過去の告白
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ゆっくりと意識が浮上する。目蓋を開けば、今度は視界が鮮明だった。
目を覚ました紅麗は天井から窓に視線を移し、外が明るい事を知る。包帯だらけの上半身を起こし、腕に繋がれていた数本の管を躊躇なく引き抜いて、床に飛散した液体を踏みつけた。
「紅麗様……ッ! まだ動かれてはなりません! 紅麗様!」
治療室から出てきた紅麗は、周りの制止を振り切り廊下を突き進んだ。
引き止めるため触れようとすれば、射殺さんばかりの眼で睨まれ、誰も彼を止める事ができない。
しかし廊下の先では雷覇が待ち伏せていた。こうなる事を予測していたかのように。
「紅麗様、お気持ちは分かりますが、これより先は私にお任せ下さい」
「どけ」
紅麗の右腕とされる雷覇ですら高圧的に一蹴する。しかし雷覇も続ける言葉は決まっていた。
「森様より、"
横を抜けようとした紅麗の足が止まる。
「ぜひ彼らを招待するようにと。よって紅麗様は治療に専念し、万全を整えて頂かねばなりません」
「……」
「ちなみに◯◯様について一切の報告はしておりません。監視カメラの記録もすべて排除致しました。森様が欲しているのは治癒の少女のみ。今ならまだ気付かれず◯◯様に接触する事が可能です。ですので、私に行かせて下さい」
ここで紅麗が無理にでも動けば不審がられてしまう。隠密に行動するなら自分が一番適役であると雷覇の目は語っていた。
紅麗は拳を握りしめ、それ以上足を進める事はしなかった。
***
話は、400年前の火影と魔導具の歴史から遡る。
紅麗と烈火は炎術士の血を受け継いだ異母兄弟であった。戦時中の厳しい最中、陽炎が時空流離という術で現代の世界へ二人を飛ばしたのだ。
術を使った代償に、陽炎は不老不死となり、400年という気の遠くなるような月日を独りで生きてきた。
そして現代、時空を超えて生きていた実の息子、烈火と再会したのだ。
麗との戦いから数日、怪我も全快した皆は陽炎の屋敷に集結していた。
魔導具の存在、炎術士、複雑に絡み合う関係性を、陽炎は古から今世に至るまでひとつひとつ丁寧に説明した。
皆は一通り理解して頷き合ったが、疑問に思う事はまだ他にあった。
「分かった。とりあえず俺の生まれや過去の話は分かったんだけどよ……」
烈火は頬をかきながら視線を巡らせる。
同じく風子や土門もそわそわしながら、陽炎の隣でお茶を用意する◯◯を盗み見ていた。
水鏡は一息吐き、きっぱりと告げる。
「◯◯はあまり驚いていないな。事前に知っていたかのようだ」
ギョッと目を剥く周りを尻目に、水鏡は冷静に彼女を見つめた。
「麗とも深い繋がりがあるように感じる。竜が◯◯に攻撃した時、紅麗がかばい立ったように見えた。その部下達も"◯◯様"と呼んでいたのは僕の聞き間違いか?」
陽炎と柳は初めて聞く事実に驚き、烈火達は信じられないものを見るような目で水鏡を凝視した。
「どどどどうしたんだよ水鏡? お前帰ってきてからピリピリしてないか?」
「事実だろう。お前らも疑問に思っていたはずだ。ここまで明らかになってるんだ、もう隠す必要はないと思うが」
「それはお前が決める事じゃねーだろ!? 本人のタイミングっつうもんが……」
『烈火くん』
烈火が水鏡の胸ぐらを掴もうとした時、姿勢を正していた◯◯は微笑んだ。
『ありがとう。でも大丈夫。みんなで無事に帰れたら、ちゃんと話すつもりでいたから』
3年前、あの雨の日から、孤独であった私に手を差し伸べてくれた彼らには感謝しかない。全てを語れないのに、それを許し、寂しくないようにとこれまで一緒にいてくれた。それがどれほど、心強かっただろうか。
『今回柳ちゃんを狙った首謀者、森光蘭は、私の父です』
しばらくの間が空いて、皆の間に不穏な風が吹いた。思いがけない爆弾に、信じたくない気持ちの方が大きく、誰も言葉を発せられない。
皆が森光蘭を想像しながら、天使の容姿を持つ彼女を改めて見るが、どこをどう並べても親子には見えない。もはや別の生き物だと言っても過言ではない。それくらい違う。ありえない。
激しい拒絶反応に皆が心の中で悲鳴を上げていると、◯◯は小首を傾げた。
『私は孤児院で育ったから、義理の父になるんだけど……』
「だ、だよね! 良かった! それが分かっただけでも!!」
前のめりになる風子に他の皆も全力で賛同した。
とはいえ驚きの事実には変わりなく、まだ皆の困惑が冷めない中、次の爆弾は即座に投下された。
『それで紅麗は、昔の私の恋人なの』