紅麗の館
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「やめろぉおお!! 調子のってっとぶっっ殺すぞ!!」
烈火は激昂した。
竜の咆哮にも劣らない叫びに、初めて八匹の竜が主人に耳を傾ける。そして様子を伺うよう烈火の周囲を浮遊した。
シュウウ……、服や肌の焦げる匂いがする。ズタズタに破けた黒衣が舞い、瓦礫と共に割れた仮面が落ちていた。
やっと震えがこみ上げて、◯◯の瞳は大きく揺れる。
会っても絶対に泣くまいと決めていた。なのに、頬から伝うそれをもう止める事ができない。
『紅麗……っ』
この世でもっとも愛おしい者の名を呼ぶ。
紅麗は今にも飛びそうな意識を決死の思いで繋ぎ止めていた。
内臓までもが火傷したように熱く、息を吐き出すと大量の血が流れ出た。頭からも流血しているのか、視界は真っ赤に染まり焦点も合わない。
だが、この腕の中にいる彼女だけは押し潰してしまわぬように。
「紅麗様!!」
そこへ、紅麗直属の
新たな敵に烈火達は焦るが、二人は真っ先に紅麗を埋める瓦礫を取り払う。
「紅麗様! ご無事ですか!」
これほどダメージを受けた主の姿を見た事がなかった二人は大いに動揺した。
そして隣へ寄り添うように来て初めて、彼の腕の中で身じろぐ存在に気付く。
「◯◯さ、ま……?」
音遠は瞳を大きく揺らし、雷覇も信じられないものを見るような目で驚く。
◯◯も二人の存在に気付いたが、顔を上げる事はできなかった。とにかくここから離れるべく、紅麗の体を押すがびくともしない。
『離して……』
今も尋常じゃない程の血がボタボタと落ちている。むしろまだ意識があるのがおかしいほどだ。
だが腰を抱く腕は決して離すまいと頑なに強く、それが尚更◯◯を苦しくさせた。
先に落ち着きを取り戻した雷覇が
「紅麗様……◯◯様をお離し下さい。まずは治療が先です」
息をするだけで精一杯な紅麗は、指図するなと言いたげに鋭い眼だけを光らせた。
音遠も慎重に言葉を選び、優しく促した。
「◯◯様の怪我の具合もみねばなりませぬ。どうかご容赦を」
紅麗の力が一瞬だけ緩んだ隙に、◯◯は這うようにして抜け出した。
望んでいなかった紅麗は手を伸ばしかけたが、再び喉から血が溢れ出し、地面に崩れる手前で雷覇が体を支えた。
音遠は改めて◯◯の姿を目にし、息を飲む。
3年前、彼女は忽然と姿を消した。誰にも何も言わないで。行方をくらます直前、最後に彼女と会ったとされる小金井薫は、髪色が変わっていた事を気にかけていたのだ。
以前の髪色は淡い栗色だった。元より端正な顔立ちに燃るような鮮やかな髪が加わり、より一層美しくなったと、彼女を知る麗は皆同じ事を思うだろう。
「◯◯様、どこかお怪我は……」
音遠がそっと近付いて手を伸ばす。
だが◯◯は首を横に振りながら離れた。
『私は……大丈夫。なんともないわ』
ありがとう、と小さくお礼を言い、紅麗からさらに離れるよう後ずさる。
そしてボロボロの体でこちらに走ってくる風子や水鏡に気付き、◯◯も駆け寄った。
「◯◯様!」
音遠が引き止めるが、◯◯は振り返らずに足だけを止める。
『……父に伝えて。左古下柳は渡さないと。また狙うというのなら、今度は私も含め戦う事になるだろうと』
つまり、烈火達に手を出せば私達は敵同士。
雷覇と音遠は意味を正しく理解し、顔を強張らせた。
◯◯は刀を握りしめ、烈火達の元へ行く。
尚も後追いしようとする音遠を雷覇が手で制し、努めて冷静に言葉を投げた。
「◯◯様。また近いうちに、改めて伺います」
そして二人は紅麗を連れ、この場を立ち去った。
こうして麗との戦いは一時終止符を打った。
烈火は八竜を再び腕に戻し、◯◯は皆の応急手当を済ませる。
外では小金井に連れられた柳がすでに待機しており、無事に皆で帰還する事ができた。
しかし全ては、まだ序章にすぎなかった。
執筆 2006.8.9
修正 2024.6.30