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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

どこかもやもやしたままで写真部を後にし、そのまま家に帰らずバイトをこなした。

先程店を閉め、赤津と分担しながら店内の清掃を行っているところだった。

せっせとモップで床を拭く赤津のTシャツを着た背中をぼんやりと見つめる。

「なあ赤津」

「はい?」

赤津は手を止めずにこちらを向いて不思議そうに首を傾げる。

俺はぼんやりと手にした布巾を弄りながら天井を見つめる。

「あー……いつも普通に接してた奴と、目が合わなくなったら、何が理由だと思う?」

「は?」

赤津は怪訝な顔で手を止め俺の顔を見る。

「えーと、圭介さん誰かに無視されてるんすか?」

無視……に、なるのか…?そこまで考えてなかった。

無視、という言葉に心にずしっと石が乗ったみたいに気持ちが沈んだ。
あれは、無視なのか……

「え、何落ち込んでるんすか?俺ヤバいこと言いました?」

申し訳なさそうに赤津は眉を垂らし、くりくりしたアーモンド型の目で俺を伺う。

「いや、何もねえよ。気にすんな。それより、それって……無視、されてるってことになんのか?」

赤津は思案するように、モップを両手で掴んで柄(え)の先に顎を乗せる。

「わかんないすけど……完全な無視じゃなくてただ目が合わないなら、何か相手と気まずいとか、隠し事してる、とかなんじゃないすかねえ。」


気まずい、ってのは、俺が告白してきたから、とかか?
でも、中河とあの後話した時は、そんな感じじゃなかったよな。
それに、あの中河が、気まずいからって理由で、あからさまに態度に出すか…?


なら、隠し事……か。

俺に話せなくて、しかも俺にバレたくないこと、なんて中河にあるのか?

うーん、よくわかんねえ。

「ちょ、圭介さん、ヤバいっす時間!掃除しましょ!」

赤津は忙しなくモップを動かし出した。

「あ、おう…」

結局考えてみても、わからないんだから、中河に直接聞いてみるしかないんだろうか。でも、上手くいかない気がする。聞いて教えるようなことなら、あんな風にならないんだろうし……

結局急かされるまま、掃除を終え、家に帰宅した。


最近は学校にバイトに忙しく、ほとんど家には寝に帰ってるようなもんだ。しん、とした家は、自分の家じゃないみたいによそよそしかった。

鍵を閉めてそのまま風呂に入る。日中汗だくになった身体に、冷たい水が気持ちいい。

ぼんやり水に濡れるタイルを見つめながら、今日久しぶりに会った中河のことを考える。


自分は、他の生徒より、少しは中河の近くに居るんだと思っていた。

中河は、俺の理解者で、俺のこと考えてくれて、一人の人間として認めてくれてて……って、

でも…全部、全部、独りよがりじゃねえか。

勝手に思って、勝手に信じて、

俺は、俺自身は、中河の何にもなれてない……


中河は、ただ単に、一人の生徒として接してただけなのに。
ちょっと手が掛かるな、くらいのもんだったのに……

俺が勝手に中河の近くに居られてる、なんて、勘違いして……!!

ただ、申し訳なかった。

勝手に恋愛感情なんて持たれて、勝手に信頼されて…

迷惑、だったよな……

降り注ぐシャワーの冷たい水が、俺の頭を冷やしてくれるような気がした。
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