白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師
文化祭の準備は着々と進んでいた。俺は今のところ遅刻も欠席も無しで、そんな俺の真面目な様子にクラスメート達は徐々に俺を受け入れてくれるようになっていた。
「金剛、後で企画の方で話まとめるからそれ終わったら来て。」
段ボールを持って教室を出ようとしていた俺に企画班の一人がそう声を掛けてくる。
「あ、わかった。」
そう返事をして、買い出し係りの仕事中だったので、さっさと終わらせようと被服室に向かう。
結局数日に渡る話し合いの結果、お化け役は無くさず、別の形で使用することになった。
客に廊下で録音した創作ストーリーを聞かせる。声の少し高めなナレーションの上手い男子に一人語りさせ、どうか私の拾って来てしまった鍵を返してきて下さい、というものだ。
客は二、三人で一組になり薄暗い教室に鍵を返しに行く。
鍵を返す場所は決まっており、それをお化け役達が阻むという設定だ。
皆この案を気に入っているし、全員が文化祭を成功させようと一丸になっている。
被服室を開け教室に入って行くとお化け役のメンバー達が作業を進めていた。
「足りねえ生地持って来たー」
ダンボールを机に置くと数人が近付いて来る。
「サンキュ。毎回金剛だな。」
「あー、矢倉は文化祭委員もやってて忙しいからなあ。」
俺は苦笑いしながら頭をかく。
「んーまあ俺らも矢倉っちが来たら来たで困るけど…」
そいつも苦笑いしながら言う。何とも返しにくい内容だ。矢倉は堅物で、はっきりものを言うから一部の奴からは敬遠されていた。
まあはっきりと嫌われたりはないけど、話しにくい、とか冷たい、とかそんな感じだ。
わからないでもない。矢倉は人と馴れ合いとか好まないし、一人すーっと集団から離れて行ってしまう。
しかし俺は矢倉のそういう所も含めて、嫌いではなかった。
むしろ以前孤立していた俺と被って親近感を抱いてしまう。
そんな矢倉がどうも放っておけないでいた。
「おーい後30分で終わっからさっさと片そうぜ。」
そう皆に声を掛けて近寄って来たのは相沢だ。そういやこいつって矢倉が珍しく下の名前で呼ぶ唯一のクラスメートだよな。
「サンキュ金剛。」
何だか嫌みにしか見えない笑みを浮かべて相沢は俺の持ってきたダンボールを持ち上げる。
「…準備、進んでる?」
「まあまあだな。全員の衣装は決まったから、後は完成させるだけ。血糊とかで本格的にやろうって話も出てるし、完璧な衣装じゃなく雑でもいいかなって。」
相沢は鍵付き棚にダンボールを入れ鍵を閉めながら俺に振り返る。
「どした?帰んねえの?俺らもそろそろ片付け出すけど。」
さっさと出て行けよ、と言いたげに怪訝そうな視線で俺を見る。
「あ、いや……」
「何か言いたいことあんの?」
短気ですぐに悪い方に捉える相沢は、不機嫌そうにそう言い放つ。
俺と相沢の不穏な雰囲気に他のメンバーは片付けをしながら遠巻きに心配そうに見ていた。
「何も言いたいこととかねえよ。ただ、相沢と矢倉って仲良いんだなー、」
言葉の途中で相沢の表情が驚愕と怒りの入り混じった妙な表情に歪み、思わず口を噤む。
「お前には関係ねーだろ!」
しかし完全に相沢の機嫌を損ねてしまったらしい。相沢はそう叫ぶと、周りの制止も聞かずに俺を廊下に追い出してしまった。
仕舞いにはピシャン!と激しく扉を閉められて、俺は何が何だか解らないまま腹が立って教室に戻ったのだった。
「金剛、後で企画の方で話まとめるからそれ終わったら来て。」
段ボールを持って教室を出ようとしていた俺に企画班の一人がそう声を掛けてくる。
「あ、わかった。」
そう返事をして、買い出し係りの仕事中だったので、さっさと終わらせようと被服室に向かう。
結局数日に渡る話し合いの結果、お化け役は無くさず、別の形で使用することになった。
客に廊下で録音した創作ストーリーを聞かせる。声の少し高めなナレーションの上手い男子に一人語りさせ、どうか私の拾って来てしまった鍵を返してきて下さい、というものだ。
客は二、三人で一組になり薄暗い教室に鍵を返しに行く。
鍵を返す場所は決まっており、それをお化け役達が阻むという設定だ。
皆この案を気に入っているし、全員が文化祭を成功させようと一丸になっている。
被服室を開け教室に入って行くとお化け役のメンバー達が作業を進めていた。
「足りねえ生地持って来たー」
ダンボールを机に置くと数人が近付いて来る。
「サンキュ。毎回金剛だな。」
「あー、矢倉は文化祭委員もやってて忙しいからなあ。」
俺は苦笑いしながら頭をかく。
「んーまあ俺らも矢倉っちが来たら来たで困るけど…」
そいつも苦笑いしながら言う。何とも返しにくい内容だ。矢倉は堅物で、はっきりものを言うから一部の奴からは敬遠されていた。
まあはっきりと嫌われたりはないけど、話しにくい、とか冷たい、とかそんな感じだ。
わからないでもない。矢倉は人と馴れ合いとか好まないし、一人すーっと集団から離れて行ってしまう。
しかし俺は矢倉のそういう所も含めて、嫌いではなかった。
むしろ以前孤立していた俺と被って親近感を抱いてしまう。
そんな矢倉がどうも放っておけないでいた。
「おーい後30分で終わっからさっさと片そうぜ。」
そう皆に声を掛けて近寄って来たのは相沢だ。そういやこいつって矢倉が珍しく下の名前で呼ぶ唯一のクラスメートだよな。
「サンキュ金剛。」
何だか嫌みにしか見えない笑みを浮かべて相沢は俺の持ってきたダンボールを持ち上げる。
「…準備、進んでる?」
「まあまあだな。全員の衣装は決まったから、後は完成させるだけ。血糊とかで本格的にやろうって話も出てるし、完璧な衣装じゃなく雑でもいいかなって。」
相沢は鍵付き棚にダンボールを入れ鍵を閉めながら俺に振り返る。
「どした?帰んねえの?俺らもそろそろ片付け出すけど。」
さっさと出て行けよ、と言いたげに怪訝そうな視線で俺を見る。
「あ、いや……」
「何か言いたいことあんの?」
短気ですぐに悪い方に捉える相沢は、不機嫌そうにそう言い放つ。
俺と相沢の不穏な雰囲気に他のメンバーは片付けをしながら遠巻きに心配そうに見ていた。
「何も言いたいこととかねえよ。ただ、相沢と矢倉って仲良いんだなー、」
言葉の途中で相沢の表情が驚愕と怒りの入り混じった妙な表情に歪み、思わず口を噤む。
「お前には関係ねーだろ!」
しかし完全に相沢の機嫌を損ねてしまったらしい。相沢はそう叫ぶと、周りの制止も聞かずに俺を廊下に追い出してしまった。
仕舞いにはピシャン!と激しく扉を閉められて、俺は何が何だか解らないまま腹が立って教室に戻ったのだった。