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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「っお、決まったな」


俺たちの様子を見て話がまとまったとわかった中河は、テレビを消して立ち上がると、

「さ、昼メシ行くぞー」

と車の鍵をくるくると回しながら玄関に向かう。

…さっきのこと、ちょっとも気にしてねぇのかな………

二人きりになる気まずさを感じていたのは、どうやら俺だけだったみたいだ。
さっきの中河の発言と言い、何とも、よくわからない気持ちになりながらも、俺は中河の後を追った。

中河はすでに運転席に乗っていて、スマホを確認していた。助手席に乗ると、二人きりの車の中は想像以上に静かで、煩く鳴り出した心臓の音が隣にいる中河にまで聞こえないか心配だった。


……何してんだろ、三人。ちょっと遅くないか……?


モタモタしているのか、出てこない三人に玄関扉の方に目線をやるが、一向に出てくる気配はなく、中河と二人、気まずい沈黙が続く。

ごそごそとスマホをポケットに入れる音がして、中河の方を盗み見る。

先程のことなどまるでなかったかのような涼しい顔だ。ノンフレームの眼鏡の奥の黒い瞳は真っ直ぐフロントガラスの先を見つめている。


「なか、」

中河、と口に出しきる前だった。



「…さっきの、忘れてくれ。」


その言葉を理解するのに少し時間がかかった。


………え……?


真っ直ぐ前を見つめる中河の表情は少しも変わらず、冷静そのものだ。無表情と言ってもいい。

さっき二人で話した時の悩ましい表情や、ずっと前に俺が気持ちを伝えた時の困ったように溜め息を吐いていた時の顔が走馬灯のように浮かんでは消えて、今の表情のない中河は他人のようで、ただただ困惑するしかなかった。


「…ちょ、どういう意味がわからねぇんだけど……。さっきのことも、まだ俺理解できてないし……」


「理解できてないんだったら、良かった。忘れてくれ、ってのはそのままの意味だ」


俺は必死に中河の顔を見て訴えるが、中河は頑なにこちらを見ようとしなかった。


「……さっき、中河が俺に教えてくれた話って、どういうつもりで言ったんだよ?俺に自分で理解して、そんで、気付けってこと…?

じゃあ、なんで……手握ってきたんだよ…意味わかんねぇんだけど。」


苛立ちを抑えられず質問をぶつける俺に、中河は少しだけ表情を曇らせる。
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