過去の告白
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夜も深くなり、烈火達が帰り支度をしている時だった。
戸締りをしようと◯◯が縁側に出ると、庭にひとつの影がすとんと降り立った。その人物は紳士のごとく優雅な所作でお辞儀をし、◯◯は驚いてその者の名を口にした。
『雷覇……っ』
すると中にいた烈火達がすぐに反応し、武器を手に全員が縁側へ躍り出る。陽炎も警戒して柳を覆い隠し、水鏡も◯◯の手を引いて後ろへ下がらせた。
対し彼は、微笑みを崩さず再び腰を折った。
「こんばんは。挨拶が遅れてしまいましたが、麗の雷覇と申します」
黒い長髪を風になびかせ、彼は人のいい笑みを浮かべた。しかし烈火達は警戒を解かなかった。
「そう敵意を剥き出しになさらないで下さい。私は今回、皆さんにお伝えしたい事があって参ったのです」
雷覇は話をそのまま続け、森光蘭主催の裏武闘殺陣という武道大会について説明をした。
「そこにオレ達を招待?」
「はい。そこで正式に麗が負けたのなら、今後、治癒の少女に手出しする事はないと約束するそうです」
「それだけじゃダメだ!」
むしろ戦いの場を用意してくれるのであればありがたいとさえ思っていた皆は、烈火が突っぱねた事を意外に思った。
「姫だけじゃねえ。俺達が勝ったら、◯◯にも近付くな!」
当然だろ、と言いたげに烈火は胸を張る。
◯◯は烈火の背中を見つめながら、胸が温まるのを感じた。
「うーん、それは困りましたねぇ。実は先日の件、治癒の少女を逃したとだけ上に伝えており、◯◯様に関しては報告していないのです」
「どういう事だ? もう娘の事はこれっぽっちも関心がないのか? それならそれでありがてぇけどよ」
いいえ、と雷覇は冷めた返事をする。
「むしろ執着しております。尋常ではない程に……ね」
そこで得も言われぬ沈黙が落ちる。
だったら部下である者達がなぜ彼女を隠すのか、皆がそう思うのは当然であり、察した雷覇は苦笑した。
「いろいろと内部でも派閥はあるのですよ。そのことについても改め確認したいので、そろそろ◯◯様と二人でお話させてもらえませんか?」
「テメェ! そうやって今度は◯◯を拉致る気じゃねえだろうな!?」
勢い込む烈火に、雷覇は両手を振って否定した。
「まさかまさか、◯◯様の望む事は致しません」
「信じられるか!」
「信じられませんか? ◯◯様」
今度は烈火ではなく、水鏡の背にいる彼女へ向けて問いかける。姿の見えない彼女を、強い眼差しで見つめて。
「まさかこの雷覇が……3年の時を経て、森様の犬に成り下がったとお思いなのですか?」
皮肉を込めて、雷覇は切実に問う。
そんな事はあるはずがないと、◯◯は小さく息を吐き、月明かりの元へ姿を現した。
何か異変があればいつでも出れるように、烈火達は部屋の中で待機し、◯◯と雷覇は二人きりで話をする時間を設けられた。
◯◯は縁側に腰掛け、雷覇は彼女の足下で膝をつく。
『そんな事しなくていい。もう主従関係なんてないはずよ』
「そうしたいのです。私にとって◯◯様はいつまでも我が主ですよ。……皆、心配しておりました。ご無事で、本当に何よりです」
『……紅麗を置いて逃げた私を、憎くはないの?』
「我々は◯◯様の幸せを心より願っておりました。それは紅麗様も同じ。◯◯様が御自分の幸せのために出て行ったのであれば構わないのです。御身の心配こそあれど、恨む事など決してありえません!」
◯◯は眩いものを見るような目で雷覇を見つめた後、ありがとう、と述べて目を閉じた。その気持ちが心より嬉しいと胸に手を当てながら。
「我々が◯◯様と接触した事は、まだ森様には知られていません。今のうちに花菱烈火達から離れて下さい。◯◯様はこのまま、また別の安全な場所へ……」
◯◯は首を横に振った。
『言ったはずよ。今度は私を含め戦う事になるだろうと』
燃えるような深い赤髪が月に照らされ、暗がりにも負けず強い輝きを放つ。
雷覇はその美しさに魅せられつつも、厳しい顔つきで尋ねた。
「やはりその赤い髪……例の魔導具と契約したのですね?」
返答しなかった彼女を肯定と捉えた雷覇は、ショックを隠しきれずに奥歯を噛んだ。
「魔導具など……◯◯様には必要ありません! このまま彼らといれば、森様に気付かれるのも時間の問題です! 我々が安息の地を約束しますから、どうかお考え直しを……!」
雷覇は膝をつけたままさらに詰め寄り、必死に懇願した。
しかし◯◯が頷く事はなく、申し訳なさそうに眉を下げるだけだった。
「なぜです……! やっと手に入れた自由を手放すおつもりですか!?」
『あの人が生きている限り、自由なんてないのよ、雷覇』
雷覇は目を見開き、言葉を詰まらせる。
それを合図に、◯◯は終わりを告げた。
『遠い所からひとりで会いに来てくれてありがとう。でもそろそろ帰った方がいい。話は終わり。次会う時は……敵同士になる』
悲し気に微笑みながらも、確固たる決意を秘めて見つめられた雷覇は身動きができなかった。
そして立ち上がった彼女は室内へと足を向ける。
その背に重い十字架が見えた気がして、胸騒ぎがいつまでも鳴り止まなかった。
執筆 2006.8.13
修正 2024.4.22