生まれた愛
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紅麗が◯◯と初めて出逢ったのは、12歳の時。
朝から館内は忙しなく、使用人達が部屋中を花で飾ったり豪華馳走を用意しているのを不思議に思っていたら、森が10歳の養女を引き取って来るという話を以前していたのを思い出した。
子供は嫌いなはずの奴には珍しいと、頭の片隅で思いながら聞き流していたんだ。
部屋の隅に立っていると、森が少女を連れて入ってきた。
緊張したようにうつむいているせいで、色素の薄い栗色の髪が顔をほとんど隠している。
「今日から我が家の娘となる、◯◯だ」
白いワンピースの裾を掴み、小さくお辞儀をして顔を上げた少女に、この場にいた全員が息を呑んだ。
きめ細やかな真珠の肌。りんごのように血色の良い唇。不安気に揺れる瞳は琥珀色で、宝石のように輝いている。
まだ10歳だというのに、桁外れの美貌だった。
奴の目にとまるのも理解出来る。ただの善意で孤児院から引き取ってくる訳が無いのだ。欲しい美術品、それが今回人間だった。それだけの事なのだろう。
少女の歓迎会は賑やかに始まり、多くの人間がそこへ群がった。
このまま抜けても気付かれないだろうと、紅麗は静かに部屋を出て行った。
その背中を、少女が興味深そうに見ていたのは気付かなかった。
***
少女を迎えてから、屋敷内のデザインは以前より明るいものへと変わった。カーペットやカーテンは女性的な色合いになり、庭園は増設され、花が増えた。
少女とはまだ一度も話していない。同じ屋敷に住んではいても、城のように広いここで偶然会う事はなく、ごく稀に庭園で見かける程度。
新しい家族とはいえ、お互いに干渉する事はなく、あちらからしてみれば自分の存在を認識すらしていないのだろう。
森光蘭は、少女に夢中だった。
妻ですら愛さなかった男が初めて人を愛したかのように、外出には彼女を連れ、食事も同席させ、贈り物を部屋に入りきらないほど買い与えた。
そして森の機嫌が良い時が多くなった。つまりそれは、自分と母が穏やかに過ごせる日でもあった。
さらに数日が過ぎて、庭園に立派なガゼボができた。
通りすがりに、そこで母と少女が仲睦まじく寄り添っているのを見かける。
義理の母ではあるが、自分に優しく接してくれたように、少女にも母であろうと無償の愛を注ぐのだろう。緊張のない笑顔を向ける少女がそれを表していた。
そして、不意に少女と目が合う。視線をこちらに向けたまま、母の袖を引っ張っている。
遅れてこちらに気付いた母は微笑んだ。
「紅麗、あなたもこちらへ」
母に促され、ガゼボで待つ二人の元へ歩いてゆくと、見るからに緊張した面持ちで少女は手を前で握っていた。
「二人の挨拶がまだだったわね。私の息子、紅麗よ。あなたの二つ上のお兄さんになるわ。よろしくね。……紅麗、私の娘となった◯◯よ。まだ来たばかりで分からない事が多いから、いろいろと教えてあげてね」
近くで見ると随分と小さかった。
空を映したような色のワンピースに、白いリボンで髪を結んでおり、長いまつ毛が緊張気味に瞬いている。動いていなければ洗練された芸術品のようだと思った。
無表情でじっと見下ろしていると、彼女は母の袖を掴み、照れたように身を寄せた。
『は、はじめ、まして……。初めてお見かけしたときから……ずっと気になっていました。とってもキレイな、お名前ですね……お母様』
始めのうちはこちらを頑張って見上げていたが、後半は耐えきれずに母の方を向いて話しており、母はふふっと嬉しそうに笑った。
「ええ、そうね。◯◯のお名前もとっても素敵よ? お顔だって、まるでお人形のように可愛らしいわ。ねえ、あなたもそう思うでしょう? 紅麗」
「……はい」
誰が見てもそうであろうと当然のように返答すると、彼女は分かりやすく頬を赤らめ、母の背に隠れてしまった。
何かおかしな事を言っただろうか?
「二人が仲良くしてくれたら母は嬉しいわ。さあ、今日は◯◯の部屋に生ける花を見繕うつもりでいたのよ。紅麗も一緒に選んでちょうだい」
そう言って、母はいつになく楽しそうに両手を合わせた。
母は自分達が仲良くなる事を望んだ。
だが、あの男はそうではなかった。