このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「少し、話せねぇ?」

緊張の解けた俺は恐る恐るそう尋ねると、中河はレジャーシートの上に座り、観念したように、ハァと小さく息を吐くと、自分の隣に座るように俺を促した。


「……」
「……」

少しだけ気まずい沈黙があり、俺は意を決して言葉を紡ぐ。


「中河……、もしかして最近俺のこと………避けてる?」


隣にいる中河の顔を見ることができず、少し先で川遊びを始めた三人をぼんやりと見つめる。でも、意識は隣の中河の方に全身で向いていた。


「圭介、聞いて欲しい。」


苦しそうに吐き出された中河の声。
俺は黙って次の言葉を待つ。


「……数年前、俺がまだもっと若くて新米だった頃、懐いてくる生徒がいたんだ。すげー可愛がってた。そいつは、中等部からずっとうちの学園でさ、恋愛も知らなかったと思う。

ある日、放課後の教室で急に告白してきてさ。どうすればいいのかわからなかった。
詰められて咄嗟に慰めようと、人間として好きだ、なんて軽率な発言しちまった。

そこを、当時の一学年上の学年主任に見られちまって、温情で問題にはされなかったけど……

やっぱ、そこから自分の言動改めたよ。教師として生徒と接していかなきゃならないって。近所の兄ちゃんとは訳が違う、ってこと考えさせられた。」


中河の真剣な告白に、俺を信頼して話してくれてるんだ、って気持ちと、その内容に少し軽くなったような気がしていた、心にある鉛のような鈍い痛みが、またズシリと重みを増したような気がした。

どういう意味で俺にこれを聞いて欲しいんだろう……。そう考えた時に、当たり前にたった一つしかなくて。

………迷惑、なんだ、俺の気持ちは。中河を苦しめている………。


「………だけど、」


不意に中河の手のひらが俺の手を包んで、驚いて中河の方に顔を向ける。

そこには、切なく眉を寄せ俺をしっかりと見つめる中河がいた。



「…もう、無視できねぇんだ。」


「……中河?」

何を……?そう聞こうとして、


「けーいーすーけーーー!!!こっち来てよーーー!!」


原田の大声にビクッと二人共肩を震わせ、中河は反射的に俺の手から手を離した。そして我に返ったように立ち上がり、

「ほら、行ってこいよ」

と、俺に背を向け荷物の整理を始めた。


腑に落ちない所はあったけど、これ以上二人でじっくりと話し合えるような雰囲気でもない。俺は気を取り直して、上に着ていたTシャツを脱ぎ捨てると、海パン一丁で、はしゃぐ三人のもとへ走って行った。
60/65ページ
スキ