短編作品
好きな人がいる。たぶんずっと好きだったけど、気付いたのはつい最近。
恋って不思議だ。今までずっと一緒にいてなんで平気だったのか全然わかんない。なのに今は、目が合うだけで、話しかけられるだけで、笑いかけられるだけで、僕の心は天に昇って彼が好きだと世界中の人に叫びたくなる。
今日も今日とてとってもかっこよくて可愛い彼は、購買で買ったおにぎりを頬張りながら窓の外をぼんやりと眺めていた。あ、ほっぺにご飯粒。
「ついてるよ、ごはん」
「え? どこ?」
僕はそっと手を伸ばして彼の頬に手を添えてゆっくりとご飯粒をつまみ取った。
「ここ」
そう言って僕は取ってあげたご飯粒をパクッと口へ運ぶ。
「あ……あり、がと」
「…………」
僕はじっと彼を観察するように見つめた。お礼を言ってまた窓の外を向いた彼の頬が赤く染まっている、気がする。いや、間違いなく赤い。
彼を好きになって気付いた事がある。前は気付かなかった。でも彼を好きになって、ずっと彼を目で追っていると気付いてしまった。
彼はきっと、僕の事が好きだ。その、恋愛的な意味で。
最初は半信半疑だったけど、今はもう確信している。なので、僕は今日、彼に告白しようと思う。大丈夫。自分の事が好きな相手に好きって言うだけ。簡単じゃん。だってもう勝ちが決まってる。いや、勝ち負けの問題じゃないけどさ。とにかく、僕は今日告白をする。
夕焼けに染まる放課後の河川敷。ベタでも何でもいい。高校生が二人きりになれるところなんてそうそうない。前々から目星をつけてたベンチが近付いてきた。よし、今だ。
「あのさ、」
最悪だ。緊張して声が裏返った。めちゃくちゃ恥ずかしい……!
「ん?」
ちょっと笑いながら返事をする彼が可愛くて可愛くてつい見惚れてしまう。
「どした?」
「あ、ごめんッ、あのさッ、」
僕は慌ててベンチを指差し早口で捲し立てた。
「あそこのベンチでちょっと休憩しない? 疲れたろ?」
「え? いつもの帰り道で疲れたりしないけど……何? 疲れたの?」
「え!? あ、そう! 僕が! そう! 疲れたかな! …はは……」
「じゃあ、座っときな。なんか飲むもん買ってきてやるよ」
「え、そんなのいいから一緒にーー」
行ってしまった。なんて優しいんだ。くそ。めっちゃ好きだ。……仕方ない、とりあえず座るか。
ベンチに座って彼を待つ間、彼の事を考えた。え、なにこれ。めっちゃ幸せなんだけど! 告白して、付き合って、デートとかしたら、こんな幸せが待ってんのか。そうだな、待ち合わせ場所には少し早めに行こう。彼はきっと時間通りにやってくるだろうから。そして、待ってる僕を見て慌てて走り寄ってくるんだ。『ごめん! 待たせた!?』とかって申し訳なさそうに眉毛を下げてさ。そしたら僕はなんて答えようか。どう答えれば彼は喜んでくれるかな。困った顔も可愛いけど、やっぱり僕は彼の笑った顔が一番好き。大好き。
「お待たせ」
「……だいすき」
「え? なにが?」
「え!? あ、えっと、あの、こ、コーラ! 大好きコーラ! ありがとね!」
僕は慌てて彼の買ってきてくれたコーラを受け取って大袈裟に笑った。
「コーラ、ね。おまえほんと好きだよな」
そう言って彼は隣に腰掛けた。良かった。なんとか誤魔化せたみたい……って何誤魔化してんだよ! そのままの勢いで言えば良かったのに! バカか僕! いやいや、待て待て、そんなムードも何もあったもんじゃない言い方で良かったのか? いいや、良くない。絶対良くない! 両思いだからこそ、妥協しちゃダメだ。ここは男らしく、バシッとカッコよく決めないと。
「おまえさ、」
「あ、なに?」
「なんか話したいことあるんじゃないの?」
「え! な、なんで!?」
「だって、急に休憩しようとかさ」
「あー……」
「そんな言いにくい事なん? 俺で良ければなんでも聞くよ?」
今だよな。恋愛経験皆無な僕でもわかる。言うなら今だ。よし、言うぞ。
「あのさ」
「うん」
「あの、さ、」
「うん」
「僕に、何か、言うことない?」
「え?」
あれ? なに言ってんの?
「俺、なんかやっちゃった?」
「いや、あの、違くて……その、僕も聞きたいって言うか、言いたいことがあるっていうか……」
「んーと、聞きたいし、言いたいの?」
「うん、あの……」
全くもって自分が信じられない。僕は彼が好き。彼も僕が好き。簡単じゃないか。あとは声に出して言うだけだ。それなのに……
僕は震える手をぎゅっと強く握りしめた。
怖い。だって、もし“そうじゃなかった”ら? 彼がもし、僕と同じ気持ちじゃなかったら? 無理だ。絶対に泣く。わんわん泣いて彼を呆れさせて、友達でもいられなくなって、きっと僕は彼を失ってしまう。そんなのは嫌だ。でも、彼の事が好きなこの気持ちに、もう嘘はつけない。
それでもまだ弱気な僕は、俯いたままちらりと視線を彼へ向けた。
ーーなにその顔。なにその目。
「どっちが先に言っても俺は別にいいけど?」
ーーそんな優しい笑顔を僕に向けてくれるの?
