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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「金剛……夏合宿、行きたくなかったら、全然俺に遠慮とかしないで。」

そう言って申し訳なさそうな顔をする早瀬。
バカか、俺。早瀬に気を遣わせてどうすんだよ。

……こんなんじゃ、駄目だよな。

小さく笑顔を作ると、早瀬の肩を軽く叩く。

「何言ってんだよ。行くに決まってんだろ。それとこれとは、別。俺は、お前と夏合宿楽しむつもりなんだからな。」

泣きそうな顔をした早瀬は、うん、と小さく頷いた。

そんな早瀬の顔に俺は思わず笑ってしまった。


教室に戻って、企画班の集まっている窓際の席に向かう。

今日は全体に人数が少なくて、教室内には十人弱しか居ない。企画班は、俺を合わせても三人だった。

「遅れてごめん。」

羽生に声を掛けると、お馴染みのふわりとした笑みでいいよ、と返される。

「今日は人数本当に少ないから、あんまり出来ることないと思う。どっちにしろ、明日、明後日と文化祭準備が無いからね。録音は週明けからだし、今日はのんびりやってるんだ。」

「そっか」

言って、俺は羽生の座っている席の隣に座る。
羽生の前には、企画班の一人である、眼鏡をかけた奴が座っていた。

羽生は机の上に、ナレーション役に読んで貰うための台本を広げていた。ほぼ出来上がってはいるが、修正を加えているらしい。

「ナレーションの子も休んじゃってるから、読み方の変更とかは、来週するしかないなあ。」

羽生はシャーペンで台本に書き込みながら、言う。

「あいつ、吹奏楽部だからさ、結構忙しいんだよ。」

斜め前の眼鏡をかけた奴が言う。

あいつ、とはナレーション役のことだろう。

「へえ、あの子吹奏楽部だったんだ。夏は忙しいだろうね。」

羽生は手を止めて、にこにこしながら言う。

「…羽生は、部活とかしてんのか?」

俺が聞けば、羽生はきょとんとした表情でこちらを向く。

「ああ、秘密の読書クラブだよ。俺は。」

「秘密の……?」

「あれ、金剛は知らない?秘密の読書クラブ。活動内容も、活動場所も解らない、っていう。人数が決まってて、入部希望者はその年の部長が厳正な審査をするとかなんとか。」

眼鏡をかけた奴がそう言って説明してくれた。変わったクラブがあるもんだな。初めて聞いた。

そいつの説明に羽生がくすくすと笑い出す。

「厳正な審査、なんて皆が勝手に言ってるだけだよ。ただ、部員の口伝てがなきゃ入れない、ってだけ。」

「おんなじようなもんだろ。」

「すっげー怪しい部活だな。」

俺が言えば、羽生は楽しそうにくすくすとまた笑った。

「そう言えば、矢倉もいねえよな。」

ちらりと教室内を見渡してみても、あのきりっとした仏頂面が見当たらない。

「あー、矢倉は本当は部活が忙しくて、文化祭準備なんて来る暇ないんだよ。けど、文化祭委員になったもんだから、大変みたい。顔には出さないけどね。」

羽生の、顔には出さない、という部分に思わず笑ってしまう。

「矢倉っちは、水泳部だっけか?」

眼鏡をかけた奴が言う。

「そうそう。大会とかで、いつも三番以内に入るらしいよ。」

「やっぱすげえな、矢倉。」

あの凄い体つきを思い出して、一人納得する。
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