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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

理科準備室に行く前に購買でパンを2、3個買った。
理科準備室の扉を開けると、中河は弁当を食べている所だった。
プラスチックに入った、学食で販売している幕ノ内弁当。

……結婚していないのか。

俺を振り返ると、座れ、と隣の椅子を引く。


「なんだ、見かけと違って小食なんだな。」


中河は俺の筋肉の付いた二の腕やらを見ながら、目をぱちくりしている。

大人なのに、行動は子供みたいだ、と思った。


「お前、あそこの冷蔵庫にお茶入ってるから飲め。」

中河はそう言ってまた弁当を食べ出した。

この呼び出しは一緒に弁当を食べるだけ、とかじゃないだろうな、と疑いながらも冷蔵庫の中から缶の緑茶を取り出して大人しく椅子に座った。


俺がパンを食べ出すと、早々に食べ終わったらしい中河はテキストを出してぱらぱらとめくっている。

しかし昨日会ったばかりの物理教師となんで飯食ってんだろ、俺。

食べ終わりゴミを捨て、また椅子に戻る。

この呼び出しってどの位かかんのかな、終わっても煙草吸いに行く時間あるかな、と考えてたら中河が話し出す。

「考えたんだが、昼休み、お前に物理を教えることにする。」

「はあ?」

俺の声にも気にせず涼しい顔で中河は続ける。眼鏡が嫌にむかつく。

「お前、物理このままじゃ0点確実だぞ。一年の時は平均点は取ってたんだから、一応知識はあるだろ?だから…」

「いや待てよ。そんなのいらねえよ。」

「逃げんのかよ。」

その一言にかちんと来た。何も知らない癖に勝手に出てきてぐちゃぐちゃ言いやがって。
ぐっと我慢していると中河がたたみかける。

「お前一年の時はまあまあ頑張ってるじゃねえか。親に迷惑かけないでおこうって気はあんだろ?でもこのままじゃ留年確定だぞ。全く授業も出ないってどういうことなんだ。」


ぎりぎり、と奥歯を歯ぎしりする。

「……っるせえな。物理が嫌いなんだよ。」

はっ、と中河は笑う。

「違うな。前の晩に遅くまで働き過ぎなんじゃないのか?」

「……なんでそのこと、」

「こないだの晩、居酒屋の裏で煙草吸ってるお前見かけたんだよ。」

にやりと、大人の意地悪い笑みを浮かべた中河は、冷や汗をかく俺を見ている。

「お前知ってるよな、この学校がバイト禁止なの。生指(せいし)もお前の髪とか格好とかどうにかさせたいっつってんだよな。お前がバイトしてる、って知ったら軽くても停学にはするだろうな。」

「………」

まずい。バイトを始めて半年、最初の頃こそ教師に見つからないようにと気を張っていたが、気が緩んでしまっていた。
……どうすれば……。停学なんて困る。こんな格好して、煙草吸って、今更何を困るっていうのかわからない。でも、親にだけは……。


「どう、すれば……」

中河はにこり、と笑った。
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