「どうする? せーので言う?」
「待って……僕に言わせて」
「どうぞ?」
大きく息を吸って彼の肩を両手でしっかりと掴む。よし、
「……あー、やっぱりせーので言う?」
「おまえらしいわ」
恋って不思議だ。今までずっと一緒にいてなんで平気だったのか全然わかんない。なのに今は、目が合うだけで、話しかけられるだけで、笑いかけられるだけで、僕の心は天に昇って彼が好きだと世界中の人に叫びたくなる。
今日も今日とてとってもかっこよくて可愛い彼は、購買で買ったおにぎりを頬張りながら窓の外をぼんやりと眺めていた。あ、ほっぺにご飯粒。
「ついてるよ、ごはん」
「え? どこ?」
僕はそっと手を伸ばして彼の頬に手を添えてゆっくりとご飯粒をつまみ取った。
「ここ」
そう言って僕は取ってあげたご飯粒をパクッと口へ運ぶ。
「あ……あり、がと」
「…………」
僕はじっと彼を観察するように見つめた。お礼を言ってまた窓の外を向いた彼の頬が赤く染まっている、気がする。いや、間違いなく赤い。
彼を好きになって気付いた事がある。前は気付かなかった。でも彼を好きになって、ずっと彼を目で追っていると気付いてしまった。
彼はきっと、僕の事が好きだ。その、恋愛的な意味で。
最初は半信半疑だったけど、今はもう確信している。なので、僕は今日、彼に告白しようと思う。大丈夫。自分の事が好きな相手に好きって言うだけ。簡単じゃん。だってもう勝ちが決まってる。いや、勝ち負けの問題じゃないけどさ。とにかく、僕は今日告白をする。
夕焼けに染まる放課後の河川敷。ベタでも何でもいい。高校生が二人きりになれるところなんてそうそうない。前々から目星をつけてたベンチが近付いてきた。よし、今だ。
「あのさ、」
最悪だ。緊張して声が裏返った。めちゃくちゃ恥ずかしい……!
「ん?」
ちょっと笑いながら返事をする彼が可愛くて可愛くてつい見惚れてしまう。
「どした?」
「あ、ごめんッ、あのさッ、」
僕は慌ててベンチを指差し早口で捲し立てた。
「あそこのベンチでちょっと休憩しない? 疲れたろ?」
「え? いつもの帰り道で疲れたりしないけど……何? 疲れたの?」
「え!? あ、そう! 僕が! そう! 疲れたかな! …はは……」
「じゃあ、座っときな。なんか飲むもん買ってきてやるよ」
「え、そんなのいいから一緒にーー」
行ってしまった。なんて優しいんだ。くそ。めっちゃ好きだ。……仕方ない、とりあえず座るか。
ベンチに座って彼を待つ間、彼の事を考えた。え、なにこれ。めっちゃ幸せなんだけど! 告白して、付き合って、デートとかしたら、こんな幸せが待ってんのか。そうだな、待ち合わせ場所には少し早めに行こう。彼はきっと時間通りにやってくるだろうから。そして、待ってる僕を見て慌てて走り寄ってくるんだ。『ごめん! 待たせた!?』とかって申し訳なさそうに眉毛を下げてさ。そしたら僕はなんて答えようか。どう答えれば彼は喜んでくれるかな。困った顔も可愛いけど、やっぱり僕は彼の笑った顔が一番好き。大好き。
「お待たせ」
「……だいすき」
「え? なにが?」
「え!? あ、えっと、あの、こ、コーラ! 大好きコーラ! ありがとね!」
僕は慌てて彼の買ってきてくれたコーラを受け取って大袈裟に笑った。
「コーラ、ね。おまえほんと好きだよな」
そう言って彼は隣に腰掛けた。良かった。なんとか誤魔化せたみたい……って何誤魔化してんだよ! そのままの勢いで言えば良かったのに! バカか僕! いやいや、待て待て、そんなムードも何もあったもんじゃない言い方で良かったのか? いいや、良くない。絶対良くない! 両思いだからこそ、妥協しちゃダメだ。ここは男らしく、バシッとカッコよく決めないと。
「おまえさ、」
「あ、なに?」
「なんか話したいことあるんじゃないの?」
「え! な、なんで!?」
「だって、急に休憩しようとかさ」
「あー……」
「そんな言いにくい事なん? 俺で良ければなんでも聞くよ?」
今だよな。恋愛経験皆無な僕でもわかる。言うなら今だ。よし、言うぞ。
「あのさ」
「うん」
「あの、さ、」
「うん」
「僕に、何か、言うことない?」
「え?」
あれ? なに言ってんの?
「俺、なんかやっちゃった?」
「いや、あの、違くて……その、僕も聞きたいって言うか、言いたいことがあるっていうか……」
「んーと、聞きたいし、言いたいの?」
「うん、あの……」
全くもって自分が信じられない。僕は彼が好き。彼も僕が好き。簡単じゃないか。あとは声に出して言うだけだ。それなのに……
僕は震える手をぎゅっと強く握りしめた。
怖い。だって、もし“そうじゃなかった”ら? 彼がもし、僕と同じ気持ちじゃなかったら? 無理だ。絶対に泣く。わんわん泣いて彼を呆れさせて、友達でもいられなくなって、きっと僕は彼を失ってしまう。そんなのは嫌だ。でも、彼の事が好きなこの気持ちに、もう嘘はつけない。
それでもまだ弱気な僕は、俯いたままちらりと視線を彼へ向けた。
ーーなにその顔。なにその目。
「どっちが先に言っても俺は別にいいけど?」
ーーそんな優しい笑顔を僕に向けてくれるの?
「どうする? せーので言う?」
「待って……僕に言わせて」
「どうぞ?」
大きく息を吸って彼の肩を両手でしっかりと掴む。よし、
「……あー、やっぱりせーので言う?」
「おまえらしいわ」