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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

話の邪魔にならないように、こっそりと部屋の扉を開ける。隣の寝室の前を通らないと一階には行けない作りになっているため、静かに前を通るしかない。

…大事な話なら、邪魔しちゃ悪いしな……。

そう思いながら通り過ぎようとして、少しだけ開いた扉の隙間から、「金剛」と確かに自分の名前が聞こえて、つい足を止めてしまう。

「…俺は、そうならそう言ってやって欲しいんです。」

少し暗い早瀬の声。

「……俺は伝えるつもりはない。」

感情を押し殺したような低い中河の声が聞こえてきて、心臓がドキッとする。

「でも……」

「…早瀬、お前の言いたいことは良く分かった。…でも、それはできない。」


…一体何の話なんだ?

二人の口ぶりから明るい話題ではない事は分かる。それと、俺が関係しているという事。


ギシリ、とベッドのスプリングが軋む音がして、どちらかが立ち上がったのだと分かったが、今更一階に駆け下りる事も、さっきまで自分の居た寝室に戻る事もできない。

隠れようかと右往左往するが、ガチャリと扉が開く音がして目の前には中河が立っていた。

廊下で立ち竦んでいる俺に気が付いた中河は、目を見開いて固まった。

「……圭介」

立ち聞きする気はなかったのに、思わず盗み聞きする形になってしまい、自分からは何も言い出せない気まずい空気になってしまった。

ちらりと後ろを一瞥して早瀬が俺に気付いていないことを確認した中河は、後ろ手に扉を閉める。

「聞いていたのか?」

「…通りかかっただけだけど」

一瞬疑うように俺の瞳をじっと見つめた後、つい、と視線を逸らした中河は、

「なら、いい」

そう言って俺の前を通り過ぎ、さっきまで俺のいた寝室へ入って行った。

中河が部屋の扉を閉めるのと入れ違いに、目の前の扉が開き早瀬が顔を出す。

「金剛、起きたんだ」

早瀬は俺が立ち聞きしていたなんて露程も思っていないようで、ホッとする。

「…あ、中河先生とすれ違った?」

そう言う早瀬の表情は硬い。

「…おう、入れ違いに寝室入っていった。」

「何か話した?」

探るような視線に、俺は何もやましい事はないのに思わず視線を逸らしてしまった。

「…なにも話してねぇよ」

「…そっか。ならいいんだ」

ホッとした様子の早瀬に疑問が膨らむ。

…先程から中河といい早瀬といい、俺に何か聞かれたくないことでもあるのか…?

まあ、二人の会話の中に俺の名前が出ていた事は確実だし、俺に関わる話をしていたのだろうが……

気にはなったが、さすがに盗み聞きした事は言い出せなかった。
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