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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

朝起きて、ぼんやりした頭で時計を見たら、10時を回っていた。文化祭準備は9時からやっているはずなので、完全に遅刻だ。

久しぶりに寝坊してしまった。昨日のバイト疲れが出たのと、寝付きが悪かったせいだろう。

今日も、文化祭準備に学校へ行って、その後バイト。夏休みはバイトを詰めている。最近学校が忙しくバイトを休みがちだったので、夏休みは入れるだけ入ろうと思ったのだ。

制服に袖を通しながら、姿見に映った自分を見つめる。

身長は相変わらず170半ばで止まったままで、カットに暫く行ってない金がかった茶髪は肩に付きそうな程伸びている。

「そろそろ、切った方がいいよな……」

傷んだ毛先をつん、と引っ張ってみる。適当に身だしなみを整えて部屋を出た。

久しぶりにリビングに入ると、明人がリビングテーブルで勉強をしていた。

「おはよ」

そう声を掛けて冷蔵庫に近付く。俺に気付いた明人が顔を上げた。

「あ、兄ちゃん!おはよ。今日学校なの?」

「うん、まあ。文化祭の準備。お前も、もう夏休みなのか?」

冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぎながら明人に聞く。

「うん、俺はこないだから夏休み。」

明人はシャーペンをかちかち、と鳴らしながら考え事をするように、視線を斜め上に向けた。
ごくごくと牛乳を飲み干しながら、明人を見やる。目の下の隈はまだ無くなっていない。

「ふうん。まあ、頑張り過ぎるなよ、色々。」

タン、とコップを流しに置いて口許を拭う。

明人はどこか心ここにあらずといった様子だったけれど、にこりと笑みを作って、

「ありがとう。ちょっと頑張ってみる。」

そう言った。


家に鍵をかけながら、明人のちぐはぐな回答に苦笑いする。
頑張るなよ、って言ってるのに、頑張ってみる、ってなんだよ。

少し頑張り過ぎるきらいのある弟が、心配だった。



―――――


夏の暑い日差しが首筋をじりじりと焼く。

日差しはきついけれど、さあっと通る風が涼しい。グラウンドでは野球部が練習している。その隣では、陸上部。50メートルのコースに等間隔に置かれたハードルを、Tシャツに短パン姿の生徒達が膝を高く上げて跳んでいく。

少し羨ましくなって立ち止まる。中三の時、道を踏み外さなかったら、あれを、出来ていたんだろうか。ずっと陸上を続けたままで、高校に上がってもあそこに居る奴等と一緒に、部活をしていたんだろうか。

……なんて、考えても仕方のないことだ。
今の自分に後悔はしていない。一つの道を選んだから、もう二度と通らない道が出来ただけのこと。その道が後になって、輝いて見えるのは、当然のことだと思った。

それに……考えないようにしていたことだが、中河のこともあるんだろう。それで、弱気になっている。

昨日も考えて、あまり、眠れなかった。自分にそんな弱い部分があったなんて、驚きだ。誰かのことを考えて、眠れない…なんて…

はあ、と短く吐いた溜め息は熱い空気に溶けて消えてった。
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