れるまでの母役として」
あの日がきっかけだったとしても、いつかそうなる事は決まっていた。奴が不要と感じたら、物のように捨てるのだから。
彼女もこれから徐々に思い知る事になるのだろう。奴に目をつけられたのは不運だったと、今の自分は哀れんでやる事しかできない。
『お父様は……こわいです。好きになれません……』
言ってはいけない事だと分かっていながら、恐怖からつい漏れた本音なのだろう。言い終えてから顔を青ざめた彼女に、無意識に微笑む。
「そうか……。なら、気が合いそうだ」
不幸にもこの檻の中に囚われたもの同士。
森光蘭の興味が失せ、彼女がもう少し自立できる年齢になったら逃がしてやる事もできるかもしれない。
そのときまで、このいばらの運命を、共に――
それからの日々は、互いに距離は保っているものの、目が合えば必ず◯◯は微笑んだ。付き人や侍女が控えている時は視線だけで、それ以上は干渉しない。誰もいなければ他愛のない会話をするようになった。
次第に緊張も溶けて彼女の表情も豊かに。それにつられるようにして己の無表情も少しずつ和らいでいった。
周囲にはこれまで通り無感情な仮面を貼り付けて、◯◯の前では人間らしく心を表した。
生きている心地のしなかった世界に、少しずつ彩りが差してゆく。お互いに心を許し合えていると、会うたびに感じた。
そうして誰一人として味方につけず、二人だけの秘密の逢瀬を繰り返すこと3年……
紅麗は15歳、◯◯は13歳へ。