生まれた愛
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母に連れられ、広大な庭園のひとつである薔薇園の入り口までやってきた。
薔薇で出来たアーチをくぐり、同じく花開くように◯◯は表情を輝かせている。
母はハサミとバケツを探しにこの場から離れたが、色とりどりの薔薇に彼女はどんどん奥へと吸い寄せられている。
『お母様、バラにもいろんな色と種類があるのですね! ……あら?』
母がいない事にようやく気付いて、こちらを見てまばたいた。
「母なら、ハサミを取りに」
『え! ご、ごめんなさい。ぜんぜん気付かなくて』
思いきりこちらに背を向け、耳を赤くしながら再び薔薇の観察を始める。
しかし先程のように夢中にはなれないようで、身の置き所に困っている様子だった。
今日初めて挨拶をした義理の兄と二人きりになればそうだろうな、とどこか他人事のように思う。ましてや気の利いた話を振れるわけでもなく、ただ迷子にならぬよう後ろから付いて歩くだけだ。
別なアーチを通り抜けようとした時、トゲの蔓が彼女の髪に触れそうになっていたため、手の甲で押し広げてやった。
気付いた彼女がこちらを見上げるが、まだ頭ひとつ分しか身長差がない状態で目を合わせると思いのほか距離が近く、妙な焦りが込み上げる。
でもそれ以上に、邪心の欠片もない澄んだ瞳の美しさに囚われ、目が離せない。
次の瞬間、背後から突然、影がさした。
気付くのに遅れた紅麗が振り向く前に、強烈な打撃により体が投げ飛ばされた。
「何を、している」
グシャリ、忌々しそうに芝生を踏みつけ現れたのは、森光蘭。
即座に紅麗の頭を掴み、容赦なく蹴りを入れる。
◯◯は声にならない悲鳴を上げ、両手で口を覆った。
「紅麗!!」
異変に気付いた月乃が慌てて駆けて来て、すぐに紅麗を抱きしめて森から引き離した。
森はそれすらも苛立たしそうに舌打ちをする。
「誰が◯◯に近付いていいと言った? 勝手をしたのはお前か? 月乃」
「なぜこんな事をっ……、私達は花を選んでいただけだわ、きゃぁ!」
次は月乃が蹴り飛ばされ、紅麗がなんとか受け止める。しかし暴力は止まらず、森は拳や足で二人を痛めつけた。
すると森の服の裾がツンと後ろへ引かれる。ポロポロと涙を流した◯◯が、震えながら服を掴んでいた。
森光蘭は誰の制止も受け入れない。止めればその者は必ず折檻を受けていた。しかし、森は振り上げた手をそのまま、彼女の頭に乗せた。
「こやつらのために泣く必要などないぞ。……まあいいだろう。少しばかり怖い思いをさせたか。お前の為に引き下がるとしよう」
それには紅麗も月乃も驚きを隠せなかった。
森は地べたに座る二人を虫けらを見るような眼で一瞥し、彼女を連れて庭園から出て行った。
これまで誰も森光蘭の暴走を止める事はできなかった。奴の気の済むまで殴られ続ける事が常だった。
それが、彼女の存在によって初めて抑制されたのだった。