過去の告白
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『私が10歳の時に、養女として森家に引き取られたの。家にはふたつ上の子が先にいて……それが、紅麗。義理の兄にあたるのだろうけど、紅麗も拾われた子だったし、そもそも家族としては成り立っていなかったから、お互い同じ環境下で育っていくうちに……えと、話を続けても大丈夫だった?』
皆が白目を剥いているのに遅れながら気付き、◯◯はまたしても首を傾げる。
なんとか先に意識を取り戻した烈火が脂汗を腕でぬぐった。
「い、いや、すまん。紅麗がなんだって? ちょっとそこから意識が飛んでた」
風子や土門もうんうんと頷く。
「衝撃的すぎてまだ心の整理が追いつかないっちゅーか……え、◯◯のふたつ上ってことはアイツ20歳かい!?」
「わかッッ! いや、年齢はともかく、ここここ恋人って、ええええ!?」
いっそ否定してくれと言わんばかりに二人は叫ぶ。
その横で水鏡は厳しい顔付きで黙っており、柳はハラハラしていたが、◯◯は続ける事にした。
『父……森光蘭にとって私達は都合の良い道具。紅麗は己を守護する盾と剣、私はただのお飾りにすぎなくて……常に父の話し相手や出かける時に隣について歩いてた。豪華な住まい、ドレス、食事、お金で買えるものは全て与えられてた。それでも自由な外出はできず、人と親しくなる事も許されなかった。必要な時に取り出し、そうでない時は部屋に閉じ込める。私にとってあそこは、監獄と同じ』
唯一、と溢した言葉の脳裏に、懐かしき母の顔が浮かび、無意識に拳を握る。
『お義母様は、私と紅麗を本当の子のように大切にしてくれたわ。優しくて、愛情深くて……今は、遠い地の邸で一人で暮らしてる』
母もまた、森光蘭に自由を奪われたひとり。私と紅麗との数少ない面会のために、囚われの身となり森光蘭の手中にいる。
『同じ境遇だった紅麗とは隠れて会って、いつか自由になれる日をお互い夢見てた。……だけど、私達が恋仲であると知った父は尋常じゃないほど怒って……』
◯◯は思わず口を噤む。
酷い事をされたのだろうかと、皆は深刻な面持ちで口を閉ざし、陽炎が◯◯の背をそっと撫でた。
『私は……さらに厳しい監視下の元で隔離されていただけ。でも、父のストレスや怒りの矛先は、私以外の全ての人間へ向けられるの。とても人とは思えないような所業で……奴隷のように相手を支配する』
死んだ方が幸せと思えるほどの地獄を与えて
『もう、限界だった。全てを奪う父の言いなりになる事も、先の見えない暮らしにも。……それで私は、これまで支えてくれた人達を置いて、家を出たの』
うつむく◯◯に、陽炎が優しく問いかける。
「それで、紅麗の肉親であるかもしれない私達の元へ……?」
『ただ一目でも、会ってみたくて。この魔導具の力を借りながら、私は烈火くんをずっと探してた』
◯◯は後ろから白い布に包まれた刀を取り出した。紐を解いて全てを皆の前に見せる。汚れひとつ無い、深紅に染められた鞘が光る。
魔導具の気配を嗅ぎ取ったり、烈火の中にある秘められた竜の炎を感じ取ったのはこの刀のおかげだ。
『会えて嬉しかった。でも同時に、苦しくなってしまって……その場からしばらく動けなかった』
太陽のように明るく健やかに育っていた烈火は希望のようでもあり、羨ましいほど眩いものでもあった。紅麗も、拾われた家庭が違ったならどんなに幸せだっただろうか。
そんな風に考え出したら、その場から動けなくなったのだ。
それでも、ここに私が寄り添うと決めたのは、烈火から感じる紅麗の面影に身を寄せていたかったのかもしれない。そして彼の存在が、紅麗の孤独を少しでも和らげるものとなったら……
そんな風に無意識に追い求めていたのかもしれない。
『今まで黙っていてごめんなさい。でもどうしても、私の過去の事でみんなを巻き込みたくなかった。……結局、違う形で父に追われる事態になってしまったけれど……』
◯◯はひそめていた眉を直し、真剣な眼差しで背筋を伸ばした。
『父は、恐らく柳ちゃんを手に入れるまで何度でも追ってくると思う。私の存在も知られたのなら尚更。その時は私も、この魔導具を持ってみんなと一緒に戦いたい。誓って、みんなを裏切るような真似はしないと――』
「心配すんな! 俺達が姫も◯◯も守ってやる!!」
烈火が自信たっぷりに拳を突き上げ、◯◯はまばたいた。守る者に自分も含まれているとは思わなかったからだ。
「そんな奴、もう父親でもなんでもねえ! ◯◯がここにいたいなら、ずっといればいいだろ!」
風子も◯◯の目前へ来て、両手を握りしめた。
「そーだよ! 一体なんの心配してんだい、ウチら仲間だろ? 過去がなんだろうと友達には変わりない! そんなクソ野郎、私がぶっ倒してやるよ!」
水鏡や土門も大きく頷き、柳も安心させるように隣に来て、◯◯をぎゅっと抱きしめた。
思っていたよりも不安に駆られていたのか、触れられて初めて自身の手が震えていた事に気付いた。
じわり、心臓の奥が熱くなる。
『――ありがとう』
そんなみんなだから
私は大好きになったんだ……