紅麗の館
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監禁室の鉄柵の窓から打ち上がる花火を見ていた柳は瞳を輝かせた。
ここにいる、と烈火から仲間へのメッセージ。そして敵への宣戦布告だった。
遅れて来ていた◯◯も森を駆けながらそれを確認する。体の鈍い感覚はもうほとんど消えていたため、スピードを上げた。
目的地とされる場所まで辿り着くと、敷地内の警備兵はすべて倒れており、すんなりと館の入り口まで入る事ができた。
烈火達の強さなら一般の警備兵は相手にならないだろうが、魔導具を所持している麗部隊ならどうであろう。焦る気持ちを抑え、慎重に中へと足を進める。
すでに戦闘を繰り広げた跡のひび割れや瓦礫が転がっており、◯◯は音を立てずに人の気配を探りながら廊下を突き進んだ。
そして二階へと続く階段を見つけ、走ろうとした時だった。
「◯◯……姉ちゃん……?」
背後からの声に弾けるように振り返り、すかさず武器をかざすが、相手の姿を見て我に返った。
"◯◯姉ちゃん"、私をそう呼ぶのはひとりだけだった。
『薫……っ』
「やっぱり……やっぱり◯◯姉ちゃんなんだね!!」
小金井は徐々に目を潤ませ、勢い良く◯◯に抱きついた。
「会いたかった! ずっとずっと会いたかったよ! 急にいなくなって、みんなすごく心配してたんだから!!」
泣きじゃくる小金井に、◯◯も目頭が熱くなる。そして腰を落とし、優しく背を撫でながら視線を合わせた。
『ごめんね……たくさん心配をかけたよね。本当にごめんね、薫』
「違うんだ、責めてるわけじゃなくて……っ、なんか理由があるんだって、みんな言ってた。でもね、◯◯姉ちゃんがいなくなってから紅麗変わっちゃったよ。だから……だから早く、会いに行ってあげて!」
紅麗の名が出た事で◯◯の唇は引き結ぶ。
『薫、私がここへ来たのは紅麗に会うためじゃないの。麗が誘拐した治癒の少女、佐古下柳は私の友達なのよ』
「え……」
『だから助けにきた。他にも烈火くん達が先に来ているでしょう? みんな私の信頼している仲間なの』
「そ、そんな……」
麗兵隊は、侵入者である烈火達を排除するため戦闘中だ。その仲間であるという◯◯は麗の敵となる。
『お願い薫、柳ちゃんの居場所を教えて。できるなら誰とも争いたくないの。彼女を連れて帰りたい、ただそれだけよ』
「◯◯姉ちゃんも行くの? ここには戻ってこない……?」
『……いずれまた会うことになるわ』
"あの男"が柳ちゃんを狙う限り
静かだがきっぱりとした物言いに、小金井はショックを隠せなかった。
もし◯◯を見つける事ができたなら何がなんでも取り戻す気でいた。麗にとって彼女は必要不可欠で、特別な存在だった。どんなに汚れても、癒しと救いの場を作ってくれた、そんな唯一の人だったのだ。
なのに、強い眼差しから揺るがない覚悟を感じて、今は無理なのだと理解してしまった。
「……分かった。柳お姉ちゃんの事は俺に任せて。隔離されてる部屋なら分かるし、抜け道も知ってる。だから俺が外に連れ出すよ」
『お願いしていいの?』
「今は厳戒態勢で、麗でも◯◯姉ちゃんを知らない人は容赦なく攻撃してくると思う。俺の方が自由に動けるし安全だよ。紅麗の命令は絶対だけど……事情を話せば、たぶん、分かってくれると思う」
『薫が協力してくれるなら心強い。……紅麗には、私から伝えておくわ』
「本当? 紅麗に会ってくれる?」
『もう私の顔なんて見たくないかもしれないけど』
「そんな事ない!!」
一際大きな声が廊下に響き渡る。
「今すぐ会いたいに決まってるだろ! 紅麗が一番◯◯姉ちゃんの事――」
『薫』
◯◯はできるだけ優しく名前を呼び、小金井を身体から引き離した。
『柳ちゃんを……お願い』
「……わかった。急ぐよ。◯◯姉ちゃんも気を付けてね。また、会いに行くからね」
◯◯は微笑んで頷き、小金井も笑顔をほころばせた。そして手を振りながら走り去る小金井を見送り、誰もいなくなった廊下で◯◯は再び身を引き締めた。
もう引き返すことはできない
本当に、すぐそこに
あなたはいるのね、紅麗……