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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

片付けが終わり、昼から部活の奴は部活へ、帰宅部の俺みたいな奴は帰る準備をしていた。

荷物を取りに来たのか相沢の姿が目に入って、思わず目を逸らす。

「金剛」

呼ばれて顔を上げると無表情の早瀬が近付いて来た。早瀬も片付けが終わったらしい。

早瀬の頬の傷はすっかり綺麗になり、幾らか表情もすっきりとしていた。

「今から部活行くんだけど、一緒に来ないか?」

「え、何で、」

「滋ー!って、あ!圭介久しぶり!!!」

騒々しい声に顔を入り口に向けると、原田が目を輝かせながら教室に入って来た。

「最近全然圭介に会えてなかったよな!俺も文化祭準備忙しくてさー。って圭介文化祭準備参加してるんだ!すげーじゃん!俺も圭介と文化祭準備したいし!文化祭お化け屋敷なんだよな?圭介何すんの?俺は喫茶店やるんだ、喫茶店!全員執事だぜー!執事喫茶!まあ一人だけ罰ゲームでメイドの奴がいるんだけど、ゴツ過ぎて全然似合ってねーの。俺ほんと執事で良かった!圭介も執事喫茶来てよ!俺頑張ってオモテナシするからさー!あ、滋部活行くー?」

「で、金剛、今日の部活なんだけどね、どうする?」

早瀬は完全に原田を無視してそう続ける。
いきなりの部活への誘いに、俺が行って何するんだ、とか俺が行ったって邪魔になるだけだろ、とか、早瀬は何を考えてるんだ、とか頭の中でぐるぐる考えていたけれど、

不意に中河のあの顔が浮かんで、きゅうっと胸の奧がつねられたように痛んで思わず眉をしかめる。

…会いたい。

会って、何でもいいから話したい。

声が聞きたい。顔が見たい。

俺の話を聞いて欲しい。

俺が文化祭の準備真面目に参加してるってこと、伝えたい。中河、何て言うかな。

早瀬は文化祭準備で忙しい俺を中河に会わせようとしてくれているのかもしれない。

「今日中河先生も来るよ?」

そう言って訳知り顔でにこりと笑う早瀬に俺は「行く」と即答したのだった。



何かと俺に絡んでくる原田と早瀬の三人で連れ立って廊下を進む。俺は初めて写真部の部室に行くことになった。

写真部は文化部の部室ばかりが入っている文化部棟の二階にあった。二階の一番隅の小さな教室が部室で、その隣の元々準備室だった部屋を暗室として使用しているらしい。

「あんまり綺麗な所じゃないけど、ようこそ、写真部へ。」

早瀬がそう言って引き戸を開けてくれる。

早瀬に頭を下げて戸を潜ると、がらんとした空間が広がっていた。普通の教室より一回り大きい程の部室は、壁半分が本棚になっており、外国語や日本語の様々な写真集が天井近くある本棚を埋め尽くしていた。

その反対側の壁には扉がガラスで出来た戸棚が置いてあり、様々な種類のカメラ達が飾られていた。中には年代物のようなものもあって、迂闊に触ったら大変なことになりそうだ。

奥の窓ガラスは全て真っ黒なカーテンで覆われ、光が完全に遮断されていた。
蛍光灯の白っぽい光に浮かび上がった部室内には理科室にあるような大きな白い机が真ん中にどん、と置かれその周りにぽつ、ぽつと椅子が置かれているだけで、他には何もない。
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